けむりの話。

概念接続を覚えてしまったので。

けむりの世界は基本的に「役に立たないやつはいらない」で動いていると思っている。利が得られるから手を組んで、 害をなされないために味方する。
嵐蔵院と残照は典型だし、残照と右近さん演じる坊主(公式にキャラ名がない)もそういう感じで、主人公の十兵衛と厚見の姫様も互いを利用し合う関係。後半で口約束が崩れて正式に取り立てられることがない(だろう)ことがわかるけど、それでもなお十兵衛には利があるんですよね。4回(6回だっけ)戦に出て、そのいずれも兵が言うことを聞かずに負け続けた十兵衛は、この大博打に勝てば軍師としての才を証明できる。実績と何より自尊心の回復は彼にとって十分な「利」なんですよ。実際彼は、厚見から与えられた目に見える報酬を蹴ってなお満足そうにしている。

ここで莉左衛門と則治ですよ。
彼らはまあなんというかその…少々素朴な人柄というか味方を疑うことを知らないというか、“味方”の立場だから無条件に信じられると思ってるし無条件に信じてもらえると思っている節がある。彼らの周りの人間は利害関係で動いているんだけど、彼らは己が持っている「役に立つ」価値をわかっていない。わかっていないというか、失われるものではなかったから意識に上らないというか。

則治の価値は言うまでもなく「嵐蔵院が産んだ唯一の嫡男」であること。おつむの弱さもいくさびとには向かない気性も補って…はないんだけど、代替がないから則治の必要性を損なえない。おばかだけどひねくれてなくて、自分の実力(のなさ)をよく自覚してるからお荷物なだけで害もないしね。彼は存在しているだけでよかった、何も言わず何もせず、空気のようにしかあれないからこそ必要とされ愛玩された。彼の意思は誰も求めてなかった、彼女以外は。
彼の信じていた優しい無関心な世界を壊されてしまった則治は、神さまみたいな生き物だったな、と思っている。西洋の一神教ではなく、八百万の神さまたち。犬猫を扱うように軽んじた母の手に躊躇わず一斬りを返し、凶刃さえ我が身で受け止める忠義に応えひと時でも正気を取り戻し、息子を庇う母の背を守るように敵を斬り。侮られれば祟り、尽くされれば守る日本の神さまみたいだと思った。

莉左衛門の価値は、本人は武術の腕だと思っていたようだけど実のところそこじゃないんでないかと思う。いやまあそれも重宝されているんだけど、彼の本当の価値は「手綱がついている」ところにある。忠誠心もそうなんだけど、口下手で実直で長雨がいなければ情報伝達が成り立たない彼は「能力は高いが自分たち以外に使いこなせない」から役に立つ。まーなんというか悪い言い方をすれば、人並みな対等を築けないないからこそ重宝されてるんですよね。
則治が「子供は望めぬ」と見限られなければそのまんま、不器用さを価値として愛玩されていられたろうに。嵐蔵院が一度だけ、莉左衛門に“ちゃんと”話させようとしたときがあったじゃないですか、あれ確か則治は血を残せぬと見限った後じゃなかったっけ?

オチはないです。

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