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「いのちの授業」あの日から(1号)

 『朝顔のように ~花は咲く』

 景子は、小児がんが進行する中、小学校に通学しました。
 ある日、学校で朝顔を植えました。子どもたちひとり一人に、植木鉢が渡されます。まず土を入れて種をまきます。そして、白い目印に自分の名前を書いて土に差し込みました。「どんな花が咲くかなぁ」「はやく咲くといいね」。みんな嬉しいそうです。

 夏、朝顔の花がいっぱい咲きました。子どもたちは大喜び! 景子の植木鉢にも、赤紫の花がきれいに咲いてくれました。でも、景子がその花を見ることはできませんでした。天国に旅立っていたのです。

 夏休みを前に、朝顔の植木鉢を自宅に持って帰る日のことです。先生は、子どもたちに尋ねました。「景子ちゃんの朝顔はどうしたらいいと思う?」。子どもたちは、少し首をかしげています。ある子が言いました。「お家に届けてあげよう。お父さん、お母さん、きっと喜ぶよ」と笑顔です。

 私は、初めてその朝顔を見たとき、景子が帰って来てくれたように感じました。
 その日から、私も淳子も「景子ちゃんの朝顔」と呼んで、水やりをしました。淳子は、一番きれいな花を押し花にして居間に飾りました。
 翌年から、五月になるとその種を植えました。「景子ちゃん、きれいな花が咲くといいね」と話しかけながら。芽が出る、つるが伸びる、花が咲く。景子がいてくれるようで、それだけで幸せな気持ちになりました。

 ある年は、長雨の影響でしょうか、なかなか花が咲きませんでした。「大丈夫かなぁ」と心配していると、七月五日に花が咲きました。その日は、景子の命日でした。「頑張り屋さんの景子ちゃんらしいなぁ」と、苦笑いでした。

 別の年に、淳子は朝顔の種を「いのちの大会」で配ることにしました。
「もらってもらえるかなぁ」と淳子は心配な様子です。袋の中にメッセージも入れました。「景子が小学一年生の時、学校で植えた種です。毎年たくさん取れるので、今年は皆様におすそ分けしたいと思います。来年の春、お庭やプランターに植えてください。 きれいに咲きますように♡♡♡」。みなさんが持ち帰ってくれました。「景子ちゃんの朝顔、植えますからね」と。
 景子ちゃんの朝顔。もう二十年を超えています。

 朝顔の花は、なぜ朝に咲くかをご存知ですか? 
 夜明け前の暗闇と、冷たい空気を感じて花を咲かせるのです。

 人生の歩みには、暗闇と冷たいときもあります。
 そのおかげで、幸せを感じることができるのではないでしょうか。
 あなたの花も、きっと咲いてくれます。
 朝顔のように―。

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 9月より、新しいメルマガ:「いのちの授業」あの日から もお届けします。ご一読賜れば幸いです。

 今般、単行本「6歳のお嫁さん」(実業之日本社)が中学校一年生道徳の副読本(愛知県2025年版)に採択されました。「家族にとって大切なこととは」を綴ったパートです。
 現在、絵本「6さいのおよめさん」も、小学校3年生道徳の教科書(Gakken)に3期連続採択されています。綴ってきた「小さな思い」をバトンタッチする意味を思います。

 そこで、メルマガは、9月より週2回&2テーマでお届けいたします。
・月曜日頃=「いのちの授業」あの日から(鈴木中人の体験を拙著等から抜粋)
・木曜日頃=いのちびとメルマガ(いのちに向き合う人の思いなどを紹介)

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