ある凡人の数学者人生が始まるまで 2

数学者とは 1

振り返りに入る前に、そもそも数学者とは一体何かということについて考えたい。誰が数学者であり、誰が数学者ではないのか。その線引きはどこにあるのか。

私の考えでは「数学者」という呼称の意味内容は、他の多くの概念と同様に、厳密な線引きが不可能で境界が曖昧なものである。

Wikipedia「数学者」から引用すると

数学者(すうがくしゃ、英: mathematician)とは、数学に属する分野の事柄を第一に、調査および研究する者を指していう呼称である

とある(それなりに広義)。

国際数学連合は出版している人名簿への載録許可基準として基本的にMathematical Reviews/Referativnyi Zhurnal(英語版)/Zentralblattのいずれかで批評されている論文が5年以内に2本以上あることとしている (IMU 2002)。

なんて注釈もある(かなり狭義)。

非常に広義に捉えるならば「数学者=数学を(研究)する者」であると思われるが、ここではより狭義の数学者についても考察したい。

とりあえず

「アマチュア数学者(日曜数学者)」

「プロ数学者(職業数学者)」

に大きく二分して考えることにすると(ただしこれらの概念の区別も実際のところ曖昧である)、

「(日本国内における)プロ数学者とは何か」

ということに一旦興味をもつことにする。

理由は、私が(そのような概念があったとして)プロ数学者を目指してきたからだ。

また(それが何であるかについては深入りしないことにして)、いわゆる「純粋数学者」と呼ばれるものを念頭に置いて考察する。

(だが、実際に書いてみると数学者に限らない「プロ研究者とは何か」という考察になってしまったきらいがある。)

この「プロ数学者」という概念も簡単には線引きができない。

例えば、私は将棋の対局を観戦するのが趣味であるが、「将棋のプロ棋士」は現代であれば十中八九、日本将棋連盟に所属し棋戦に参加している人のことを指すであろう。

このようにプロ制度がはっきりと存在している場合はわかりやすい。しかしながら、数学の場合は同様のプロ制度は存在しない。

また、他の一部の学問や諸外国とは異なり、例外は探せば存在するはずであるが、原則的には「大学や高等専門学校(以下、高専の明示は略)に属さない企業や研究所の数学研究者」としての数学者のポジションはない。

つまり、国内でプロ数学者(に相当するもの)を志す者は、大学(における授業科目として数学が存在する学科)の教員を目指すのが通常の道となっている(今後もっと幅広いプロ数学者のあり方が出現していくとは期待しているが)。

「では『プロ数学者=大学の数学教員』という線引きがあるってことじゃないか」と思われるかもしれない。狭義にはその通りである。

しかし、ご存知の方も多いことと思われるが、大学教員のポストは非常に少なく、その獲得競争は熾烈を極めている。

なので、博士号を取得した後にポスドク(時には非常勤講師などで教育経験を積みつつ糊口をしのぎながら、あるいは日本学術振興会の特別研究員制度などで研究奨励費をいただきながら、研究員という身分で研究に従事する)時代を経るのが通常であるし、

助教 --> 講師・准教授 --> 教授

という大学教員の職位において、助教になったとしても五年以下の任期付きであることが当たり前の状況となってしまっている。

かくいう私も現状はポスドク(学振PD)である。

このような状況を考えるとき、プロ数学者として例えば次のような様々な線引きが考えられる:

・任期のない助教以上の職位を持った大学の数学教員をプロ数学者とよぶ。

・助教以上の職位を持った大学の数学教員をプロ数学者とよぶ。

・非常勤講師、ポスドクを含めた大学教員および研究員をプロ数学者とよぶ。

一つ目の意味で「数学者」という言葉を用いている人も実際にいるだろうと思う。

だが、個人の能力・業績の差はあるとはいえ、上述のポスドクや任期付き助教の人達が実際に行っている数学の研究のレベルはハイレベルなものであり、任期無しのポストについた瞬間に研究の質が魔法のように飛躍的に向上するなんてことは考えがたい。

従って、「プロと呼ぶに相応しい数学のハイレベルな研究をしている者、略してプロ数学者」であったと広義に考える場合は、「この人は任期付きだから、ポスドクだから数学者ではない」とするのは不適切であろう。(続く)


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