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いのちびとメルマガ(96号)

私が受け取った いのちのバトン
(いのちびと2020.3号より)
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 いのちのバトンとは、何でしょうか?

 私は、看護師という職業柄、たくさんの人の最期に関わらせて頂きました。その人の生きた姿、気持ちがバトンとなり、受け取った人の中で生き続けるのだと思います。

 新米看護師の時、いろいろな重圧に疲れ、退職願いを書き、毎日なんとなく出勤していました。そんな時、六歳の少女、景子ちゃんに折り紙で作ったお守りを渡されました。「時々、怖い顔をしているよ。優しい看護師さんになれるように」と。看護師としての知識や技術が未熟だと言われるよりも恥ずかしかった。景子ちゃんの優しさがとても嬉しかった。

 数ヶ月後、景子ちゃんは天国へ…。景子ちゃんが落ち込んでいる私に気付いてくれなかったら、看護師を続けていなかったかもしれません。私が初めて受け取ったバトンでした。

 死を目前にして、出来ない事が増えていきます。

「できない事は、諦めればいい」。Aさんは、最期まで、ありのままの今の自分と向き合っておられました。等身大の自分を受け入れることで、生きやすくなるということを教わりました。

 Bさんは、亡くなる当日、薄れゆく意識の中で泣きじゃくる奥さんの背中に手を回し、弱々しくも、優しくさすっていました。声を出すことすらできない状態であったはずなのに…。愛する人のためならば、想像を超える力を出す事ができるのだと教わりました。

 逝くときは…と持ち物の準備をされていた患者さんもおられました。

 少し寂しそうで、でも「お遍路さんの御朱印があるから極楽浄土へ行けるだろう」と。自分の逝き先をしっかりと受け入れている力強い目をされていました。末期癌と診断されてからは、息子さんと共にお遍路さんへ。親子で残りの時間を大切に過ごされていました。残りの時間は、旅立つ人だけのものではなく、残される人にとっても限られた時間であることを教わりました。

 看護師を辞めずに続けてきて、たくさんの「いのち」と関わることができ、本当に良かったと心から思います。

 旅立ちのプロセスも、関わる家族や環境も、その思いも、人それぞれです。でも、誰もがいつかは旅立つということは、みんな同じです。在宅で家族を看取ることは、親から子へ、子から孫へ、いのちのバトンを引き継ぐ体験をすることです。

 亡くなる人は、自身の生きてきた力とありったけの愛情をバトンに託して旅立っていきます。バトンを受け取った人は、「死」を通して「生きること」「いのち」を感じることができる大切な時間になると思います。

 在宅医療に携わる看護師として、これからも、地域の患者さんの「いのち」に寄り添っていきたいと思います。

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