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【セッション収録レポート】世界が注目する10代の発明家と考える 「科学で人の役に立つには?」

2024年8月3日、Inspire Highではセッションの公開収録を行いました。
今回は「科学で人を幸せにするには?」をテーマに、アメリカ出身の18歳の発明家、ギタンジャリ・ラオさん(以下、ギタンジャリさん)をガイドにお迎えしお話いただきました。当日は対面&オンラインでのハイブリット開催。全国の10代、先生にご参加いただきました。当日の様子をお届けします。

当日の会場の様子

ーギタンジャリ・ラオ  プロフィールー
2005年アメリカ・オハイオ州生まれ。 水道水の汚染問題に直面する人々のニュースを見たことをきっかけに11歳のとき水中に含まれる鉛を検出するツールを発明しアメリカのトップヤング・サイエンティストに認定された。 その後、 鎮痛薬オピオイド中毒の早期診断装置「Epione」 や、 AIを活用したネットいじめ防止サービス 「Kindly」も発明。
2019年にはフォーブス誌の「30 Under 30 in Science」に選出。 さらに、 画期的なイノベーションと世界各地で実施しているSTEMワークショップが評価され、 『TIME』 誌の「キッド・オブ・ザ・イヤー」にも選出された。現在はマサチューセッツ工科大学に通う。
著書「ギタンジャリ・ラオ STEMで未来は変えられる」


◼️発明を始めた背景

ー気に入らないことがあったら、変えるために行動する ー
アメリカのミシガン州で発生した、水道水が鉛で汚染されているニュースを目にしたことをきっかけに、10歳で水中の鉛を検出するツール『Tethys(テティス)』の開発を始めたギタンジャリさん。どの地域でも安全な水が飲めないことに不公平さを感じ、開発を始めます。

当時、開発に必要な知識はもちろんありません。何をすれば良いかもわからなかったといいます。
しかし、「ゼロから作る必要はなく、既存のものを利用して、誰も見たことのない方法で組み合わせること」が課題を解決する方法だと考え、論文やYouTubeを活用しながら独学で勉強を開始します。

「どうして子供の頃に、どうしてそのようなモチベーションを持てたのか?」
「問題を解決するためにどのようにして自分の道を切り開いていったのか?」と良く聞かれます。

しかし私にとって、自分で問題を解決することは当たり前のことでした。両親は「何か問題があれば、自分で何かしてみなさい」といつも幼い頃から私に言っていたのです。

両親はいつも私にまず試してみてリスクを取ることをすすめました。「もし自分に合わなければ次の日に辞めたらいい。でも一度は試してみなさい」と。それから、ピアノからダンス、スポーツまでいろんなことをやってみました。好きなものもあれば嫌いなものもありましたが、その中で自分の道を切り開くことができました。早い段階で自分が情熱をそそげることを見つけれたのは、とても幸せなことです。

10代への最大のアドバイスは何かと聞かれると、「リスクを恐れず、試したことのない新しいことに挑戦してみること」です。そうすることで、自分自身の挑戦にいつか感謝できるかもしれません。

ギタンジャリさんの発言を収録内容から一部抜粋
   発明をはじめたきっかけについてお話しする、ギタンジャリさん

幼い頃からのご両親の教えが影響していたことをお話してくださいました。

◼️発明に関する想い

ー 自分だからこそ、作れるものがある ー
様々なツールを発明してきたギタンジャリさんですが、実体験を元に開発された『Kindly(カインドリー)』について、開発経緯をお話してくれました。

私の最新の作品は『Kindly』というツールで、私のお気に入りです。
自分自身のネットいじめの経験や、他の人がネットいじめにあっていることを見た経験から開発したツールです。

AIのアルゴリズムを使って、SNS上で送信しようとしているメッセージに含まれるいじめや誹謗中傷の可能性がある言葉を検出する、非常にシンプルな仕組みとなっています。
メッセージを送信すること自体は止めませんが、本当にメッセージを送信するかどうかを見直す機会をつくっています。

この仕組みは、「送信後の7秒間に送信を取り消したいと10代が感じている」という研究に基づいています。送信者に自分の内容を振り返る7秒を与えることで、ネットいじめの根本的な原因に取り組み、長期的な対策に繋げたいと考えています。

ネットいじめの原因は一つではないこともありますし、被害者側にアプローチすることも必要な場合があることは認識しています。『Kindly』のように加害者となりうる人へのアプローチだけでは物足りないと感じるかもしれませんが、10代の自分自身が、10代が本当に求める形で作った解決策であることに意義があると考えています。

10代のことを考えると、強制的にスマホにアプリをダウンロードさせるようなことはしたくない。
誰かに送りたいメッセージをかき消すようなものにはしたくない。

ただ、スペルチェックをするのと同じくらい、当たり前に使えるツールが欲しかったのです。

文法が間違いだらけの文章を送らないようにチェックするのと同じように、感情的になっているときに、誰かを傷つけるような内容を送らないようにチェックすることを当たり前にすることが、開発の背景にある目標です。

ギタンジャリさんの発言を収録内容から一部抜粋

この「Kindly」は、Discord、Slack、Instagram、Google Classroomで利用されているそうです。

◼️アイデアを形にするワーク

ーアイデアを形にしてみる大切さー
このワークは、ギタンジャリさんが発明をするときの一番最初に必ず行うものだそうです。ギタンジャリさんは、発明の為に何かを用意するのではなく、「身近にあるもので発明ができる」と考え、実際に手を動かし、「まずは発明したいものを目にみえる形にしてみる」ことを意識しているとのこと。
今回は実際にギタンジャリさんと一緒にアイデアを形にするワークを行いました。

<お題>
ボブという男の子がいます。ボブは将来、宇宙飛行士になるのが夢で、友達と一緒に宇宙旅行のためのツールを作りたいと思っています。
宇宙に行くためには皆さんの手助けが必要です。どんなことができるのか1分でまずは考えます。その後の3分間で手元にある紙やペンなどを使って実際にアイデアを形にしてみましょう。

制作中の様子

まずはギタンジャリさんの発表。ロケットの中では睡眠が必要と考え、睡眠用のベットを作成していました。

  睡眠のためのベットとランプを作成

参加者の皆さんからの発表も行われ、「宇宙食を食べるための装置」など様々なアイデアが出されました。

◼️10代からの質問タイム

ワークを行った後は、ギタンジャリさんへの質問の時間が設けられました。一部をご紹介します。

Q:研究に成功するために、何回失敗しましたか?

数え切れないほどです。正直に言って、成功よりも失敗の方がはるかに多かったと思います。でも、それがあったからこそ、物事をさらに良くすることができました。

たとえば、『Tethys』(前述)の最初のプロトタイプを作るのには3ヶ月かかり、その後、ベストなものを作るのには3年かかりました。

45以上のプロトタイプを作って、少しずつ変えていったんです。

私は常に「最高のアイデアはまだ生まれていない」と考えています。最高のアイデアをつくること、アイデアを形にすることは、本当に時間がかかるものなんです。

時には非常に落ち込むこともありますが、幸いイノベーションには締め切りなんてありません。時間制限がないことを理解し、アイデアは焦らずに温めておけばいいんです。休みが必要なら、しっかり休んで、また取り組むことを繰り返しています。

Q:失敗の恐怖をどうやって克服しましたか?

実は、克服はしていません。私たちは学校の影響で失敗を怖がることに慣れてしまっていますよね。
最悪のシナリオは、間違えたり失敗したり、NOと言われることです。

反対に、最高のシナリオは何だと思いますか?
それは、再挑戦できるということなんです。

長期的に考えてみましょう。
これが本当にどれだけ重要なのか?
これが長い目で見てどれほど大切なことなのか?

私は昔から「すべてのことには理由がある」と考えるようにしていて、それを信条にしています。だから、何かがうまくいかないときも、そのこと自体に意味があるんだと考えるんです。

◼️10代の皆さんへのメッセージ

最後に、ギタンジャリさんから10代へ向けてのメッセージをいただきました。

私が発明を始めたときに誰かに教えて欲しかったことは、「発明までのプロセスは決して一人ではない」ということです。

社会のなかで何か変えたいことを見つけたとき、自分も何かしなければならない、自分が変えなければならないと感じることがあるかもしれません。時には、事の大きさに圧倒され、諦めそうになることもあるかもしれません。
でも、プレッシャーを感じすぎる必要はありません。
私たちは、ただ自分の役割を果たせばいいんです。それがどれほど大きくても小さくても。たとえば、道端にゴミが落ちていたら拾うような小さなことも、発明をすることも、同じくらい世界を変えていく上では重要なんです。
問題を自分だけで考える必要はありません。

同じように悩んでいる10代や、同じことにストレスを感じている10代が他にもどこかにいて、みなさんと同じように世界を変えたいと思っていることを忘れないでください。

どこにいても、何をしたいと思っても、あなたは一人ではないことを覚えておいてくださいね。

ギタンジャリさんの発言を収録内容から一部抜粋


◼️参加者の声

ーとても刺激を受けた。アプリ開発に興味があって独学でやってるので、ギタンジャリさんのお話にとても感動した。環境問題にも興味あるので、これから何かやってみたい。(中学2年生)

ー教員目線で「生徒の可能性をどう広げていくか?」のヒントがたくさんあった。これから自分なりに落とし込み、授業で実践していきたい。(私立教員)

同世代のメッセージを受け、刺激を受けたり、教師目線での気づきを得た声が寄せられました。

◼️今後のスケジュール

今後、Inspire Highでは、以下のセッションを収録予定。
​​収録内容は全て、来年の4月から学校の授業で活用いただけるプログラムとなる予定です!
>Inspire Highの学校での活用に関しての資料請求・お問い合わせはこちらから。

10月4日(金)20:00-21:00
エンジニア起業家と考える AIで市民の暮らしはどうよくなる?

11月1日(金)20:00-21:00
医療機器エンジニアと考える 命を救う製品はどう生まれる?

12月6日(金)20:00-21:00
微生物研究者と考える バイオサイエンスは生活をどう変える?

今後も収録レポートを掲載予定!次回もお楽しみに。