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【分析】EL決勝の3失点、原因は3歩の差?

 はじめまして。こんにちは。お久しぶりです。

 今回は、先日セビージャの優勝で幕を閉じたヨーロッパリーグ決勝戦で我がインテルが喫した3失点について少し詳し目に見ていこうと思います。何故か。それは単にセビージャが上手いという理由では片付けられない原因がこちら側(インテル側)にあると思ったからです。

 この記事を読もうと思ってくださっている方で、ヨーロッパローグ決勝のゴールシーンをまだ見ていないという方はYouTubeにDAZNさんがハイライト動画を上げてくれているので先にそちらを…と思ったのですが、この記事をアップするときには削除されてなくなっていたので、何らかの方法で失点シーンを見ていただいたほうがわかりやすいと思います(一応YouTubeに別のハイライト動画はありました)。

 両チームのスタメンとベンチ入り選手です。少し画像が荒くてすみません。

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なお、以下では

・ボールホルダー:◯
・人の動く方向:→
・ボールの動く方向:⇨

で表しております。

1失点目

 12分、ヘスス・ナバス(以下J.ナバス)のクロスにルーク・デ・ヨンク(以下デ・ヨンク)が頭で合わせて失点したシーンです。表面的には右サイドでうまく揺さぶって正確なクロスを上げ、得点というセビージャの上手さが光った場面だったのですが、この失点には単にセビージャの上手さだけでは片付けられないインテル側のまずさが多々存在しました。失点の少し前のシーンから見ていきましょう。

 セビージャのセットプレーの後、再びボールを拾ったセビージャは一旦LSBのレギロンまでボールを戻し、レギロンはバネガにボールを渡して攻撃を再開します。下図を見ながら読んでください。バネガがボールを持つや否や、アンカーのブロゾビッチがバネガにプレッシャーをかけにいきます。インテルの狙いはここで圧をかけることで相手の攻撃を遅らせ、あわよくば奪いきって一気にカウンターに転じることです。この時ブロゾビッチはバネガから見て左側からプレスをかけに行っています。これによりバネガに残された(前線への)パスコースは2つです。スソか、J.ナバスです。

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 問題点①:上の図で問題点はどこにあるでしょうか?それは、J.ナバスがインサイドに入る動きをしているのにもかかわらずルカクがバネガからJ.ナバスへのパスコースを切っていないところです。一応ルカクに赤丸をして目立たせましたが、これはルカクがもっと後ろに目線をやってJ.ナバスの動きをもう少し把握していないといけないシーンです。なぜなら、バネガはスソかJ.ナバスならより近い位置にいる(=ミスの起こる可能性が低い)J.ナバスにパスを出したいからです。下図をご覧下さい。上図の2秒後です。

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 ブロゾビッチが奪い切る一瞬前にバネガがパスを出します。選んだ出し手はJ.ナバスでした。ルカクが赤矢印の向きにあと「3歩」寄っていればパスコースが消えたことによりパスを出せなかったであろうシーンです。そうなればスソに浮き球のパスを送るしかなく、スソにはヤングがマークできていますからこの攻撃は一旦終了していた可能性が高かったわけです。大学でサッカーをやっている友人はこのシーンを見て「個人的にはここで周りを見ないで突っ立ってるルカクはあり得ないと思う」と言い切りました。このファーストディフェンスを怠った(サボった)ことにより、この後の対応すべてが後手に回ることになりました。

 話がそれますが、中盤3枚のブロック(主に4-3-3)の守備時の弱点として、サイドハーフの脇のスペースが空きがちであるというのがあります。当然相手はそこを狙ってきます。単純には下図点線部で囲まれたあたりのスペースです。この日のインテルも守備時は5-3-2となり、4-3-3同様に中盤のブロックは3枚です。

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 ここに入ってくる選手に対してボールを入れさせないようにするには、1トップの「選手10」のプレスだけでは限界があります。そこで大事になるのがウイング、つまり「選手9」と「選手11」による守備です。彼らが、点線部に入ってきた選手へのパスコースを背中で切ることで、仮にパスを入れられたとしても攻撃自体を遅らせることができます。さらに話が逸れますが、チャンピオンズリーグ決勝においてこの「背中で切る」ディフェンスをきちんとやっているなと印象に残ったのがPSGのディ・マリアです。彼はここでしっかりパスコースを切った後そのままカウンターに転じる準備をしていました。

 話を戻します。続きを見ていきましょう。

 問題点②:下図はJ.ナバスに(不幸にも)パスが通ったあとのシーンです。

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 さて、このJ.ナバスには誰がマークしにいったのでしょうか?ガリアルディーニはフェルナンドからマークを外すわけにはいかないので、牽制程度しかできないでしょう。そうです、バストーニです。それはいいのですが、ここで致命的なのがバストーニがマークに行くのであれば、動くのが遅すぎるということです。

 5バックに対して3トップ(CF+左右WG)の噛み合わせの時に、攻め上がってきたSBに対してWBではなくCBがマークにいくというのは一つのセオリーとして存在するようです。

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 ただしこれはSBがそんなに上がった位置でボールを持っておらず、また味方の守備陣形がきちんとセットアップできた状態での対応であれば有効です。しかし今回はJ.ナバスがかなり自陣の中まで入った状態でボールを持っているため、このバストーニの対応はただスペースを空けただけになりました。ルカクが守備をしてJ.ナバスへのパスが遅れていればこの対応もアリだったと思います。

 ということで、このシーンの最適な対応は「J.ナバスにこのタイミングでボールが入ってしまった時点で、バストーニが上がって付きに行くことを諦める」だと思います。5人のブロックを作って「待ち」の姿勢で迎え撃つべきではなかったでしょうか。

 とにかく、J.ナバスにはバストーニが寄せてくるまでにほぼノンプレッシャーで十分な時間がありました。中途半端な位置に出てきたバストーニを見ながらスソにパスを出します。そしてここで3つ目の問題点が顔を出します。

問題点③:下図をご覧下さい。先程の2秒後です。

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 バストーニが出ていった跡地には広大なスペースが残されました。そしてそこに走り込んできたのは?セビージャのジョルダンです。問題なのは、ジョルダンは明らかにバストーニのいたスペースを狙っているのに、マークしているバレッラがジョルダンにまったく付いていっていないことです(赤丸で目立たせてみました)。前の画像と見比べれば分かりますが、この2秒でジョルダンはグンとスピードを上げてスペースに走り込む動きをしています。バレッラは追い抜かれたにもかかわらずゆっくりとランニングしたまま。結果、ジョルダンにこのスペースを活用されることになりました。

問題点④:ジョルダンにフリーでPA内への侵入を許したところです。デ・フライがそれに気付いてケアしにいき、ボールホルダーのスソに対しては予めマークしていたヤングと、J.ナバスのマークからボールの流れに合わせた形でスソにマークを変えたバストーニが付いていっている、そういうシーンが下図になります。

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 ここでの問題点は、スソに対してヤングとバストーニと2人も割いているのに、どちらもスソからボールを奪いにいかなかったことです。2人付いているけど、2人付いているだけ。そんな状況でおまけに2人の間を、ジョルダンにパスを通されてしまうというのは最悪の対応だったと思っています。

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問題点⑥:ジョルダンにパスが通ったあとの対応もよろしくありませんでした。上図を見る限りジョルダンに対してヤングとバストーニが2人とも付きにいっていますが、この時点でデ・フライがジョルダンへのケアに間に合っており、どう見ても人数オーバーです。ただ、この後ジョルダンがさらに奥へと攻めた場合(白点線矢印の方向)のケア要員としてヤングの対応は正しいとして良いでしょう。しかしバストーニまでがJ.ナバスの方をまったく見ずにジョルダンに向かっていったのはまずかったと言わざるを得ません。こうして、J.ナバスはフリーとなりスペースまで与えられたことで、ジョルダンからボールが来さえすれば「どうぞ素晴らしいクロスを入れて下さい」と言わんばかりの状況になりました。

 結果、J.ナバスからデ・ヨンクへのクロスが通り、デ・ヨンクによる見事なダイビングヘッドでセビージャが先制しました。このシーン、ゴディンのマークを外すためにデ・ヨンクが一旦後ろに2歩ほど下がってから一気にクロスに合わせにきた動きも上手かったです。このクロスやヘディングが上手かったことは全く否定しませんが、それ以上にインテルにとっては、そこに至るまででこのクロスを上げさせないような守備対応は十分に可能だったと思わざるを得ませんでした。


2失点目

 2失点目は前半33分です。バネガによる間接FKにこれまたデ・ヨンクが頭で合わせました。まずはバネガがボールを入れる瞬間の選手の配置をご覧ください。

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 矢印で示したように、デ・ヨンク(19番)がファーの大外から回り込み、そこに目がけてバネガがボールを入れました。クンデ(とオカンポス)が壁になり、その裏を回ってデ・ヨンクが自身のマークを外すという狙いですね。別のフリーキックのシーンでも同じ動きをしており、これはセビージャの持つセットプレーのパターンでしょう。別角度からは下図のようになっています。

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 で、このインテルのディフェンスラインを見ておかしいと思いませんか?

 この位置から右利きのバネガがボールを入れるとしたら下図のどちらか(ファーかセンターか)が可能性大でしょう。にもかかわらずファーにかける人数が少なすぎました。その分、センターに人数を割いています。確かにセンターを分厚く守るのはセオリーですが、このシーンではセンターに人数をかけすぎていて、ファーが手薄になってしまっています。

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 セットプレーなのでゾーンディフェンスではなくマンツーマンで付いていた可能性が高く、そう仮定するとデ・ヨンクをマークしていたのは一体誰だったのでしょう?もっと言うと、ダンブロージオ(33番)は誰をマークしていたのでしょう??

 率直に、少しまずい対応だと思いました。ボールが入る前からファーが数的不利になっていたから。デ・ヨンクについていたのはヤング(15番)かと一瞬思いましたが、ヤングは同じ位置にとどまったままでした。これはバイタルエリアのケア要員だからでしょう。とするとダンブロージオが付いていかなければならないシーンになります(そうだとしても、ガリアルディーニ(5番)がオカンポス(5番)とクンデ(12番)の2人を見なければならないというのはおかしいですが)。

 しかし、デ・ヨンクは終始フリーのまま。相手のCF、しかもターゲットマンとしての役割ができる選手はこういうセットプレーでは一番警戒しなければならないのではないでしょうか。最後にとっさの判断でガリアルディーニが懸命に競りましたが、ここはよく競ったと褒めるべきでしょう。

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 相手の用いたパターンがバスケットボールでいうスクリーンプレーのようなものであり、マンツーマンで追いかけるにしろマークを受け渡すにしろ少し対応が難しかったこと、デ・ヨンクのヘディングシュートのコースもここ以外ないというような素晴らしいものであったことは間違いありません。しかし1失点目と同様、このシーンも防ぐことは可能だったと思います。なぜなら相手のセットプレーは(おそらく)練習してきた定番の型を用いてきたから。そのパターン自体も割とシンプルで、他のチームでもレパートリーに入れていそうなものでした。そして相手のCFをまんまとフリーにしてしまったのは、このレベルで戦うのであればお粗末と言われても仕方ない、ような気がするからです。

 ではこの失点シーンの解決方法を考えてみましょう。これは意外とシンプルで、最初のマークを1人ずつずらせばいいのだと思います。ダンブロージオからルカクまでが皆、「3歩」ずつファーサイド側にずれて、ファーを3人で対応するようにすれば良くないですか?(下図)

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 すなわち、センターにいるジエゴ・カルロス(20番)とフェルナンド(25番)を、ゴディン(2番)とデ・フライ(6番)とバストーニ(95番)ではなくデ・フライとバストーニとルカク(9番)でケアするのです。ヤングは変わらずバイタルのケア、ガリアルディーニとダンブロージオがクンデorオカンポス、ゴディンがデ・ヨンクをマークします。一連のパターンプレーでゴディンのマークを外したとしてもガリアルディーニに受け渡せば良いですし(下図A)、あくまでマンツーマンでいくのならゴディンがデ・ヨンクについていくのでも良いと思います(下図B)。

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 実際にはオカンポスが中に入ってこなかったので、このような付き方をしておればダンブロージオかゴディンがデ・ヨンクをマークし続けることは可能だったでしょう。少なくともあそこまでフリーにさせることはなかったはずです。


3失点目

 試合を決めた3失点目は、74分に訪れました。またもやセットプレーで、クリアしたボールが中途半端に浮いたところをジエゴ・カルロスがバイシクルシュート。それがルカクの足に当たってネットに吸い込まれました。

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 ルカクの足に当たったこと自体は責めるつもりはありません。そういう意味ではこの失点は、先の2失点と比べると防げた可能性は低いでしょう。しかし、個人的には問題点だと思った場面が3失点目にも存在しました。まずはバネガによるフリーキックが蹴られる前を見てみます。下図をご覧下さい。

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 2失点目と同じような位置から同じようなフリーキックです。しかしさっきとは違い、ファーにより人数を割いているのが見てとれます。デ・ヨンクにはガリアルディーニががっちりとマーク。先程の失敗を活かしたのでしょうか(最初からやってくれい)。なお、オカンポスに代わってムニルが入っています。そして下図です。

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バネガの蹴ったボールはインテルのDF陣(たぶんゴディンとか)によりクリアされましたが、ボールはピッチに残ったままふわりと浮きました。

 さて、私はここに問題点があると考えています。何が問題か?赤丸をつけたのでお分かりでしょうが、ヤングの位置です。先程同様、ヤングはバイタルのケア要員としてボックスの境目付近にとどまっており、DFラインには加わっていません。しかし、だとすればクリアが浮いた時点でジエゴ・カルロスの元に身体を寄せていくべきなのではないでしょうか?(赤矢印の方向)

 クリアがふわっと浮いた時点で、ヤングにはボールが自分のところまで返ってこないことが分かったでしょう。そしてボールの勢いは失われていたため、そこから地面に落ちてくるまで少し時間がありました。この間に、少なくとも3歩、ジエゴ・カルロスの元に身体を寄せる時間があったのではないかと思うわけです。

 ボールの向きとDFラインの下がる向きが同じであるため、クリアボールがそんなに跳ね返らないのは仕方ありません。本来ならコーナーキックに逃がすのが良かったのでしょうが、それはいいとして。であれば、DFラインが下がることで生じるスペースに対してはヤングがアンテナを張るべきだと思うのです。下図を見てみると、バネガがボールを蹴る前から、ボールが跳ね返って宙に浮き始める時まで、ヤングは一歩も動いていません。この時点で動き始めるのは確かに無理ですが、このすぐ後、ボールの落下点が大体把握できる少し前には動き出して欲しかったし、動き出す準備をしていて欲しかったです。

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 もしヤングがあと3歩、いや、2歩でも詰められていれば、たとてジエゴ・カルロスに競り負けたとしてもこのようなバイシクルシュートは打たれていなかったと思います。バイシクルを打てたということは、ジエゴ・カルロスがどフリーだったことを意味するからです。その反面、ジエゴ・カルロスのブロックにいこうとしたガリアルディーニを身体で止めたクンデは素晴らしかったとおもいます(下図)。

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 で、このシーンなんですけど、私は高校生や大学生なら逆にきちんと詰められていたんじゃないかなぁと思ったわけです。ベテランゆえの「余裕」が、ヤングが詰めるべき3歩を邪魔したのではなかろうかということです。推測ですけどね。別に手を抜いていたとか言いたいのではありません。ボールの落下点なんてのはそのスポーツをやっていればある程度予測がつくわけで、これが高校サッカーとかであればがむしゃらに落下点付近まで詰めていたのではないかと思いました。この部分に関しては私の想像なので悪しからず。

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最後に

 いかがだったでしょうか。2019-20ヨーロッパリーグ決勝でインテルが喫した3失点を、後付けですが分析してみました。ルカクの3歩、ダンブロージオらの3歩、ヤングの3歩がこれらの失点に大きく関わっていた、かもしれないことが分かっていただければとても嬉しいです。そしてこの3失点を次のシーズンに活かして欲しいと思う次第です。

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以上

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