ある凡人の数学者人生が始まるまで 14

高校生編 5 

「二年生の間は音楽と数学に邁進する」という意気込みであったが、実際のところはその情熱の殆どを音楽に捧げたことになる。

数学もある程度は頑張っていたと思うが、数学オリンピックで勝ち進めるほどの対策は取れていなかった。

予選は年が明けてすぐにある。対策は不十分であったものの今の実力を出し切ろうという思いで挑戦した。

一年目のときよりは健闘することができ、なんとか予選を突破した。

このときの最終問題(過去問PDFへのリンク)は凄い問題だなと思う。何か元ネタはあるのだろうか。


一方、音フェスの直後に開催された本選については全く歯が立たなかった。二問ぐらいは何かしら書いたと思うが、途中で「自分にはこのレベルの問題は無理だな」と諦めてしまい、四時間という長時間の試験中、ぼーっとしていた。

なお、このとき出題された四問目(過去問PDFへのリンク)は普通に数学の定理として中々美しいと思う。定理としてここに述べておこう。


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何か、綺麗な拡張は研究されているのだろうか?きっとあると思うが調べていない。


国際数学オリンピックでメダルを取って全校生徒の前で表彰されたらかっこいいだろうなあなどと妄想していたが、そのような夢は圧倒的な実力不足によってあっさりと潰えた。


こうして、青春の高校二年生を終えた。



数学オリンピックは予選突破止まりということで、振り返りはあっさり終わってしまった。せっかくなので、記憶に残っている高校時代のその他の数学エピソードを以下に簡単にまとめておこうと思う。

高校の数学の先生はみんな大好きだった。特にK先生は授業で連続関数を扱うときに位相空間の連続写像の考え方まで踏み込んだ説明をしてくださるような方で、高校数学の先にある数学の話を色々聞かせていただいた。前述の高木貞治著「近世数学史談」はK先生からいただいたもので、家に帰ってから徹夜をして一気に読んだし、雑誌「数学セミナー」の面白い記事を教えてもらったりもした。

記憶によれば二年生のときに総合学習的な単位を取得するために全員がオープンキャンパスに行く必要があったのだが、後で述べるように志望校は京都大学と決めていたのでオープンキャンパスへ行く意義を感じていなかった。そんな私にK先生はオープンキャンパスの代わりに京都大学数学教室の公開講座に参加することをすすめてくださり、実際に参加することにした。

初日は母に付き添ってもらって生まれて初めて京都大学へ足を踏み入れた。吉田寮の横から入って北部キャンパスを目指したような記憶がある。そして三日間自宅から通って一生懸命講義を聴いた。そのときの情報が今もweb上に残っている。

上田先生の講義はジュリア集合などが出てきた記憶がある。堤先生の講義でフーリエによる熱伝導方程式の解法に初めて触れた。高村先生の講義は何もかもわからなかった。


数学の試験の話を少し。北野高校の数学の定期試験は毎回三種類あった。例えば一年生のときは数学Iのテスト二つと数学Aのテスト一つで合わせて三つ。テストが多かったおかげで100点以上の通算回数を増やすことができた。100点以上というのは、時々X問題(時間が余った人用の問題)というのが出題されていたからで、私はそのX問題に挑戦するのが好きだった。cf.


さて、北野高校では三年生になると校内模試が実施される。そして最初の校内模試では例年数学の難度がかなり高めに設定されるという話を聞いていた。より具体的に言うと、200点満点にも関わらず平均点が10点近くみたいなテストで、でも毎年一人だけ100点越えが現れるようなテストであると聞いていた。

私はこのテストにワクワクしていたのだが、結果は撃沈。64点ぐらいだったと記憶している(200点満点)。ところが、蓋を開けてみればそれでも自分が学年一位であった。学年一位の点数がこれとは学年全体で数学のレベルが低かったと言える。


次に雑誌「大学への数学」の話をほんの少し。学力コンテストの答案用紙狭すぎ。「宿題」の問題で倍積完全数に関する問題が出たことがあり、それを解く中で必然的に4倍完全数30240に出会えたのが凄く嬉しかったのを覚えている。つまり、30240の正の約数の総和は30240の丁度4倍になる。矢ヶ部巌先生の鼎談形式のコラムで「Smith数」の話が連載されたことがあり、それがとても面白かった。「Smith数が無数に存在する」というMcDanielの定理の証明が紹介され、本場の数学を味わえた気分になった。


最後に読んだ本の話をする。印象深く記憶に残っているのは三次方程式および四次方程式の解法やアーベルとガロアのエピソードが書かれた

・木村俊一著、「天才数学者はこう解いた、こう生きた 方程式四千年の歴史」、講談社、2001年

および、ゼータ関数やリーマン予想への興味を急上昇させた

・梅田亨、若山正人、黒川信重、中島さち子著、「ゼータの世界」、日本評論社、1999年

・ジョン・ダービーシャー 著、松浦 俊輔訳、「素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~」、日経BP、2004年

・黒川 信重著、「オイラー,リーマン,ラマヌジャン-時空を超えた数学者の接点」、岩波科学ライブラリー、2006年

などである。

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とにかくゼータ関数と素数の関係をすごく美しいと思った。漠然と素数の研究をしたくなったし、リーマン予想にいつか挑戦してみたいなあなどと考えるようになった。


啓蒙書を読むことから専門書を勉強することに移行できたのは大学生になってからであり、前にも少し述べたが高校生の間に手を出した専門書は解析概論ぐらいだった。

ただ、専門書ではなく問題集に見える

・水上 勉著、黒川 信重監修、「チャレンジ!整数の問題199」、日本評論社2005年

が最も勉強になった本と言っても過言ではなく、問題解決能力をつけるというよりは「初等整数論」という学問についての基本知識をつけることができた大好きな本だ。


追記)最近

木内敬著、「ビジュアル リーマン予想入門 ~グラフで解き明かす素数とゼータ関数の関係」、技術評論社、2020年

が発売されました。私は読み進めている途中ですが、非常に見やすく、素数やリーマン予想の入門書としてオススメできそうです。

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