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季節の変わり目


 天気が良すぎて嫌になってしまった。空が青すぎるとなぜだか心が苦しくなる。涙が溢れそうになって、気付く。私には何もない。伝えたいことなんて何にもないのだ、と。空っぽの瓶の中で、呼吸をしているとどんどん息苦しくなってきて、私には何もないということを痛感させられる。それからもっともっと苦しくなって、何かに縋りたくなる。せめて瓶の蓋を開けよう。そうすれば、楽になれる。それが良い方法かどうかは分からないけれど。瓶の蓋を開けることはできなくても、インターネットを使えば、大抵いつでも簡単に蓋に穴を開けて外の空気を取り込むことができた。インターネットは便利だなあ、と思う。でも便利だからと言って、それは本当の解決にはならない。だって、瓶の中身は結局空っぽのまま。ただ空気があるだけ。呼吸ができるだけで楽になった私は、やっぱり私には何もないじゃないか、と気付く。いや、本当に何もないのだろうか。…分からない。季節の変わり目というやつに感傷的にさせられているだけなのかもしれない。あんなに積もっていた雪が一気に溶け、寒い寒い冬が終わろうとしていて冬が死んでゆく匂いと、暖かい春の風を思い出させる春の訪れのあの感じが混ざって、私を混乱させているのかもしれない。久しぶりに乾いたアスファルトの上を歩いていると暖かいようで寒くもある身体につんと突き刺さるような風とその温度を感じ、不思議な気持ちになった。心がざわざわして落ち着かない。家に帰ると、大丈夫になった。やはり、この気持ちは天気のせいだったのだろう。私の瓶にはカーテンの一つもないから、青々と晴れた空や燦々と降り注ぐ陽の光は、眩しすぎたのかもしれない。やっぱり涙が溢れてくる。なぜだろう。分からない。まだ冬は終わっていない。だけど、終わりに近づいている。春が来るらしい。多分、確実に、来るらしい。春が来ることが嫌なわけではない、だけどなぜだか苦しくなる。季節が巡りゆくのは普通のことだ。なのにどうしてこんなにも苦しいのだろう。冬が特別大好きだったわけでもない。四季の中では割と好きではあるけれど。変わるということが、苦しいのかもしれない。季節のない所へ行ってみたい。でも、無いと無いで、つまらないのだろうな。やっぱり苦しい。涙が溢れる。明日もこんな感じなのだろうか。困ったな。今できること、なんだろう。

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