ある凡人の数学者人生が始まるまで 17
高校生編 7
これから先何年生きることができるかはわからないが、自分の人生で間違いなく「好きな定理トップ5」には入るであろう定理に既に出会っている。
その定理に出会った日付がいつであるかは具体的には知られていないが、高校生の間であることは間違いない。
その定理の名は グリーン・タオの定理 である。
どうやら2019年9月に長さ27の素数等差数列
224584605939537911 + 81292139·23#·n, for n = 0..26.
が見つかったようである(#は素数階乗):
それでも、現在長さ28の素数等差数列の実例は誰も知らない。にもかかわらず、どんな長さであっても素数等差数列が無数に存在することを保証するグリーン・タオの定理は凄すぎて、未だにこの定理のことを考えると涙が出てくる。長さ1億だろうが長さグラハム数だろうが、等間隔に並ぶ素数達が確かに存在するのだ。
私がこの定理に高校生のときに出会えた要因は2つある。
1つ目はグリーン・タオの定理を証明した原論文のpreprintがarXivに投稿されたのが2004年であり、テレンス・タオが2006年にフィールズ賞を受賞したこと。
残念ながら具体的な記憶はないが、数学と言えども大きなニュースなので、何らかのメディアを通じてこの情報を得たに違いないと思っている。
2つ目は2007年に日本で放映された韓国ドラマ「雪の女王」である。数学が関係するドラマということで母から勧められ視聴した。
ヒョンビン氏が演じる主人公は数学オリンピックで金メダルを取るほどの数学の才能を持っていた。しかし、ある事件をきっかけに数学をやめてしまう。それから8年後、名前を変えてボクシングジムで暮らしていたあるときソン・ユリ氏が演じるヒロインに出会い、恋愛ドラマがスタートする。
お嬢様であるヒロインは大学に通っており、主人公はその送迎の仕事をしていた。ある日、空き時間に数学の講義に潜り込んで的確な指摘をし、主人公に数学の才能があることを教授に見抜かれる。その後、教授のもとで数学の研究を始め、13話の後半で教授からとある問題を渡されるのだが、、、
それがなんとグリーン・タオの定理なのである!
このドラマの世界ではグリーンとタオではなく、主人公が一人でグリーン・タオの定理を解決してしまうのだ。ヒロインとの会話でアイデアが突如閃き、ボクシングのグローブを並べ替えながら思考し、リングにペンで数式を密に書きなぐって証明を完成させる(15話)。
これらの要因があって、グリーン・タオの定理に興味を持った私はarXivから論文をダウンロードし印刷した。
次の画像は、そのときに印刷した論文を今撮影したものである(1枚目だけあまりにボロボロになったため印刷し直した記憶がある)。
私は印刷した論文を高校の前で配られていた「さっぽろテレビ塔」のクリアファイルに入れた。それ以来、私はそのクリアファイルをしょっちゅう持ち歩き、ことあるごとに眺めた。
読んだのではない、眺めたのだ。
「ここに書かれている難しそうな数式達が、あの美しい定理が成り立つことを保証しているんだ。」
そう思うだけで私は嬉しくなった。
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