見出し画像

不耕起・有機農業畑の有機物集積層にみられる複雑な食物網のひみつ

不耕起・有機農業畑の有機物集積層は、複雑な食物網の形成を保証し、特定の生物の異常繁殖を抑制する効果があります。


不耕起栽培の特徴

一連の栽培管理のなかから耕耘や整地の行程を省略する栽培法です。したがって、作物や雑草の残渣をすき込まないため、有機物の集積層が地表面に形成されるという特徴があります。

不耕起栽培を継続し、冬期間にライ麦を栽培して、作物残渣とともに被覆として利用することで、外部から有機物を持ち込まなくても、地表面の有機物被覆とその集積層が形成されます(見出し写真)。

有機物被覆とその集積層は土壌生物の餌や生息場所

不耕起・有機農業畑の有機物被覆とその集積層は、土壌動物や微生物の餌や生息場所となります。たとえば、有機物の分解に関与しているササラダニ類の垂直分布をみると、被覆と表層0-5cmの土壌中に全体の99%が棲息していました(図1)。

図1 不耕起・有機農業畑のササラダニ群集の垂直分布(藤田 2005)

ササラダニ類は、作物残渣などの有機物や菌類を餌として生活しているため、地表面の有機物被覆とその集積層が、いかに棲息しやすい環境であるかがわかります。加えて、不耕起・有機農業畑の有機物被覆とその集積層には、ササラダニ類と同様、有機物の分解に関与しているミミズ類、ヤスデ類、トビムシ類など、動物を餌としているクモ類、ムカデ類など多種多様な土壌動物が棲息しています。
これらの土壌動物や微生物は、土壌有機物を起点とした複雑な「食う-食われる」の関係(食物網)を形成しています(図2)。

図2 農地生態系の食物網
矢印はエネルギーおよび物質の流れを示す。藤田(2005)より引用。高橋(1989)に加筆

生食連鎖と腐食連鎖が連結した食物網

地上部には植物(作物、雑草)を起点に植食性動物 (害虫)、捕食性動物(天敵)とつながる関係(生食連鎖)があります。一方、土壌有機物を起点としたさまざまな土壌動物や微生物(分解者)が関与する分解系、これらを餌とする捕食性動物との関係(腐食連鎖)があります。そして生食連鎖と腐食連鎖は連結し、より複雑な食物網を形成しています。
畑地に複雑な食物網が形成されることで、特定の生物の異常繁殖を抑制する効果があります。

参考文献

藤田正雄(2005)不耕起・自然農法畑の有機物被覆とその集積層の不思議な世界.自然農法,54: 53-55.
高橋史樹(1989)『対立的防除から調和的防除へ-その可能性を探る-』,農文協.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?