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DDT3.20後楽園ホール大会雑感



2月末に政府からイベント自粛要請が出て以来、プロレス界は対応が割れた。

業界最大手の新日本は3/1から始まる大会すべての中止を決めた。
当初3/15までの予定だったが、政府の延期要請に従いさらに延長。
3/31の両国大会は開催予定も、その内容についてはいまだ発表がない。

全日本、ノア、DDTといった各団体も3月上旬はまるまる中止になった。
女子プロレスのスターダムは無観客試合を行った。
一方、大日本プロレスは予定通り開催した。会場の換気を行い、観客全員に消毒での対応をしたが客足は通常時より落ちていた。

約3週間、興行を休止したDDTはこの3/20後楽園大会から再開することを発表した。
高木社長はTwitterに「葛藤はありましたが選手、社員、そしてプロレスというジャンルを守るため再開させていただきました」と書いた。
DDTは今、上場企業の子会社だ。社会的なバッシングに遭うことは何より御法度だ。
この一文からは「そのことは重々わかってはいるが、これ以上の休止は会社が傾いてしまう」という切迫感があふれている。

会場入口では来場の観客全員の検温と、消毒が行われた。
サイン会に出る選手はマスクをしており、今日は握手は行わないとアナウンスがあった。
オープニングVTRはマスクやトイレットペーパーの品切れを告げる張り紙を出したドラッグストアの店頭や、営業短縮を告げる張り紙を出す飲食店の映像、興行休止中に行った無観客試合の配信の様子、主要選手が「こんなときだからこそ今プロレスを届ける意味」をクイーンの「Show must go on」に乗せて語る映像。
観客は6割くらいか。少ない。

「非常時のプロレス」が始まった。

<3月19日時点のさいたまスーパーアリーナ・KO-D無差別級王座挑戦剣保持者>

遠藤哲哉


<3月19日時点のいつでもどこでも挑戦権保持者>

青木真也
ロイス・チェンバース
マッド・ポーリー
飯野雄貴


○オープニングマッチ 岡谷英樹デビュー戦 30分一本勝負

吉村直巳&中村圭吾 vs 勝俣瞬馬&岡谷英樹

新人の岡谷デビュー戦。ガタイがよく、色がついてない感じがゼロワンあたりの新人ぽく、あまりDDTの新人ぽくない印象。

もう中村が先輩で、勝俣は中堅なんだなという部分で自分が年を重ねていることを実感する。


○第二試合 アイアンマンヘビーメタル級選手権時間差入場バトルロイヤル 時間無制限勝負

<3月19日時点の王者>大鷲透

<挑戦者>男色ディーノ、高梨将弘、アントーニオ本多、平田一喜、渡瀬瑞基、納谷幸男、大和ヒロシ

途中、ベルトが2つや4つに分裂したがだいたいいつもの感じ。


○第三試合 30分一本勝負

青木真也&大石真翔&MAO&マイク・ベイリー vs CIMA&高尾蒼馬&マッド・ポーリー&エル・リンダマン

青木真也vsCIMAという異次元な夢の組み合わせが垣間見られた。
なんにせよ青木真也は努力をしている。

MAOの扱いがもったいない。


○第四試合 30分一本勝負

HARASHIMA&丸藤正道&上野勇希 vs 彰人&飯野雄貴&ロイス・チェンバース

竹下がイギリスから呼んだというロイス・チェンバース、確かに飛び技はすごいが粗も多い。ウィル・オスプレイの初来日の時と印象似ている。
ということは四年後あたりにネットプロレス大賞MVPを獲ったりする可能性もある。
どういう経緯かわからないが「いつでもどこでも挑戦権」を持っていた。

HARASHIMAと丸藤が噛み合ってるようで噛み合ってなかった。
丸藤の希少価値がどんどん償却されてるのが気になる。

試合後、6月のさいたまスーパーアリーナで
「HARASHIMA&丸藤vsCIMA&高尾」
が決定。
2000年代、「2ちゃんねるプロレス板ユーザーでの夢の対決」1位だった丸藤vsCIMAが2020年のDDTで実現する。


○第五試合 業務提携vsEruption! 30分一本勝負

遠藤哲哉&T-Hawk&島谷常寛 vs 樋口和貞&坂口征夫&赤井沙希

EruptionのエントランスPVは大変カッコよい。「時計じかけのオレンジ」に出てくる愚連隊ぽい。
このチームは樋口をプッシュしないと意味がないと思うのだが、当の樋口はなんとなく「いやいやリーダーは坂口さんで」みたいな態度をしてるのが気にかかる。

試合は島谷が奮闘してたことくらいしか印象にない。
終了後、いつでもどこでも挑戦権を保持するロイス・チェンバースが登場し、「さいたま挑戦権」を持つ遠藤に「俺は明日帰国するから、それを懸けろ」と挑戦表明。

Ex.さいたまスーパーアリーナ挑戦権争奪試合
遠藤哲哉vsロイス・チェンバース

ロイスが目を見張る飛び技も出すのだが、やはり全体荒い。
そういえば2年くらい前に入江が連れてきたサミー・ゲバラもこんな感じだったなあ、と思い出す。

ある程度受けた遠藤がシューティングスターで勝利。
しかしはたして遠藤がこのままさいたまのメインに出られるかはわからない。


○セミファイナル DDT UNIVERSAL選手権試合 60分一本勝負

<王者>クリス・ブルックス vs 佐々木大輔<挑戦者>

新設のユニバーサル王座のタイトルマッチ。
クリスに新しいベルト与えて独自の活動させるのはいいアイデアだな…と思ってたところで負けてしまった。
佐々木が持つとエクストリーム王座と同じになってしまうのでは…。
(現在のエクストリーム王座チャンピオンは青木真也)

試合後、アントンがリングに上がって挑戦表明するも佐々木が「やだ」と言って終わる、プロレスでは極めて珍しい光景が見られた。アントン…。


○メインイベント KO-D無差別級選手権試合 60分一本勝負

<王者>田中将斗 vs 竹下幸之介<挑戦者>
※第74代王者2度目の防衛戦。

 6月のさいたまスーパーアリーナのメインはおそらくこのカードなんだろう、と思っていたので先月田中将斗が次期挑戦者に竹下を指名したのは意外だった。

根っからのプロレスマニアだった竹下は田中のこれまでの活躍をほぼ見てきており、特に新日本でNEVERチャンピオン時代だったときに行われたvs石井智宏戦は「僕が見てきたオールタイム、オールジャンルのプロレスの中でベスト3に入る」ほど影響を受けたそうだ。
田中vs石井のNEVER戦は2013年2月だったので竹下はデビュー半年を迎えた頃だ。竹下はまだ高校生レスラーだった。
竹下はプロレスの壁に当たると田中vs石井戦を見返してて、あの試合に影響されて行ったのが2015年10月のともにDDT総選挙に落選して組まれた入江とのダークマッチ10分一本勝負だったという。そうだったのか。てかあの試合からそんなことに気づくやつおらへんわ。
竹下はそのへんの身の切り方が本当に下手だ。

それほど強くレスラーとして影響を受けた田中と試合することに構えてる竹下に対し、田中は陸上で鍛えた竹下のスタミナを警戒すると同時に
「こないだ『鳥之介』(=竹下の両親が経営する焼き鳥屋)行きましたわ。
お店が混んでたんであまりお父さんと話せなかったんですけど、帰り際ちょっとお話したら『(息子と)ガンガンやってください』と言われたんで、ガンガン行こうと思います。
あ、彼(=竹下)が離乳食代わりに食べてたというつくね、いただきましたわ。おいしかったー。うちの弾丸ツインズ(=田中の娘。双子)も完食してました」
と気軽に敵陣に家族で乗り込んでたことを話し、それを聞いた竹下が「ええっ、田中さんうちの実家来たんですか!?」と動揺してたのがよかった。
ちなみに竹下のお父さんと私は同い年で、田中将斗は私の一歳上で、竹下はちょうど二十歳年下です。
田中将斗はまさしく息子のような年齢の選手たちと連日防衛戦をしている。


試合は竹下がフィジカルでマウントを取る、いつもの展開になった。
竹下は立派な肉体を背景に、誰とやっても「ほらほら、俺こんなことできるよ。全然俺の方が上だよ」とマウントを取るような試合をする。
それ自体はプロレスラーとして悪いことではないが、若干飽きる。
この所作は自分より下のレスラーに対してだけなのかと思ってたが、田中に対してもやってたので目を見張った。
田中は足攻めで活路を見出すような防戦だった。

しかし後半になるにしたがってこの図式が崩れていく。
徐々に田中のハイペースな試合に竹下が合わせるようになり、やったらやり返す的な攻防が増える。
気がつけば竹下のペースだった試合が田中のものになっていく。
そしてあれほど盤石で、誰とやっても「はいはい、俺の方が強いんだけど、今日のところは負けてあげるよ」みたいな竹下が疲弊して、動けなくなっていく。
一方で田中はペースが落ちず、どんどん動いていく。そのことに驚嘆する。
最後はいつものスライディングDではなく、エルボーパッドをはずして打った強烈なローリングエルボー。
23年前、FMW川崎球場で当時圧倒的な強さを誇ったザ・グラジエーターを破ってチャンピオンになった時と同じだ!と震えた。

田中は試合後のマイクで竹下の健闘を称えつつ「今度、一緒に『鳥之介』行こう」と締めた。
もう試合から人間力まで田中の完勝。
2年前両国大会のCIMA戦もそうだったが、竹下は他団体の一時代を築いた選手と試合すると1プロレスファンに戻ってしまう。

田中を見てると元気が出てくる。
46歳になっても決して驕らず、偉ぶらず、努力を重ね、今なお進化しようとする。
尊敬の対象でしかない。

田中は決して最初からスターだったわけではない。
名もなくデビューして、FMWでドサ回りを続け、デスマッチで奮闘し、海外で実績を重ね、FMWがなくなってからは長年ゼロワンを支えてきた。
新日本のG1に相当する、ゼロワン夏の総当たりリーグ戦「火祭り」で2006~2009年まで前人未到の4連覇を達成している。

FMW時代の盟友・ハヤブサはこの世を去った。
仲間でありライバルでもあった金村キンタローは引退し、黒田哲広はフェイドアウトしている。
ゼロワンの盟友・大谷晋二郞は第一線から退き、コンプリートプレーヤーズの仲間・邪道外道もあまり試合に出ていない。

にもかかわらず田中は今も第一線にいる。
そこに励まされる。

田中は現在のDDTトップ3であるHARASHIMA・竹下・遠藤を全タテした。
次の挑戦者は…と今林アシスタントGMが言ったあと変な間があってから出てきたのは坂口征夫だったが、私は高木社長が出てくるのでは…と一瞬思ってしまった。
力量、人間力。田中に勝てる選手が思いつかない。

竹下のこのツイートが残る。
https://twitter.com/Takesoup/status/1241057862383620096?s=19

挑戦表明して一度は引き下がった坂口は思い出したようにリングに戻っきて、「今日はこんなときに来てくれてありがとう、俺たち選手はプロレスすることで元気を与えられるよう頑張ります」という挨拶で締め。

この先どうなるかわからない不穏な中でも、終わってみればメインがよかったのもあって解放感ある大会だった。
いい気分転換になった。

DDTは今後活動を再開するものの、自治体・会場より休止の要請があった場合は興行中止すると発表した。
また、昨日のアメリカ政府の発表で当面アメリカからの選手の入出国ができなくなった。
(ベイリーはカナダ、クリスとチェンバースはイギリスから来日)

どうなるかわからないのは全国民一緒だ。
できることをやっていくしかない。
プロレスは自分にとっていつも最上の自己啓発書である。


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