見出し画像

カメレオンズ・リップ

2021年KERACROSS 第三弾となる『カメレオンズ・リップ』の、私の脳内駄々洩れな感想文です(後半ネタバレあり)。

この作品、いろんな解釈がいっぱい出そうで、それぞれの解釈を聞いてみたかったのですが、コロナ禍の下、終演後どなたともお話させていただくことができなかったので、「私はこう思ったよ」「そこはこういうことだと思うのですが」などコメントしていただけると物凄くうれしいです。
※2021年5月27日、限定編集版の配信を受けて追記しました。

2021年4月4日(日)13時 @THEATRE1010

2004年初演は未見につき、今回ほぼすっぴんの状態で臨むべく、事前情報はあまり入れないようにしました(演劇系の雑誌にはざっと目を通したけど)。
チケット引き換え時点で、1階センターブロック後方というのはわかっていたので、表情を見るならオペラグラスが要るなぁ…と思い持参しましたが、この日はオペラなしで十分、というか、セリフを含む情報量が膨大で逃すまいとしてたら、オペラ使ってる間がなかった、という結果になりました。

観終わった直後「猛烈に感性揺さぶられました」とツイートしましたが、ああ呟くしかないくらい、感情があちこちぐるぐるした状況で、帰りの新幹線内でも、帰宅しても、そして数日経っても、ふと「あれは一体…」と考えてしまい、これは何かと大変な作品なのかもしれない、と思うように。
語彙が乏しくて恐縮ですが、相当ヤバい…としか言いようがなく、それくらい気持ち持っていかれたのが凄く久しぶりで、アホほど忙しい時期じゃなくて本当によかったです。

なお、公式サイトには「甘美な騙し合いが交錯するクライム・コメディ」とありますが、個人的にはコメディという感じが全然しなかったです。周りの方は笑っていらしたので、私の感じ方のほうが少数派なんだと思いますが、何ていうか、笑う箇所でも可笑しさ100%ではなく、仄暗さが根底に漂ってる感じで、ひたすら哀しかったです。

演出の河原さんが仰る通り、洸平くんの持つ弟感と生駒ちゃんのお姉さん感が見事にマッチし、他のキャストの方々も大熱演で、物凄い化学反応が起きています。この後、回を重ねるごとにどう変化していくのか、そしてそれを観た私はどう感じるのでしょう…。

2021年4月24日(土)13時 & 25日(日)13時 @シアタークリエ

当方、関西からの東上組につき、東京での用事はまとめてこの週末で済まそうと、23日のお昼前に東京入りし、用事を済ませてスマホをチェックしたら、25日から緊急事態措置が取られることが発表され、大阪公演の中止を東京滞在中に知ることに。

とはいえ、23日付事務連絡に基づき、シアタークリエの公演は予定通り上演されることが決定したため、持っていた2枚のチケットを活かせることができたのはラッキーでした。しかも24日はどセンター、25日は上手最前列というありがたい席だったおかげで、4日とは違った景色を観ることができました。

結果、私にとっては、この作品、残酷で哀しくも美しい愛の物語でした。笑えるシーンも散りばめられているけど、哀しみも一緒についてくる感じ。周りはかなり笑い声があがってたので、やはり私の感想はかなり少数派なんだと改めて思っていたのですが、「そもそも『クライム・コメディ』というのが『嘘』なのでは?」とコメントされてる方がいらして、そのコメントが物凄く腑に落ちました。まんまとそのコピーに「騙されて」しまっていたのかもしれないです…

ここからネタバレ含みます

初見の時にいろいろ見逃していたことが、複数回観たことで、少しクリアになりました。初見で気づいた方々マジ素晴らしい…(いや、私がポンコツなだけ)

・エレンデイラが、ナイフ達が送り込んだセルマでない件。結末を知った状態で観ると、比較的早い段階でビビがエレンデイラに向かって「あなた…セルマ?」と尋ねていたり、ナイフも「お前はなんだ?」と問いかけてたりとかで、フラグ立ってたんだなと気づけたんですが、ポンコツ頭では一見で情報整理できず、気づくの難易度高いです…
・二幕のポルターガイストのシーン、ついつい板の上の人たちを観てしまっていたけど、下手側にちゃんと映ってて、結構怖い…
・ラスト、ルーファスを抱きしめるドナは儚く美しくて、ピエタ像のようでした。そして、霧雨の中、子供の頃のように走り回る二人が幸せそうで、もしぞやこれはハッピーエンドなのか?と思ってしまうくらい…

ということで、この姉弟が背負ってきたものに対し、終盤ただただ涙しておりました。

出演者個別の印象ですが、

ドナ/エレンデイラ:生駒里奈
とてもチャーミングなドナ/エレンデイラを作り上げてて、「ギガちゃんの声のコ」から全然Updateされていなかった私にとって、目から鱗でした。冒頭のルーファスがドナを回想するシーン、佇まいがしっかりルーファスのお姉さんでビックリ!あと、乃木坂創設時のセンターだったのもすごく納得…うまく言えないですが、つい目で追ってしまう何かがある、そんな感じでした。それに、喉すごく強いのかな?最後までずっと鈴を転がすような愛らしい声でした。

ガラ:ファーストサマーウイカ
ウイカちゃんの演技はおちょやんのアレしか見ていなかったので、私的には未知数だったのですが、ガラの抱えている切なさが痛いくらいに伝わってくる演技でした。ナイフのドナに対する想いに気づいているから、ナイフと一緒にいてもどこか淋しくて、それ故チッチモンドくんに吐き出すことでバランスとって生きてきたのかな…エレンデイラがセルマでないとわかっても、目の前にいるのはセルマだと自身に言い聞かせてたし。それ故、チッチモンドくんが燃えてしまうシーン、客席側で観ていてもの凄く辛かったです…

ハッケンブッシュ:坪倉由幸(我が家)
今回坪倉さんの演技をみて、(アンジャッシュ児嶋さん・東京03角田さんなど)コント演っている方々って、ちゃんとお芝居できるんだよなぁと改めて思いました。程よく醸し出される胡散臭さのおかげで、クスッとさせられることもあるのですが、胡散臭いおかげで、ラスト嘘からの種明かし部分でシリアス度が重くのしかかってくる感じでした。

シャンプー:野口かおる
独特の声でのエキセントリックなお芝居がベースですが、時折出る低めの声のトーンと抑え目の演技の落差がすごくて、いろいろヤバい人だぞコレは…って早々に刷り込まれました。がしかし。ドナへの気持ちが噴き出すところでは、シャンプー、騙されても騙されても、殺したいくらいにドナのこと好きだったんだな…と切なくなりました。

モーガン:森準人
このメンツで一番クセのない・でも何かと貧乏くじ引くキャラがぴったりで、ああいるわこんな人感が満載でした。あと、出てきただけで笑い持っていけるなんてズルいなぁ。珍しい鳥の鳴き声も森さんだったそうで(ソース:大楽のご挨拶)。後日、おちょやんのあの監督さんだったと知りましたが、全然結びついてなかった…俳優さんってホントすごい

ビビ:シルヴィア・グラブ
歌わないシルヴィアさん、私的には初めましてだったかも。ある意味一番セコい役を、ご自身が持っていらっしゃるゴージャス感と迫力で、カッコいい女性に仕立て上げていたのはさすが。おそらくこの後もビビはしぶとく生き延びていくんだろうな…

ナイフ:岡本健一
前半はコメディパートが多かっただけに、ガラの病気が深刻だとわかってからの、彼女を失いたくないが故にうろたえる姿が切ない。振り返ってみると、ナイフはドナのこともガラのこともちゃんと愛していたんですよね。なのに、ドナは失踪するし、ガラはナイフが戻ってくる前に逝ってしまうし、あまりに残酷な結末しか待っていないのは気の毒すぎる。あの後どうなってしまうんだろ…ナイフに哀愁と枯れたかっこよさを纏わせたのは、さすがオカケンさん!と思いました。

そして、ルーファス:松下洸平
ルーファスって、基本的にはドナをはじめとする人たちに翻弄され揺れ続けているキャラだけど、「ドナ/エレンデイラとの聖域」を守るためなら、踏み込んでくる人たちは全て排除したいんですよね。それ故、終盤、何の躊躇いもなくハッケンブッシュに銃口を向け、脱出しようとするモーガンを一気に射殺する…。
洸平ルーファス、キャラの濃い人たちにナンダカンダと振り回されて困っているかと思えば、ライフル銃を手にしてからはそれまでとは全く違う狂気を纏うし、エレンデイラの告白を聞いている姿は、姉の帰りを信じて待っていた愛らしい弟そのもので、このあたりの演じ分けが見事だったと思います。
本作を観るまで、本来はスリル・ミーの「私」のような立ち位置が一番収まりがいいのかな?と勝手に思っていたのですが、幕が上がると、第一声で場の空気をかっさらっていく、立派な座長がそこにいました。よく考えたら、先日のコンサートでも、登場の瞬間、場内を一気に洸平くん色に染めていくあの感じは、どう考えてもよう考えても、完全どセンターの人なのに…。

謎もしくは嘘(?)の考察(というほどではないけど…)

・ドナが息をするように嘘をつくようになったのは、実母がわずか4歳のドナに実父と愛人殺しの罪を被せたから?実母からドナへの虐待も原因?
・ドナが失踪したのは何故?ナイフの「あいつ(ドナ)は俺を愛していた」というセリフから、ドナとナイフの結婚生活は悪くはなかったはず(少なくともナイフ自身はそう思っていた)
・↑ っていうか、もしぞや、ナイフを愛していたふりをドナはとっていたの?
・ナイフのエレンデイラに対する「お前はなんだ?」は、自分が送り込んだセルマを疑っているということなのですが、「もしかして…ドナか?」と気づいてる?
・地下にあった2つの死体のうち、白骨化したほうはルーファスが毒殺したと考えられる実母で、もうひとつはセルマと思われるけど、エレンデイラ(ドナ)がセルマと入れ替わったのはどの段階?

など、わからないことは数多残っているけど、それ以上に、姉弟がお互いだけを信じ、寄り添って生きてきたことを思うと胸が痛みました。

配信、もちろん観ますが、私のスカスカな頭で更なる謎の解明はできるのか!? もっと謎が深まるのでは!?と思う一方で、あの姉弟の儚くも美しい姿をもう一度観れるなら、もう謎のままでもいいかな…という気がしてきています。

以下、大千穐楽の各演者さんのステキコメントです。

追記(配信版観て気づいたこと、深みにはまったかもしれないこと)

改めて配信を観て、舞台って一期一会なものだなと痛感した一方、配信版だと、ポイントとなりそうな場面でキャストをアップで抜いてくれるので、話の筋が追いやすいというメリットがありました。劇場だと、どうしても推しの一挙手一投足に注目しがちなため、他キャストの細かい動きを見落としていたりセリフの聞き逃しがあったりで、「いやもう何観てきたんだ私…」とげんなりもしました。
この時点で謎なものは、もう謎のままでいいんだろうな…

配信 Thank You だった点について
・ナイフがガラの手を握りながらルーファスに向かって言う「こいつのことはもちろん愛してるさ」ガラ「愛されています」の件、ナイフがすっと手を離した後のガラが「愛されています」とは全く裏腹な表情で切ない
・1幕途中、煙に巻いた~追いかけっこの件、エレンデイラがあんなに表情豊か(というか、ちょいちょいドナが漏れている?)なのに気づいてなかった…例えば、ルーファスが「(ドナが)…戻ってくるよ」って言った時のエレンデイラの嬉しさが漏れたような微笑みとか。
・ルーファスに向かって「踊って」と言っておきながら、そのダンスを見て「くそダサい」と言い放ったエレンデイラに対し、「この野郎」「ほら捕まえた」で後ろから抱きしめるルーファスが男臭くていい。ルーファスというキャラクター上、男臭さを感じたのは(私的には)このシーンとラスト銃を手にしてからの狂気を孕んだ表情くらいだったかな。
・1幕2階のバルコニーの場面、シャンプーの「死ぬの?私…」の言い回しに、一瞬ルーファスの仮面が取れて笑っている座長。スポットはシャンプーに当たっているので、遠目だと、客席に見せている左後ろ側は影になってわからないのに、配信用にズームで撮られてしまう(ファン的にはありがたかった)ちょい太発動

・2幕途中、電車でのエレンデイラとの出会い~屋敷に連れてくる経緯から過去何が起こったのかをルーファスがエレンデイラに話す件、話しているうちに熱が上がっていくルーファスと対照的に、俯いたまま感情を押し殺して「エレンデイラ」という仮面を被り続けようとするドナ
・その後の「泣いてないわ」「雨よ…もう止んだ」の言い方で、エレンデイラの仮面が一瞬取れたのがわかる
・その直後、ナイフが会話に入ってきたことで、一旦エレンデイラに戻るも、ナイフから「お前はなんだ?」と言われた時も、エレンデイラの仮面が取れかかっているのかな…と思ったり。
・ハッケンブッシュのキャラが、劇場で観たよりずっと胡散臭いことが発覚。ハッケンブッシュが手を怪我した時、エレンデイラに囁いていた言葉と「よりによって」がやっとちゃんと繋がった…(時間かかり過ぎ)
・ラスト、戻ってきたナイフと話す際、お互いの腰に手を回して寄り添うルーファスとドナの後ろ姿から、二人の結びつきの強さと思いの深さを改めて感じる

新たな謎だったり、解釈が迷うコトについて
・1幕途中の抱擁(ハグと言うより、もっと匂い立つ感じ)時点では、ルーファスはエレンデイラがドナだとまだ気づいていない?
・ハッケンブッシュは何故最初から人を狙って発砲したのか?初登場場面、トラブってはいたけど、空砲でもよかったのに
・1幕でのビビの幽霊に向かって話すシーン、下手側の2階の窓にうっすらシルエットが映ってたと思ったのですが、配信では2階の窓は映っておらず、真偽のほどは謎のまま
・ルーファスは「姉貴は(シャンプーのことを)嫌ってた」と言ってたけど、ドナ自身はシャンプーに対し、嫌うというより「何故シャンプーはこんなに私を信じてくれるのか」と戸惑っていたのでは? 誤ってガラを撃ってしまい気が動転しているシャンプーに対し、「私を殺したかったのね…」と切ない表情を浮かばせるあたり、嫌っていた訳ではなく、(ルーファス以外の)第三者に好意を寄せられても、どう向き合っていいのかがわからなかったのでは?
・この後、銃を手に取った時のルーファスはどんな表情だったのか? 今回の配信で、銃声が2発とハッケンブッシュが言っているのを確認できたので、上記の流れから、シャンプーを殺したのはルーファスだとわかったのですが(教えてくださったみなさま、ありがとうございます)、銃を手にした時の表情を見ることで、どんな思いを抱いていたのか、汲み取ってみたかった…
・ハッケンブッシュの告白時、最初は仮面を付けたように表情を崩さなかったエレンデイラが、声を出して笑い出したあたりから、冒頭のドナとルーファスの会話のようなやり取りになり、ドナへと戻ったのか?

最後に
今回、劇場と配信、両方のメリットを受けることができた身ですが、それでもなおどう解釈すればいいかわからないものについては、もう謎のままで、観たまま感じたままを大事にすればいいのではないかと思いました。
(これだけつらつら書いてきましたが、行きつく先はこれかいな…)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?