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ドリンクバー具備の飲料のみを使用し、アルコール成分皆無のギネスを作る

◉序
 本稿の起草者たる田畑佑樹は、西暦2021年6月5日に正式なシャハーダ(信仰告白)を経てムスリムとなった者であり、以降の生において一滴のアルコール(料理酒を含む)も飲用していないことは自ら述べるまでもなく、全能なるアッラー御自身が御存知である。
 言うまでもなく、イスラームの規範的生に則するにおいて失われるものは(僅少にして厳密な禁則を除けば)皆無である。が、私は 29年11ヶ月間を多神教徒として生きた過程において、この地上に多くの豊かな飲食文化が存在することを知ってもいる。
 本稿は、いわゆる「西欧」において比類無く特異かつ優れた文化を育んだアイルランド、その地において発祥したギネスという飲料を、アルコール成分一切無しで再現する試みの記録である。伴食飲料としてのギネスは烏龍茶やジンジャーエールと同様またはそれ以上に優れているが、醸造酒である以上、イスラームに服する者は絶対に口にするわけにはいかない。そこで、地上にひとつの場所を占めた飲料からアルコールという人類の心身を撓め苛む百害の根源を除き(私は全都道府県の中で最多の飲酒運転検挙率で知られる福岡県に10年以上在住しており、アルコールが増幅させる愚かさの害は身に沁みて実感している)純然たる美味の伴食飲料として再精錬する。本稿はまさにそのことを主眼に据えて起こされた。出生時からすでに義しき教えに服してきた姉妹兄弟たちにおかれては、本試行の果てに得られたレシピの成果物を口にしてみれば、「なぜこれほど実用的かつ豊かな飲物にアルコールなど混ぜていたのだろうな、過去の人たちは」と怪訝な賛辞を呈すること必至である。

◉初手

 まず、私は今までにファミリーレストランフランチャイズ「ジョイフル」のドリンクバーコーナーにて既述の試行を繰り返していたため、基本的な材料の選択肢は絞り込まれている。完成版に到達する前の、試作段階にすぎないミックス過程を以下に紹介しよう。

【第1試行案】
1:クールドリンク用のグラスに、ホットドリンクの温度を真水の冷たさまで下げられる程度の量の氷を入れる。
2:カフェコーナー具備のアイスコーヒー用ボタンを押し、湯の熱さで注がれるコーヒーを受ける。溶けた氷の量も含め、グラスの半分程度の分量にとどめること。
3:続いて、ソフトドリンクコーナーのコカ・コーラを注ぐ。


 以上の手順のみで精製されたドリンクは、見た目こそ既にかなりのところギネスであるが、試飲してみると単なる甘さと苦さの雑多な混淆であり、滋味とは程遠い。ここで得られた最大の収穫は、あくまで白黒のコントラストによる見た目の美しさのみであった。

◉修正案

 次なる試作では、さらにカルピスソーダを混ぜることによって乳成分のまろやかさを導入せんとした。

【第2試行案】
1:クールドリンク用のグラスに、ホットドリンクの温度を真水の冷たさまで下げられる程度の量の氷を入れる。
2:カフェコーナー具備のアイスコーヒー用ボタンを押し、湯の熱さで注がれるコーヒーを受ける。溶けた氷の量も含め、グラスの半分程度の分量にとどめること。
3:続いて、ソフトドリンクコーナーのコカ・コーラを注ぐ。
4:沸き立った泡が鎮まるまで待ち、続いてカルピスソーダを注ぐ。


 以上の試行で得られたドリンクは、相変わらず見た目のみで判断すればギネスとしての再現度は高い。が、味は相変わらず甘味と苦味が心地よく混ざることなく不調和するばかり(画像を見てみれば、コーラ+コーヒーの層とカルピス+コーラの層が全く別の泡で発色していることがお解りいただけるだろう。ここに見出される混ざり方の不徹底が、味にもそのまま現れてしまっているのだ)。加えて、カルピスによって乳成分由来の自然な泡立ちが得られるかもと期待したものの、グラス表面に沸いた泡は数分もすれば貧しく萎んでしまう程度の質でしかなかった。

◉重要な変更:鍵はバニラオレに在り

 以上の不全な試行を踏まえ、私のなかに次なる一手が明瞭に見出された。最後の仕上げたる泡立ての過程に、ホットのバニラオレを使う方途である。
 飲食フランチャイズに導入されているドリンクバーのほとんど全てがそうだと思うが、プレミックス液に熱湯を注ぐ製法でのバニラオレなど到底飲めたものではなく、例えるなら水団をそのまま液化したかのように野暮ったく不味い。が一方で、他のドリンクと混ぜるための材料としてはかなりの優秀性を見せることも私は知っていた。とくに、濃い乳成分がもたらす口当たりのまろやかさ・バニラの香気による印象の佳さ・そしてコーヒーや炭酸飲料と混ぜた際に立つ泡の物質的な確かさなどが挙げられる。
 十分な勝算を踏まえた私は、仕上げ段階でのバニラオレ注入を前提に、以下のごとくレシピを修正した。重要な変更事項は、ドリンクを受けるグラスとは別に、ホットドリンク用のカップとスプーンも同時に使用することである。また、炭酸由来ではなくバニラオレによる泡立ちの比率を高めるため、カルピスソーダではなく炭酸無しのカルピスに変更した。


〔後略〕


 第3試行:暫定採用案を含む本稿の全文は、 Integral Verse Patreon channel有料特典として限定公開される。


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