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「傷ついた分、人に優しくなれる」論

結論からいうと私は他人に関心がないし、困っている人がいても積極的に助けたいとは思わない。薄情と思われて構わない…というか、実際に薄情な人間なので仕方ない。私は世の中にある「こういう人であるべき」という雰囲気に屈するのをやめた。

私自身、長い間ひどい傷を抱えたまま生きてきた。ゆえに、似たような境遇の人に出会えばその人の気持ちを汲むことができる。ただそれは同時に、自分がやってきた「己と向き合うことで、問題を解決させられる」という真実を突きつけたい気分にさせる。しかし、多くの場合その手の話は拒絶される。優しい言葉をかけてほしい人に、優しい言葉だけをかけることは、私にはできない。虫歯が痛いと嘆くのであれば、私は鎮痛剤を渡さずに歯医者に行こうと提案をする。

つらい体験をした人や傷ついたことがある人は、その分他人に対して優しくなれる、といった言葉はよく耳にするし実際その通りだと思うが、それによって「誰かに優しくしなくてはならない」「困っている人がいたら助けなくてはいけない」と、必要以上に駆り立てられる必要はない。世の中には沢山の「助けてほしい」と思っている人がいるようだが、その多くが本質的な改善を求めているとは限らない。

私は、鎮痛剤を渡す役目はできない。虫歯が痛むのなら、思い切って歯医者に行く。そういった覚悟ができた人間だけ、私のところに来てくれたらと思う。

三月三十一日 戸部井