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いのちびとメルマガ(95号)

夫婦二人で、本屋をつなぎ 喜ばれる本を届けたい
(いのちびと2020.3号より)
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 由美子さんは、小さな書店を営む家に生まれた。
「両親は、私が朝起きた時も、夜寝る時も働いていました」。大手メーカーに就職し、昌弘さんと社内結婚した。両親と同居して、書店を手伝うようになった。

 数年後、昌弘さんに関西から関東への転勤の内示があった。
昌弘さんは、人生の決断をした。「家族がバラバラに暮らすことは幸せなことではない。これからは女性の時代。君が表に出たらいい」。由美子さんは、書店を引継ぐことを決断した。「私も家族一緒が一番と感じました。当時、主人は物凄く痩せており、あのまま会社にいたら胃の一つは無くなっていたかも…」

 売り場十坪の書店の現実は厳しかった…。
ベストセラー本や人気漫画本は、大手書店優先でほとんど配本されなかった。「家族が路頭に迷う。何とかしなければ…」。お客さんひとり一人の顔を思い浮かべて、その人に合った本を薦めると喜んで買ってくれた。両親がつくってくれた信用のおかげ、お客さんに喜んでもらえる本を届けようと心に刻んだ。

 ある日、昌弘さんと外商に同行した。
昌弘さんは、本をポストに入れると、誰も見ていないのに頭を下げ続けた。「たくさん本屋がある中で買って下さる。ほんま有難いなぁ」と。由美子さんは鳥肌がたった。「売らんがため、嘘を言う商売はしない」と誓った。

 ある年末、泥棒に翌日の支払金70万円を盗まれた。高校の同級生たちが、何も言わずに図書券を買いに来てくれた。阪神・淡路大震災では、店の壁が崩れた。生命保険を解約をして、改修費800万円を支払った。本以外のものを売らなければと、台車に高品質な傘と本を積んでお客さんを訪ねた。晴れ間の一週間で250本を売った。今、大手書店も傘販売をするようになっている。

「本屋を辞めたくない!と必死。ついでに売った本はありません。作家さん、編集者、出版社から本づくりの思いを聴く。それをお客さんに伝えなければとの思いだけです」
やがて大手書店並みの売り上げを続け、多くのベストセラー作家や大手出版社の社員も訪問してくれるようになった。書店業界では、誰もが知る「十坪の有名書店」となった。

 昌弘さんが脳梗塞で倒れた―。
救急車で搬送されて約一か月入院、約三か月のリハビリが続いた。「一日も休まず、必死で働いて来てくれた主人に、神様が『病気』という形で休息を与えて下さったに違いない。多くの人の優しさ、今ここに生きている有難さを感じました」

 今日も、昌弘さんは、毎朝、店のシャッターを開けることを日課にしている。「お父さん、無理せんといて」と言うと、笑顔で答えてくれるそうだ。「君のために役に立てることがしたい。それが嬉しいんや」と…。

「『大変』だったけど、決して『不幸』ではありません。これからも感謝して生きよう! お客様に喜んでいただける本を届けよう!と思います」

*今年5月末、10坪の書店は72年の看板をおろします。
 たくさんの感動をありがとうございます。

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