国語の教科書に挟まれた手紙の話
昔はモテたとほざくオッさんほど醜いものは無い。
だけど、今日だけは言わせて欲しい。
僕は小学生の時、モテたのだ。
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それは僕が中学2年生の時、国語の授業の準備をしている時だった。
その日から、入学時に配られた中学2年生用の国語の教科書を持ってくるように言われていた僕は、どんな内容かとそれをパラパラとめくっていた。
すると、一枚の封筒がひらりと落ちた。
なんだろうと思い裏面を見ると、小学校のとき同じクラスだった、とある女の子の名前が書いてあった。
なんだこれ?僕は手紙を取り出して読んでみた。すると、だんだん記憶が蘇ってきた。
それはぼくが中学に入学してしばらく経った、たしか5月くらいの出来事だったと思う。
僕は地元から1時間ほどかかる中高一貫私立の男子校に進学していた。その当時は体力がなかったので、ヒイヒイ言いながらの登下校だった。
その日も、僕はフラフラになりながら家路についていた。
もうすぐ家に着くところで、家の前に2人の女の子が立っているのが見えた。
よく見ると、二人は小学校の同級生だった。2人はこっちに気付くと「きゃあ」とか「わあ」とか言いながら足早に去って行った。僕はなんだか恥ずかしくなって、赤くなった。
家に帰ると、母親がニヤニヤしながら、
「◯◯さんから手紙来てたよ」
と、封筒を渡してきた。
僕は、うるさい、とか言って、それをバッと奪って自分の部屋に駆け上がった。
部屋出手紙を開くと、中学校で別々になっちゃって寂しいね、とか他愛のないことが書いていた。
僕は恥ずかしくなって、それを最後まで読まずに国語の教科書に挟んだ。
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ここで一つ重要なことを補足すると、僕はその手紙を書いた小学校の同級生がとても好きだった。
もちろん異性として、である。
小学校3年生の頃から卒業するまでずっと好きだった。彼女は他の女子とは違ってとても大人びていて、かといって威張ったところが一切ないのが素敵だった。
中学2年生の僕は、手紙を読みながらそのことを思い出していた。なぜ今まで忘れていたのだろうか。あれ以来一度も開いたことはなく、すっかり存在を忘れていた。あんなに好きだったのに。
その手紙は相変わらず下らない内容が続いていら。吹奏楽部に入っただとか、だれそれが転校したとか、そういうことだ。
そして、手紙の1番最後に、
「好き、かも」
と小さな文字で書いてあった。
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その後の展開は特筆したことは何もない。
僕の手紙に気づいた同級生がそれを奪い取り、井上がラブレターを持っているとクラス中に喧伝した。次の日には、学年中が彼女の名前を知っていた。
今の彼女に会いに行こう、みたいな企画が立ち上がったような気もするが、確かなことは覚えていない。少なくとも彼女と再会するような出来事がなかったのは確かだ。
要するに、男子校でよくあるような愚にもつかない恋愛話だ。
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なぜ僕は、その手紙を最後まで読まずに国語の教科書に挟み、その存在を忘れてしまったのか。
それがこのお話の重大な謎である。
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