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第5話「逃げ去る恋」

あんなに愛し合った夏の日。
でも秋を前に彼女は去っていった・・・
何度かけても電話に出てくれない・・・傷心の秋・・・

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9月初旬

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9月初旬のある日、『ニュースzero最終オーディション』の緊迫した現場。

水を打った静けさの室内に着信音が鳴り響く。
携帯を掴んで急いでスタジオの外で電話に出る。

『もしもし、小窓王さん・・・実はお願いしていた、番組が急きょ終了する事になりまして・・・』

電話は某制作会社のプロデューサーからだった。
去年始まる時は「長いレギュラーになりますよ」って言ったはずなの(泣)

そう、それも恋と同じかもしれない。
夏の終わりから秋にかけては、番組の改編期。
それは、古い番組が終わり、新しい番組が決まるまでの真空の時期。

プレーヤーにとっても、マネージャーにとっても、ほんとうに胸が締め付けられる季節なのだ。

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9月中旬

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知人から女の子を紹介され、食事をすることになった。
これもタイミングなのか・・・ 寂しくなっていた心に、風が吹く。暖かいのか冷たいのか・・・

同時期、某放送局から新番組の依頼が舞い込んできた。
新番組の話に小躍りする。

が話を聞いてみると「ナレーション量が多いのに、ギャラが叩かれるようだ」‥‥うーんむ……

あれから、また数本レギュラー番組が終わっている・・・なのに、新番組はまだ何も決まっていない。

電話を切ってしばらく1人で考えこむ・・・

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一期一会と言う言葉があるぐらいなんだか

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雑念が頭をよぎって行く。
スケジュールが空いてるよりは、安くてもいいから入っていた方が・・・

だってこの番組は安いかもしれないけど、やっぱり声を掛けてくれる出会いを大切にしたいし。それにここで出会ったスタッフが、今度は別の番組で呼んでくれるかもしれないし。

そう、「先行投資と考えれば」やらないよりやった方が良いに決まってるし。それにことわざにも一期一会と言う言葉があるぐらいなんだから。

そう独り言を呟きながら、自分を納得させて出した結論だった。
そして、大窓王に新番組の経緯を手短に伝える。

『う~ん。いつまでたっても、昔の癖がぬけないなぁ』

な、なんですと?!

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プレイヤーの価値を

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『昔のくせ?!ど、どういうことですか?!』

『働かないで暇をしてるんだったら安くても仕事をしてる方が良いという、その発想だよ!でもその考え事体が、プレーヤーの価値を下げてると言う事をよ~く考えなさい』

『でも安くても、仕事があった方が事務所にとってはプラスですし…きっとプレーヤーも喜ぶかと…』

『プレーヤーの成長段階にはそれが必要な時期もある。だが、そのひもじい発想をしてる限り、トップクラスのプレーヤーのマネージメントはまだまだ難しいな。いいか目先の幾ばくかのギャラで右往左往するのではなく、そのプレーヤーの3年、5年先を見てマネージメントをしなさい。そしてプレーヤーの価値を上げると言う事はどういう事かよ~く考えなさい』

ふたたび一人になって、大窓王の言葉を何度も繰り返した。

仕事がなくなる恐怖にしばられていたのかもしれない。

危うくプレーヤの価値を落としてしまう所だったのだ。

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10月初旬

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番組改編も一段落した、うららかな午後。

あの断った仕事と同じスケジュールの時間に、条件もはるかに良い別の番組の話が決まった。
仕事とは不思議な物である。

「勢いのある人の元には、仕事は真空を嫌い集まってくるのだ」

だからトップマネージメントとは、いかに条件の悪い仕事を切って、良い条件の仕事をさせるのかと言うことなのだろう。

大窓王に、さっそく今の思いをぶつけてみた。

「このあいだ言っていたトップマネージメントですけど。プレーヤーの価値を上げるってことは、悪い条件の仕事を断ると言う事だったんですね」

大窓王はコーヒーを片手に持ちながら、ちらりとこちらを見た。

『やっと、それに気付いたか。でもそれだけではトップマネージメントのまだまだ入り口だな』

そういうと大窓王は、飲みかけのコーヒーをゆっくりと口に注いだ。

私は驚愕していた。
やっとたどり着いた答えだったのに、その答えがまだまだ入り口とは!!
トップマネージメント。その全貌とは、どうなってしまうのか。

知人に紹介された女性と会うのは断ろうと思った。
あまり趣味ではなかった。向こうも乗り気ではなさそうだし・・・

いま、私には彼女より新番組という「獲物」が必要なのだ。

なぜなら私は『改編の狼』なのだから。

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