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「本」をどう更新できるか

NewsPicksという会社に書籍部門立ち上げの責任者として入社したのが昨年の4月。
その半年後の10月にNewsPicksパブリッシングという新レーベルを創刊して、そろそろ4カ月が経つ。
何を仕掛けようとしているのか。
何を思って本を作っているのか。
少しずつ、発信していこうと思う。作り手のポリシーが見えることは、この時代において絶対に必要なことだからだ。


---時間のない方へ2つだけお知らせ---

①著者参加型のオンライン読書会を開催します。

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「読み終わってからが、始まり」をコンセプトにした新しい読書体験。僕もMCとして参加します。なかなかいい時間ですよ!

②月一回のメルマガを、今日1/31に配信します。
「今すぐ役立つわけではないけれど、10年かけて効いてくるアイデア」をコンセプトに、月一回メルマガを配信しています(登録はこちらから)。
最新号の内容は、Wired編集長、松島倫明、ケヴィンケリーを語る。今日31日18時までにご登録していただけたらお読み頂けます(無料)。

---お知らせおわり---

「いかに保つか」より「どう創り変えるか」を考えたい

この10カ月、本当にいろいろあった。
入社後すぐにNewsPicksBook編集長の箕輪さんと対談、立ち上げメンバーの採用、お披露目パーティ、創刊……まだたった10カ月しか経っていないのが信じられない。

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悔しいことは数え切れないほどあった。本づくりのことしか知らない自分は、ビジネスの世界では1年生。勢いのあるベンチャー企業の中で、何もわからず、「自分でなければもっとうまくできたはず」というふがいない思いを何度もした。
嬉しいこともたくさんあった。メンバーがチームに加わってくれたとき。創刊して、本が書店に並んでいるのを見たとき(書店に置かれることがこれほど感動的だとは、先人の作った流通網に乗って本を出していた過去の自分にはわからなかった)。

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そして、はじめて増刷がかかったとき。

気が狂いそうになるほど慌ただしい日々の中で、それでもやり抜けたのは、「出版を『いかに保つか』ではなく『いかに変えるか』を考え、仕掛けたい」という気持ちがあったからだ。

500年以上続く本のフォーマットはやはり強い

入社後すぐに、経営陣から1つの問いが投げられた。
「NewsPicksというサービスは、今までの『新聞でニュースを読む』という体験を根本から変えた。読書体験は、どう変えたらいいんだろうね?」

たぶん、そこで期待されていたのは、テクノロジーを使ったまったくあたらしい体験だったのだろう。でも、散々考えた末、僕はそこに核心はないという結論に至った。

ハードウェアとしての本は、相当イケている(だからこそ電子書籍は先進国アメリカでも3割程度までしか普及しないのだろう)。ソーシャルリーディングなる概念も一時期期待されたが、普及しなかった。むしろ、この接続過剰な時代「つながらないこと」は本の価値とも言えるくらいだ。

活版印刷の登場以来、一般化して500年以上経つ「本」というフォーマットは、相当に強固なのだ。
時代に合わせて変えなければいけないのは主に次の3つだろう。

①めんどくさいこと
②一方通行であること
③作り手の関係性が無いこと

本の弱点①「めんどくさい」

「動画の時代が来た!」「文章はオワコンだ」とよく言われる。これには、とてもモヤモヤしている(なぜなら本が好きだから!)。
ただ、否定する気はない。これからテキストがどんどん読まれなくなり動画が主流になっていくのは歴史の必然だ。動画を観るほうが、脳への負荷は低いからだ。
テキストという抽象化された記号を読み、その意味を想像し、読みすすめるのは脳にとっては明らかに「めんどくさい」。
あらゆるテクノロジーは人類に楽をさせる方向に進化する。個人単位がどんなに抗ってもテキストの劣勢は変わらないだろう。
ただ、それは市場全体の話にすぎない。動画ビジネスの仕掛け人が「これからは動画の時代だ!」と言うのはかまわないが、それを聞いた個人が鵜呑みにするかどうかは別の話だ。
個人的には「ふーん、なるほどね。だからこそ、自分は本を読むよ」くらいのスタンスで自己防衛するのがちょうどいいのではないか、と思っている(あまのじゃくだとよく言われる)。

前提として、僕はテキストでしか伝えられないこと、少なくともテキストのほうが伝わりやすいことはあると思っている。込み入った内容、抽象的な内容、複雑な論理を伝えるのに、動画はあまり適していない。

ただし、テキストは脳への負荷が高い。しんどい。
これ、僕はランニングに似ていると思っている。ランニングしたほうがいいのはわかっている。わかっているけど、めんどくさい。
だから、仲間と走るための「ランニングクラブ」や、目標設定としての「マラソン大会」があったりする。しんどいことをするには、仲間とゴールが必要なのだ。だから僕たちは、オンライン読書会を始めることにした。

※「オンライン読書会」自体は、僕の知る限り出版社としては前職でもあるダイヤモンド社が最初に開催した。僕たちは、敬意を払いつつ、自分たちなりの形を模索している。個人的には、他の出版社もどんどん続いてほしい。

著者から直に教えを請えるその体験自体がいいものだと思うし、さらに、「オンライン読書会が●日にあるから、それまでに本読んどかないとな〜」という、マラソン大会的役割も果たしてくれる。

正解かはわからない。でも、華麗な批判者でいるよりは無様な実践者でありたいし、まずはやってみる。それだけは決めている。

何も新しい試みをしないでいると、本は必然的にどんどん読まれなくなる。環境が変わるなら、自分も変わって世の中に仕掛けていきたい。あえて言うと、この世知辛い資本主義社会のルールの中で本を「儲かる」形で存続させることが自分の役割だと考えているのでできることはどんどんやっていく。人、足りないけど…。

本の弱点②一方向性

どこまで作り込んでも、読書という行為は「著者→読者」の一方通行でしかない。でも、それは学びにおいて明らかに片手落ちだ。
「学び」というと自分の外にある情報を摂取することを指すようなイメージがあるが、そうじゃない。文章を読み、何かを感じ、自分の内側に蓄積されたそれまでの経験値、感情と統合する作業の中にこそ深い学びがあるはずだ。
内にあるものと混ざらない限り、「情報」はいつまでたっても「学び」にはつながらない。読書の冊数だけを目的化した人がいまいち成長実感を得られない理由はこれだ(このあたりは、今度2/20に発売する『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』に多くを学んだ)。
大事なのは、「自分が何を感じたか」を言葉にすること。僕らはそのために、オンライン読書会を開いている。
zoomを使ったオンライン読書会では、3〜4人だけの「小部屋」に分かれて、それぞれの気づきをシェアする時間がある。ディベートではないので審査員もいなければ、正解もない。
でも、ただ単に「こんなことを思ったんですよね」と話す時間って、案外、楽しいのだ(「発言するのはちょっと苦手…」という方は、聴くだけの参加ももちろん可能)。

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初対面で「読書の感想を話す場」という設定があるからこそ話せることはある。すでに数回実施したがアンケートでもこのシェアの時間の満足度は相当高かった(ほら、映画館でも出た瞬間にあれこれ言い合うのって楽しいし)。

もしアウトプット自体が習慣化されていくと、インプットの際も「自分は今何を感じているのか?」「著者の言葉は自分の過去のどの記憶や思考、感情と結びつくのか?」と考えるため、学びは格段に深くなる。

「読書のめんどくささ」、「一方向性」になんとか抗うために、僕たちはオンライン読書会を開催する。以下、ここまで参加してくださった方の感想だ。
「場所を選ばずに参加できるのはとてもよかったです」
「同じ本を読んでいても、それぞれの受け取っているメッセージが少しずつ違うことに気付かされ、新たな発見があり有意義でした」
「最初は初対面の人と話すのが不安でしたが、思った以上に楽しく、初対面だからこそ話せることも多いのだなと感じた。同じ本を読んでる人、という安心感もあった」
「著者が目の前で直接自分の質問に答えてくれるのはありがたい! なんだか不思議な気分」

はじめて人からマラソンに誘われたときのように、内心「めんどくせえな」と思いつつ参加していただけたらとても嬉しい。

本の弱点③作り手と読み手の関係性の断絶

もう一個本を作る中で感じていた課題は、「読書と作り手がつながっていないこと」だ。
服で考えると、だいたいの人はお気に入りのブランドがあるが、本でお気に入りの出版社がある人は、相当少ない。編集者が十人以上いてそれぞれの価値観で本を作るから、テイストがバラバラなのだ。
だからこそ、書店にいくとノーブランドのデニム1万本の中から本を選ぶような体験になりがちだし、実際、僕も選べない。
本以外のあらゆるプロダクトが、「作り手のカラー」によって選ばれていく時代、本だけがそうなっていない。
だから、小さな出版社(正式には一部門)である僕らは、自分たちのカラーを発信し、ノーブランドから、小さな1つのブランドとして認知されること、心理的につながることを目指している(noteももうちょっとこまめに書きたい)。
そのために、ニュースレター(メルマガ)を始めてみた。

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ニュースレターは、よくある宣伝目的だけのものではない。それでは読者と心理的なつながりは生まれない(このあたりは、レーベル最新刊『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』に多くを学んだ)。
「今すぐ役立つわけではないけれど、10年かけて効いてくるアイデア」をコンセプトに、各界トップランナーによるリレー連載をじっくり作っている。名前は、NewsPicksパブリッシング副編集長でありニュースレター編集長の富川さんが名付け親となり、「スロー・ディスカッション」とした。

第一回は翻訳者であり評論家でもある山形浩生さんに『21世紀の啓蒙』 『暴力の人類史』などで知られるスティーブン・ピンカーを語ってもらった。
第二回は、APU学長の出口治明さんにジョージ・オーウェルの『一九八四』を語ってもらった。そして第三回となる今回は、WIRED日本版編集長である松島倫明さんに『インターネットの次に来るもの』『テクニウム』などを書いたWired創刊編集長ケヴィン・ケリーについて書いていただいた(今日1/31の18時までにご登録いただけると配信に間に合う)。

根底にあるものは、「すぐに役立つものは、すぐに役立たなくなる」という思いだ(この言葉自体は楠木建さんのものと記憶している)。読書は、そもそも即効性に乏しい。しかし変化が速いからといってすぐに変化に飛びつき常に最適化していくよりは、一歩引いた目線から、変化の持つ意味合いを考え、自分なりの視点をもって舵を切るほうがずっといいはずだ。
変化に飛びつき続けるのは、本当に疲れるし、不毛だ。

長くなった。

作り手のカラーを発信するためにこういったnoteの発信ももっともっとしていきたいと思う。これからもNewsPicksパブリッシングを、よろしくお願いします!

HP:https://publishing.newspicks.com/

Twitter:inoueshinpei


追伸、的な:
昨日、2020年代を代表する本になるであろう超大作、『シン・ニホン』を校了しました。

自分の中に、「稀代の名著の編集に携われた喜び」と、「自分は一生これを超える本をつくれないのではないか」という不安の両方が同居しています。これについては、またnote書きます。

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