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【社会起業家取材レポ #22】音楽を通じた共生社会の実現 ~視察レポート編~

SIACの学生が東北で活動する社会起業家の取り組みを視察・取材する「社会起業家取材レポ」。今回は、SIA2022卒業生の野崎健介さんのもとへ視察に伺いました!

インタビュー編はこちら


野崎健介さんについて

株式会社ゆらリズム代表取締役。大学卒業後、就職して企業の営業コンサルなどを経験。数年間の準備の後、2011年3月に株式会社ゆらリズムを創業。その直後、東日本大震災で被災。音楽リハビリデイサービス事業の運営が難しくなる。事業継続のため、「講師派遣事業」や「研修事業」といった新規事業を開始。現在は、主に仙台市泉区南光台地域で「介護予防型音楽リハビリデイサービス」「放課後等デイサービス」「派遣研修事業」「海外協力事業(JICAとの連携)」などの事業を行っている。音楽を通して、年齢・性別・障害・国籍などの”バリア”を”フリー”にする「共生社会の実現」を目指している。

"音楽"で健康も生きがいも

「音楽で健康も生きがいも」をスローガンに高齢者から子どもたちまで様々な属性の方に向けた事業を行う野崎さん。はじめに、そんな野崎さんが行っている事業について紹介します。

・介護予防型音楽リハビリデイサービス

高齢者に向け、音楽と介護予防を組み合わせた独自のプログラム(音楽リハビリ)を提供するデイサービス事業。演奏やコーラス、リズム運動など音楽を通してリハビリを行っている。

・放課後等デイサービス

障がいをもつ子ども向けの通所支援事業。学校や家庭とは違う「第3の居場所」として楽器演奏やダンスなどの活動の他、工作や外出イベントなども行い、子どもたちの可能性や自己肯定感を高める取り組みを行なっている。

・派遣研修事業

音楽リハビリのノウハウを活かし、介護予防教室や介護施設、児童福祉施設などへの講師派遣や研修を実施している。

・海外協力事業(JICAとの連携事業)

JICA(国際協力機構)の協力を得て実施している研修事業。ブラジルやメキシコなど南米各国から、大学教授や医療福祉従事者、音楽家などが、ゆらリズムの音楽リハビリを学びに来訪している。

誰でも"音楽"を楽しめる工夫

今回の視察取材では、はじめに介護予防型音楽デイサービス事業(音楽リハビリデイサービスゆらリズム南光台店)を訪問。実際に利用者の皆さんが音楽リハビリをしている様子を見学させていただきました。

トレーナーさんのキーボードの音に合わせて、赤とんぼなどの秋の歌の演奏と合唱を行う利用者の皆さん。よくみると各々違う楽器を演奏していました。これは、自身のレベルに合わせて参加できるようにしているからだそう。弦楽器やキーボード、ハーモニカ、それらの楽器の演奏が難しい方には、マラカスやハンドベルなどの楽器もありました。ちなみに、これらの楽器は福祉楽器と呼ばれるものを使っているといいます。例えば、一か所を押さえるだけでコードが弾ける「ブンネギター」という福祉楽器を導入しています。

また、楽譜にも工夫がありました。ゆらリズムさんでは、音符を使わない代わりに数字や色を使って楽譜を作っています。これまでに200~300曲ほどの楽譜をオリジナルで作成したそうです。この楽譜にもレベル分けがあり、自身のレベルにあったものから始められるようになっています。

1人1人に合った形で音楽を楽しみつつも、他の利用者さんと一緒に、演奏・合唱することができるため、一体感や達成感を得ることができるよう工夫されていると感じました。また、利用者の皆さんは、終始楽しんでおられる様子でリハビリの一環であることを感じさせない印象でした。これまで音楽、特にも楽器の演奏といえば楽譜を覚えたり、たくさんの練習が必要と思っていた私たちにとっては、誰でも音楽を楽しむことができるゆらリズムさんの工夫の数々に驚きの連続でした。

今回は、見学することができませんでしたが、音楽のリズムに合わせた運動やヨガも行っているそうです。

"音楽"で子どもたちも笑顔

その後、少し離れた場所にある放課後等デイサービス事業(放課後等デイサービスゆらリズム2号店)に訪問させていただきました。

玄関をくぐると、目の前には子どもたちの写真や作品がぎっしり貼ってありました。施設外での遠足やお祭りなどの行事も多いのだそうで、様々な場所で撮られた子どもたちの楽しそうな様子が収められていました。施設内部は複数の部屋に分かれており、子どもたちの特性によってクラス分けがされていました。クラスごとに活動内容も違っているようでした。

また、活動の終盤には、ハロウィンイベントが近日あるということイベントに向けたダンスの練習をクラス横断していました。スタッフの方々は、若い方が多く、学校の先生のように指導するのではなく、子どもたちと一緒に踊っている様子は印象的でした。また、ただ楽しませるだけでなく、家に帰ってからのテンションのコントロールのためクールダウンの時間を設けるなどの工夫も見られました。

交流を生む"音楽"

今回の視察を通じて、ゆらリズムさんの事業の軸である「音楽」は、利用者↔︎利用者、スタッフ↔︎利用者の交流のツール(=共通言語)になっていると感じました。

介護予防が目的のリハビリデイサービスにおいても、「音楽」を通しての交流により利用者が繋がりや生きがいを感じられるものになっていました。実際、演奏プログラムを見学させていただいた際に、曲が作られた年代についての話になり、世代の異なるトレーナーさんと利用者の皆さんが盛り上がっていました。「音楽」を通して過去の思い出を振り返ることができるのも、認知症予防になるのだそうです。

また、「音楽」は、高齢者の方々と子どもたちとの交流のツールにもなっています。ゆらリズムでは、介護予防型音楽リハビリデイサービスの利用者と放課後等デイサービスの利用者とで、月に一回ほどのペースで季節に応じた合同イベントを行っています。それぞれがこのイベントのためにダンスや演奏を練習して、成果を発表します。視察した当日も、放課後等デイサービスでイベントのためにダンスの練習をしていました。

視察を通して

今回ゆらリズムさんへの視察をさせてもらい、介護・リハビリのイメージが変わりました。正直、介護施設やリハビリ施設は暗いイメージがあったので、利用者の方々がみんな笑顔で笑い声が聞こえるゆらリズムさんは素敵な場所だと思いました。それと同時に、多くの人に"音楽"の楽しさを伝え、生きがいを育むことを実現している野崎さんの事業にワクワクと可能性を感じました。

また、健康・生きがいづくりには、主体性・能動性が必要であることを学びました。これまで、介護やリハビリとは助けてあげることだと思っていましたが、それだけでは本当の意味での健康・生きがいはつくれないのではないかということです。気持ちの面(心)の健康も大切だということに気づくことができました。

(佐々木栞)

視察を通して、ゆらリズムさんが織りなす空間がとてもアットホームであったことが印象的でした。リハビリにおいて避けられないと考えていた「辛さ」は、全く感じられず、皆さんとても楽しそうに活動していましたし、リハビリ後のティータイムの時間などで談笑している様子も暖かい気持ちになりました。

また、野崎さんとのお話を通して、震災などの影響を受けながらも、諦めずに挑戦を続ける野崎さんの強い信念や姿勢に触れることができました。そのような姿を参考にして、私もどんな状況でも自分にできる最善の手段を見つけだし、折れずに挑めるようになろうと思えた取材でした。

(吉田泰翔)

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