漫画『罠ガール』の完結に思うこと。取材裏バナシも少し。
狩猟系漫画『罠ガール』の9巻が今週(2024/6/26)に発売されます。しかも、完結!マジか・・・。切ない。
本記事では、そもそも『罠ガール』とはなんぞや、というところから、これまで僕がかかわらせて頂いた部分(ほんの少しだけですが)や、取材をいただいた時のお話し&裏話。そして作者である緑山先生と同じく、僕も猟師であり、それを伝える生業をしているという立場から、今回で完結となる巻を読んで思うこと、などを書いていきます。
■「罠ガール」ってナニ?
緑山のぶひろ先生による本格罠猟コミック。「わな猟免許」を所持する主人公の女子高生が、田畑を守るため高校の同級生たちと日々罠猟や獣害対策に奮闘する、という内容です。
※罠免許は18歳から免許の受講資格がありますので、高校3年生であれば、ギリギリ罠猟は可能です。
また、ウィキペディアでは、連載スタートの経緯が以下のように説明されてます。
上記にもある通り、僕が思うこの漫画の最大の魅力は、作者の緑山先生ご自身が農家兼罠猟師、そして漫画家であり、ご自身が農家として獣害から田畑を守る現場の当事者だからこそ描けるリアリティ、です。
自らが現場で動き感じたこと、更には丁寧かつ本気の取材(後述します)で知り得た、山間地の鳥獣被害や有害鳥獣捕獲の現状が、リアルにそして、分かりやすく&オモシロかわいく(これ大事!)漫画に落とし込まれてます。
登場キャラクターたちのかわいい絵柄に反して?、技術的な情報自体はもちろんとして、描かれる動物や猟具、そして背景もリアルです。
事実をベースに、切実な獣害の現場を、誠実に漫画として落とし込んだ内容は、コミック業界だけでなく農業・狩猟関係者からも注目を集め、農業系の新聞や、機関誌などでも多数紹介されたりしているようです。
更には農林水産省や環境省の「鳥獣被害防止に向けた捕獲キャンペーン」や中央畜産会の「豚熱ウィルス拡散防止」等の啓発ポスターに書き下ろしのイラストが採用されるなど、狩猟や獣害対策、野生動物界隈の現場で見かけた方も多いのではないでしょうか。
豚熱拡散防止のポスター画像 出典元:農林水産省
そんな漫画「罠ガール」。既に罠猟をやっている人ならもちろん、これから罠猟をやってみようという人、そうでなくとも狩猟に少しでも興味があれば、楽しめつつもかなり実用的&勉強になるのでオススメです。
と言うか、獣害が関係する地域(つまりは日本全国)の高校では、図書館に無条件で置くべきとマジで思います。
■漫画内にキャラ(清水安智)として登場&監修
そんな罠ガールの後半(6巻)から、たまにではありますが、僕(安田)をモデルとしたキャラクターが、主人公達の先輩の女猟師(超人見知り)である清水夏芽、の兄・清水安智(やすとも=やっさん)として、紙面に登場させていただいております。
以下、漫画の画像引用元:『罠ガール』(緑山のぶひろ、KADOKAWA)
↑の漫画内のキャラ(清水安智)の元となった写真↓
きっかけとしては、6巻〜7巻の「毛皮なめし編」のための取材&監修依頼のために、先生と編集さんが猪鹿庁の『毛皮なめし講座』にご参加いただいたことから始まります。
他の参加者の皆さんが参加費を払ってくださっている講座などの現場に、メディアの方が取材に来てくださる場合、取材とは言え、僕はメディアの方を特別扱いすることは基本的にしません、って言うか、そんな余裕がありません!(取材として別途日程や時間等を調整させていただいた場合は別です)
取材対応を理由に、本来、参加者の方々に割く時間が少なくなってしまったり、一部の内容が簡略化しまう事などは絶対に避けたいからです。
ですので、編集さん&先生に上記の考えをお伝えしたことに加えて、
『もし本当に「毛皮なめし」とこの講座の空気感を含めたリアルを知りたい&学びたいのでしたら、取材者ではなく、参加者として、一緒に全てを体験して欲しいし、夜のジビエ飲み会もぜひ参加して欲しい(ココ重要)し、参加費も通常通りいただきたいです。』
と率直にお伝えしました。
こんな提案をすると、熱意や本気度が無いメディアの場合、「じゃあ結構です。」と断られる事もあります。それはそれでしょうがないとも考えています。
ですが、この時は先生・編集者さんのお二人は快諾していただき、取材者ではなく、一般の参加者として、がっつりご参加いただく事となりました。
そして、講座当日。実際の毛皮なめしの作業は、かなりの集中力と体力をつかいます。初心者であればなおさらです。講座において一人が使用する鹿の毛皮は、通常は1/4サイズにカットして作業をします。これでも結構しんどいです。
ですが、実際に講座を受講いただいた際の先生は、毛皮まるまる1枚、しかも大きな雄の成獣の鹿皮を選ばれました。(無謀や!)
日々の農作業と獣害対策、執筆でお疲れであろうことは、初めてお会いした際の表情からもありありと分かってしまう(失礼!)先生でしたが、講座中はヘロヘロになりながらも、一泊二日の講座において全てのなめし作業(更に自宅での追加作業も含む)をやり切ってくださいました。
この取材が元になった「毛皮なめし編」の漫画内でも、主人公の千代丸は、一人だけ大きな雄鹿の毛皮まるまる1枚を選ぶこととなり、安智の容赦ない指導にヘロヘロ(というか、最終的には気絶状態)になります。
これは、一見、漫画的な「盛った」表現と思われるかもですが、紛れもなく実体験を経て描かれた、リアルと言うか、先生の心情をストレートに表した描写なんだと。
どんだけキツイ講座なんだよって話しですが・・・、実際の講座中の僕もちょっとサディスティック&マゾいです。ただ、良い毛皮として残すのであれば、少しの妥協が最終的な作品の仕上がりにそのまま残るし、後からやり直しは出来ないので、やり切るしか無いんですね。
サインをお願いした際のエピソード
緑山先生が参加してくださった講座の1日目の夜。1日目の講座を終え、参加者のみんなでジビエやお酒もいただきつつ、ひとしきり盛り上がった後、恐る恐るながらも厚かましく、緑山先生に漫画の裏表紙にサインをお願いしました。
先生は毛皮なめしの作業でヘロヘロであるにもかかわらず、サラっと名前のみのサインで済ますのではなく、主人公・千代丸のキャラ絵をきっちりと下書きを入れた上で、丁寧に時間をかけてペンで描いてくださいました。
たぶん、一日中ずっと毛皮なめし作業をしたおかげで、ペンを握る握力も無くなっていたかと思います。ペンを握る手に白い包帯の様なものをぐるぐるに巻きながら(「邪王炎殺黒龍波」の飛影みたいな感じ)、カリカリと描かれているその様子を少し離れた位置から見ていた僕は、一人勝手に落涙したのでした(恥)。
後日、送られてきた「ネーム(漫画の設計図。コマ割りやセリフなどがラフに描かれたもの)」に、技術的な間違いなどが無いかチェックさせていただく際に、自分がモデルのキャラとして登場していることを知り、ぶったまげつつ、「俺にも念願の妹(二次元)が出来た!」と歓喜したのでした。(男ばかりの家庭&兄にしいたげられた幼少期を過ごした反動です。許してください。)
そんな「毛皮なめし講座」ですが、その様子は、以下の猪鹿庁のYoutube動画にて、ダイジェストのPVにしてます。
毎年、冬に実施しておりますので、自分の獲物の毛皮をなめしたい人はもちろんですが、レザークラフトや毛皮全般が好きな方にもオススメですよ。今年は秋にも実施する、かも?
猟友てっちゃんのカフェとジビエ料理も登場!
それからしばらく経ち、8巻の「ジビエ料理編」にも、緑山先生と編集さんが再び郡上に取材に来てくださいました。先生からの要望は、「美味しくて、女子高生が喜びそうなジビエ料理、そして、出来ればちょっとトガったジビエの一品も欲しい!」とのこと。
僕一人ではキビシイ!ってことで、猟友かつ、僕よりも舌が繊細?でジビエ料理が上手いてっちゃん(と奥さん)に協力してもらい、彼のカフェ「kedi cafe」にて、ジビエ勉強会&試食会を実施しました。
てっちゃんと奥さんが考案してくれたレシピと、その指導の元、先生や編集さん、いつも猪鹿庁のイベントに協力してくれているスタッフのみんなと一緒にワチャワチャと騒ぎつつ、鹿ロコモコ、鹿カツ、イノシシ小籠包、そして(一部からは顔をしかめられつつ)カラススパイスカレーなどを作り、腹いっぱい食べたことは良い思い出です。
※この日のために、エアライフルでハシボソガラスを捕りました。
特にカラススパイスカレーの味については、試食をしたメンバーが「けっこうイケるやん、の旨い派」と「これは無理だろ、のマズい派」と真っ二つに決裂。
喧々諤々にジビエ、と言うかカラスの旨さとは?という激論に展開したのでした。緑山先生の反応は‥‥‥、漫画を読めばたぶん分かります(笑)
■エアプの真逆をいく、真摯さを
ちょっと話しはそれますし、自戒を込めて書くのですが、ものを伝えることや何か作品を作ることにおいて、エアプ(エア・プレイ。やっていないのにやったふり、知ったふりをすること、です)は絶対にまずい。と言うか、寒いし、痛いし、不誠実です。
そんなの当たり前、とも言えますが、それに近い行為や作品、サービスに触れたり、そう感じる場面ってけっこうあるし、その度に傷ついてしまう。
ちょっとググればあらゆる情報が手に入る(と勘違いしやすい)昨今において、ネットに蔓延るいわゆる「コタツ記事」や二番煎じのうすーい情報、誰かから聞いた伝聞をさも自分の体験や武勇伝として語っている事など、すぐにバレるし。そういった記事や言動を、僕は受ける側としては当然として、発する側として、心底嫌悪します。
言うまでもないのですが、 『罠ガール』を読んでいて、その真逆をいく真摯さ、スゴみを感じます。ただ調べただけで絶対に終えない。一次情報を聞きかじっただけで満足しない。自らが知って、体験して、出来るようになって、その上で感じたリアルを作品として残そうというプライド、熱が、丁寧な取材から、漫画内のストーリーから、キャラたちの表情から、罠などを含めた技術的な情報から、現場そのまんまな背景の絵一つからもビシビシ感じます。その真摯さに心が打たれますし、背筋が伸びます。
■9巻。ついに完結!
2017年より連載を続けていた『罠ガール』ですが、残念ながら今週発売される9巻で、ついに完結してしまいます。
逆に言うと、罠猟だけをテーマに、これだけ濃い内容でここまで続けられたことにびっくりもするのですが・・・。
9巻の帯に大きく書かれた「野生動物との共生。」
最終巻となる本巻では、人と野生動物との共生について、(特に昨今全国的に話題にもなっている熊にもスポットを当て)主人公たちが議論し、考え、読む側も考えさせられます。
漫画の後半では、熊の駆除に対する抗議や非難がニュースとして取り上げらる描写があります。
また、鹿などの駆除や獣害対策をする主人公たちに対し、学内の他の(モブ的な)生徒が(悪意のないウワサ話しの形で、鹿などを捕っている主人公たちに対し)「シカかわいそー」だったり、「怖いんだけど」という声を発し、それを主人公たちが(たまたま事故的に)耳にしてしまう場面が描かれます。
悪意がないからこそ、グサっと胸に刺さるものがある。現場を知らない、ましてや「普通の」高校生にとっては狩猟や獣害対策に対し、そのような意見を持つことはごく自然とも言えます。
昨今では、数年前に比べると狩猟や獣害対策への理解はかなり進んだとは思われます。ですが、僕自身も狩猟の講座や狩猟系のツーリズム、獣害対策などを仕事・生業とする中で、誹謗中傷のメッセージや、場合によってはご丁寧に封書で、いわゆる「不幸の手紙」的なものがたまに届くことがあります。
その真逆で、御礼の声や手紙をいただく事も多いので、それで自分の中でバランスを取っている部分もありますが、たとえ多数の喜びの声をもらえたとしても、1つの悪意ある言葉(または悪意は無くとも心無い言葉)によって、人の心は簡単に傷つき、折れることもあります。(もう慣れちゃった部分もあるけど。)
そして、これは勝手な推測ですが、この漫画を書き続ける中で緑山先生は、多くの称賛や喜びの声をもらうのと同時に、少なくない誹謗中傷の声を受けたのではないかと考えてしまいます。(くどいけど、推測です)
それでも真摯に丁寧に書き上げられたこの作品と緑山先生に、心からの感謝と「本当にお疲れ様でした!」という気持ちでいっぱいです。
ありがとうございました。次回作を今から期待してます!!
最後に小ネタ
この9巻にも、安智さんが2コマだけ登場します。
ウォーリーを探せレベルに難しいですが、分かる人いるかな・・・。