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らぼライブ17

顔を合わせる人みんなを抱きしめたくなった1日が、酩酊の間に終わっていた。祭囃子がまだ耳に残る2日すぎた朝に、これを書いています。

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4月。好きな人たちが出るライブをふらっと見に行ったら、まんまと心奪われ、ステージに恋をした。それはもう、青天の霹靂だった。こんな身近に魔法がかけられる場所があったなんて、とときめきが抑えられなくて、私も出たーいなんて呑気に憧れを募らせていた。言わば推しとされる人を見に来ていて、ハートを射抜かれてしまったのが事の始まりなんだけど。恋は稲妻、衝撃は凄まじかった。

とは言え、場数が少ない故に自信はなく、次回開催の7月には出るつもりがなかった。1年、経験を積んでうんぬんかんぬんと考えていたから。既に、あのライブが神聖なものとして捉えていた分、慎重でいた。そんな私のこころはつゆ知らず、周りの人はいけいけどんどんで、反比例して私はなお一層尻込んでいた。私の心を撃ち抜いた張本人からも、顔を合わせる度によいではないかよいではないかだったけれど、そこに乗っかる勇気はなかった。

憧れだけが宙ぶらりんの初夏が過ぎていく日々が、そう遠くない日に終わるとは思ってもみなかった。「ここで出なきゃ口だけになる、ずっとそのままでいいの?」友達が、真っ直ぐ目を合わせて言うもんだから、私は心も目も逸らせなかった。彼の陽射しのようなたくましさが、その日から焼き付いて離れなくて。自ずと、出たいが出るになっていた。自身の心の変化に気がついた夜、はじめて、出ようよの誘いに頷いたのだった。

私にとって、もう既に大切で神聖なステージになっていて。だからこそ、そこに道連れにしたい人、姉さんがいた。

私が今、友達と手を繋いでいられるのは、姉さんがいたから。別府のライブイベントを教えてくれたから、今の演者としての私も、友達と酒盛りして酔っ払う私もいる。この大きなライブに繋がったその根本に、彼女がいたから。誘ってくれた、なんて姉さんは言うけど、はじめはあなたがここまで連れてきてくれたからなんだよ。だから次は、私が姉さんに見せたい景色を、一緒に見たいと思ったの。

それからは、仕事の行き帰りの車内は必ず練習をした。緊張で歌詞がぶっ飛ばないように、声が裏返らないように。1週間に1回は、25時に仕事が終わって、そこから7時8時までカラオケに入り浸るようになっていた。姉さんと合わせる日も勿論あって、「本番、だいじょぶかな?」「まあうちら最強だしよ」の会話がお決まり。姉さんへの絶大な信頼で、不安に思うことはさほど無かった。入道雲に見惚れる度に、ライブが近づいているのを感じて。

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前日、仕事の疲弊があるにも関わらず、ひとつも眠れないでそわそわしていた。明日はこうしたい、明日はお酒たくさん飲みたい、明日はあの人に会いたい、明日は、明日は。水浅葱の空、いよいよ明日が今日になっていく。珍しくベランダに出て煙草を吸った。

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現場到着、姉さんと合流して、友達や他の演者さんが続々とやって来た。ライブハウスの埃のにおい、セッティングの様子、ここにいる全ての人たちの呼吸が今日という日の輪郭を描き始めていた。出番が早い人ほどリハーサルの順は遅いはずなのに、あっという間に回ってきた。4月、恋焦がれたステージに立っているのが嬉しくって、ついキョロキョロしてしまっていた。

あれ。

あれ、でもなんで、

歌詞が喉の手前で出てこないんだ。

リハーサルで歌詞が飛んだ。最初の1文字がなんだったかもまるで出てこない。やば、油断したらこれ泣きそ、あっやば。ランチ返上、視界を狭めてすぐさま歌詞を叩き込んだ。あんなに練習したのに、これで大ゴケしたら立ち直れない、と目頭が燃えるのを知らん顔して。バーカウンターが開いて、これまたすぐさまお酒を飲んだ。何せお酒は力、私の緊張を解くのはいつだってお酒、勝たんしか酒、君しか信じられない、ずっとそばにいて。ほろ酔いで出来上がり始めたのは、出番直前の舞台袖。ピーチウーロンのピーチがしつこく残っていた。一抹の緊張はあったけれど、姉さんを見たらなんかなんでもよくなって、でもなんかちょっと泣きそうで、チューのひとつやふたつしちゃおっかなとか思ったけど、本番前に殴られるのは勘弁だったから、やめた。グータッチにありがとねも好きだよもがんばろーねも込めて、夢にまで見たステージを歩んだ。

ステージから、大好きな人達の顔が見えた。私の背を押してくれた人も、きっかけをくれた人も、みんな見えた。きっとこの中にも、大好きになる人がいるんだろうなって、楽しみが込み上げてしょうがなかった。何より、姉さんが隣で笑ってくれるのが歌ってくれるのがうれしくって、4月見たきらきらがまた帰ってきた。幸せの最中、必ず死にたかった時期を思い出す。あのとき、死んでなくてよかった、生きることを諦めなくてよかった。生きてりゃいいことある、は賛否両論で結果論でしかないけど、生きてりゃいいことあった。母さんが私を生かしてくれたから、生きる理由を最初にくれたから、私あたし今ここに。セットリスト3曲はシャボン玉の一生さながら、すぐに弾けて終わった。目も当てられないほどのミスもなかったし、歌詞は間違えたけどそこはもう、楽しかったから許して。姉さんも笑ってたから、良いんだと思う。

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他の演者さんのステージも、ハチャメチャにかっこよくてかわいくって面白くて、最高を紡いでくその時間が眩しかった。お酒が美味しくてつい飲みすぎて、ちょっとだけ寝た、もったいない。はじめましても久しぶりも、たくさんの人とお話した。小学校からの仲の子が来てくれていて、長いこと思い出話をした。私たち、大人になってから飲みに行ったことないね、行こうねって約束をした。

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終演、集合写真、ありがとうのこうかんこ。ライブハウスを出るのがほんのり寂しかったけど、外に出ればみんなが居た。夜風がぬるくて、煙草の煙がいつもよりゆったり流れていた気がする。一瞬の寂しさは紫煙とどっか行って、打ち上げで頭いっぱいだった。お話したい人がたくさんいたし、何よりまだ飲み足りなかったし。

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みんなでおにぎりを食べて、おいしいね疲れたねって話す。修学旅行の夜みたいだよね、って話したら、それはあんたがセーラー服の衣装着てるからだって返ってきた。そんなことばっかり話してまた笑って。私の背中を押してくれた子に、ありがとねも言えた。大真面目に、顔と顔を合わせてありがとうを言うのは、シラフだと少し恥ずかしいから。お酒の力を借りて、話したい事は話せたけど、推しとはどうしても話せなくてやっぱり困った。ちゃんと話せるようになるまで勘弁してください。どう考えてもかっこよすぎるのが悪いと思うので、どっこいだと思います。

今まで過ごした夜の中で、こんなに美しい夜はあったかな。みんなが笑ってるのが1番だよ、私が笑ってるのが1番だよ。おにぎりおいしかった。

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あの日はきっと、走馬灯に出てくるくらい、忘れられない忘れたくない日だった。ありがとうと好きだけが溢れこぼれて、1日が満たされた。ここに来るまで、決して楽な日々じゃなかったけど、生きてこられて、皆と会えてよかった。まだ見ぬ好きな人に会いたい、まだ見ぬ景色を見たい。これからもよろしくねを込めて、おしまい。

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setlist
PLATONIC GIRL∕みきとP
少女レイ∕みきとP
太陽系デスコ∕ナユタン星人

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運営・スタッフの方々、演者の方々、
見に来てくださった方々、全ての方へ
心からの特大感謝を申し上げます。
お疲れ様でした。
出させていただいて、ありがとうございました。