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【ウクライナ情勢:考察】ロシアのウクライナ侵攻にNATOがどう動くかで、これから先の世界中の国境線が目まぐるしく変わってしまうだろう。

 「ロシアがウクライナに侵攻しようとしている。標的はキエフだ」とアメリカが宣言したから数日後、本当にロシアがウクライナに侵攻した。国境を接する東ウクライナだけでなく、首都キエフにもミサイルを発射した。

 ロシアは核保有国で国連の常任理事国だ。ロシアがnoと言えば国連軍は動けない。国連軍と言えども、ほとんどはアメリカの軍なのだが。

 大国間の戦争への抑止力として、核の保有が正義であるとみなされた。そのパラダイムの根底には「戦争は、大国間で行われた場合には世界全体に多大なる損益を与える」ものとして核保有と増産が認められてきた。核を減らしたと言えども、人類をいくらでも絶滅させることのできるほどの核の数は、歴史上変わってはいない。

 ここで、今日こんにちロシアはある実験を始めた。核保有国で常任理事国の国家が、核を持たず非常任理事国の国家を侵略した場合、大国間でのパワーバランスのみで平和が成り立っていた世界に、侵略という新たなる侵攻をしたらどうなるのか、その実験だ。

 以前ならば、アメリカが真っ向から対立し、すぐにNATO軍を派遣し、ウクライナを戦場とし、多くの難民を生み出しながら“正義”の名のもとに、ウクライナ政府をギリギリまで支援していたことだろう。しかし、時代は確かに変わり、アメリカはアフガニスタンから撤退をするなど、他国をフォローしていくだけ、無駄な国力を使ってしまう、という結論に至っていた。事実、アフガニスタンからアメリカ軍が撤退した数週間で、武装勢力という言い方は失礼かもしれないが、タリバンがアフガニスタンを侵略した。アメリカに支えられていた、かつてのアフガニスタン政府はアメリカ軍に甘え、自力での国防への備えを全くしていなかったことが明るみに出た。「自立しない政府」に対しては、軍を送るだけ無駄だというのが、今のバイデン政権の方策として明確に出た結果となった。

 ここにロシアは目を付けた。アメリカのCBSニュースの世論調査では「ロシアとウクライナの交渉については関わるべきではない」という回答が53%を占めたという。アメリカという大国であっても、他国への干渉戦争にはもう疲弊しているというのがアメリカの世論の半数に及ぶ。“世界のアメリカ”ではなく、自国の成長のみで精いっぱいだとする世論が半数にも占めたのだ。それで、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領が誕生した。その後のバイデン政権も、他国への干渉を避ける方針であることは、先ほども書いた。

 「すべての戦争は悪である」というのが常識のようになった第二次世界大戦以後、戦争の火種が出始めた時に、燃え上がることが無いように火消しの役割を果たしてきた国がアメリカだった。そのアメリカが、火消しの役割をやめた。小国に対する守護者としての役割をやめた。ノブリス・オブリージュなどをやっている場合ではないと方策を変えたのがトランプ政権が誕生してからのアメリカの方針となった。

 そこを、今回ロシアは突いた。ある意味で社会実験である。火消しの役割をやめたアメリカと、いまだに世界は第二次世界大戦後の共通テーマである「すべての戦争は悪である」と二つの矛盾を見事に突いてきた。「すべての戦争は悪である。だからロシアの侵攻を止められるかい? 止めようとしたら戦争になってしまうよ? 第三次世界大戦も視野に入ってくるよ? だから止めないよね」というわけである。NATO加盟国も簡単には手出しを出すことができない。経済制裁しかできない。しかしそれでは国際連盟が第二次世界大戦を止められなかった轍《わだち》と同じ線を辿る。

 NATO加盟国のうち、どこかの国が暴発して、全面戦争を仕掛けたら第三次世界大戦に間違いなく、なる。「戦争は悪である」という理想的なテーマと「大規模な戦争に発展しそうな侵攻を、止められる火消しを失った世界」という現実との乖離。この二つのテーマのどちらが先に消えるのか。ロシアは社会実験のようなことをし始めた。

 二つのテーマの間に挟まれ、ジレンマに陥り、何もできないままウクライナがロシア領になってしまうようなことが起これば、「大国は小国を簡単に支配することが可能」という実験結果を生み出してしまう。中国と台湾のような関係も危うくなる。実際に中国は香港に対して力による制圧を成し遂げたのであるが、そのときも、アメリカは全く関与しなかった。今回のロシアのパラダイムシフトとなるような社会実験の結果次第では、国々の国境線は目まぐるしく変わっていく未来が予見されるであろう。

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