下山進著『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版)は、メディア関係者やジャーナリスト志望の学生には必読の文献である

 コラム集である本書(もとはサンデー毎日の連載)のなかで僕について2回分、触れてます。


 発売されたばかりの下山進著『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版)は、メディア関係者やジャーナリスト志望の学生には必読の文献である。
 下山は3年前まで文藝春秋の編集者だった。単なる編集者としては飽き足らず、1993年に自ら進んでコロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級過程に進み修了しているが、その経験を『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善1995年刊)としてまとめている。僕は当時、その本を読み猪突猛進の迫力に魅了を感じた。先行する世代に対して次世代は、このくらい、小さくまとまることがない元気がなければ育たないと思ったからだ。
 その後も下山は文藝春秋出版局のエースとして活躍、僕の『道路の権力』(2001年刊)なども担当した。
 文藝春秋を50代で早期退職してから猛烈な勢いで取材を開始して、近作としてアルツハイマー治療薬の最前線についてまとめた『アルツハイマー征服』(KADOKAWA刊)を発刊している。
 本書でも繰り返し指摘されているが、朝日新聞をはじめとした新聞記事がなぜつまらなく役に立たないのか、ネットの時代に「他社を抜いた」などほとんど意味がなく、またそのために無駄な人的投資をして部数においても凋落傾向にある紙の新聞の経営、あり方に批判的だ。
 それに対して定期購読者(有料電子版も)が増え続けている英国『エコノミスト』誌は考え方が根本的違う。そもそもが記事というのはうすうすわかっていることをなぞるものではない。分析的であって、だからこそ深くなければいけない。だがいわゆる専門家の狭い深さではなく切り口・視点において別の深さ、斬新さを提供するものなのだ。
 日本に欠けているのはそういう脳みそを洗うジャーナリズムである。会社員時代の下山はどちらかといえばサラリーマン記者・編集者からは変人タイプと見られがちだった。だがこれから新聞社や出版社を辞めて独立する覚悟があるなら、このぐらい天上天下唯我独尊の気概及び該博な知力、行動力が求められる。
 そういう意味でも、これから起業して作家やフリージャーナリストを目指す読者(対抗できる自信がない場合は即お辞めになったらよかろうし、いや自分はもっと変人であると信じるなら挑戦を、その指標になる)には入門書として推奨したい。

※僕の書評に対して著者の下山進からFacebookで次のように応答があったのであわせて紹介しておきます。

<会社員時代の下山はどちらかといえばサラリーマン記者・編集者からは変人タイプと見られがちだった。だがこれから新聞社や出版社を辞めて独立する覚悟があるなら、このぐらい天上天下唯我独尊の気概及び該博な知力、行動力が求められる。>
猪瀬さんからこう書評されるのは最高のほめ言葉だな。
猪瀬さんは、まったく知らない若造の出した本を、1995年に読売で書評してくれた。1999年に出した『勝負の分かれ目』ではわざわざ自宅に電話をくれ感想をひととおり述べたあと「面白い、頑張ってください」と激励してくれた。
猪瀬さんも誤解をうけることの多い人だけど、書かれたものそれだけを見て評価する、ここに書かれてあるサラリーパーソン編集者のような「政治」はない。そのことは大宅賞選考委員をしていた猪瀬さんの判断でも強く感じた。
こつこつ頑張ろう。(https://www.facebook.com/100001797966519/posts/4339085379494685/?d=n


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?