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『編集者、それはペンを持たない作家である』創作出版のルーツ、神吉晴夫氏の方法はグローバルIPビジネスに通用するのか(他社の歴史)

 光文社の2代目社長、カッパ・ブックスを生み出した神吉(かんき)晴夫氏が、自身の経験を通じ、編集者についてを語ったもので、『カッパ兵法 人間は1回しか生きない』を再出版したものだ。

 当時、著者が自分の書きたいことを書き、それを一字一句変えずに出版することが当たり前だった時代に、「創作出版」の名のもと、著者との共同作業による本作りを行い、ミリオンセラーを連発したのが、神吉氏だ。

 神吉氏の考え方はシンプルだ。
 編集者の仕事は、読者の代表として著者の一番近くにいる素人に過ぎない。著者側でなく、読者側に立ち、自分の大衆としての感覚、感情、欲望を起点に、著者と一緒に共感共鳴のバイブレーションを起こしていくことだとしている。

 当時は世界大恐慌で本がまったく売れない時代。すぐれた企画だけが生き残る競争時代に入っていた。光文社は苦境のドン底だった。その環境で神吉氏が手掛けた『少年期』は売り出された。
 神吉氏が考えたマーケティングは、他人の力を借りること。『日本紳士録』や『文化人名録』から、『少年期』を読んで評判を立ててくれそうな有名人や、その人の言葉から読書欲を掻き立てそうな人を300人に謹呈した。初版5千部のうち300部を謹呈なので大きな投資だ。それからの1週間は、毎日、毎日が薄氷を踏む思いだったという。
 しばらくすると、朝日新聞の夕刊の小さなコラムで、『少年期』が紹介されていたのだ。出版2ヶ月で18版のベストセラーとなった。会社のあり金をすべて使って大新聞にも宣伝したという。

 神吉氏は序文の原稿に10回ほど返した例が紹介されているが、著者はつくづく腹がたったそうだ。しかし、その本は100万部を超えるミリオンセラーとなった。
 このような編集者と著者の関係は、お互いが多くの読者に広げたいという共通の目的をもち、お互いのリスペクトが根底にないと、破綻してしまう。編集者にはそれぞれのやり方がある。神吉氏のやり方がすべてではないだろうが、本書に書かれた方法論は、今の日本の出版業界を作り上げたと言っても過言ではないだろう。
 しかし、これからは人口減少の時代に突入する。
 日本国内だけをターゲットにした出版方法では行き詰まる。ならば、グローバルにIPビジネスを展開することになるが、そこでの読者は日本人ではない。したがって、キリスト教徒の読者、ユダヤ人の読者、イスラームの読者にどう受け取ってもらえるかという発想が必要になる。もちろん、その中に日本人も含まれるのだが、新しい方法論を必要としていることだけは確かだ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。