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栽培作物とクモ類の餌資源との関係性は?

ハンドソーティング法(ハンド法)で採集された有機農業畑のクモ類の餌の起点となっている炭素源はC3植物、C4植物および腐植物質であること、腐植物質を起点とする分解者を主に捕食する2次消費者である可能性が高いことを紹介しました。

ここでは栽培作物とクモ類の餌資源の関係を明らかにするため、圃場内にδ13C値の異なる作物(エダマメ、スイートコーン)を栽培し、餌資源の推定を試みた結果を紹介します。


調査方法など

長野県松本市梓川に位置し、1970年に区画整備事業を実施して以来、化学肥料、農薬は一切使用せずに栽培していました。
2003年は無化学肥料・無農薬・不耕起条件下で、6月~8月はエダマメ(C3植物)とスイートコーン(C4植物)を、10月~5月は刈り敷き用のライ麦(C3植物)を栽培しました。
クモ類を含む大型土壌動物群集の調査は、01年6月より年4回(6、8、10、2月)ハンド法にて実施し、03年10月にはエダマメとスイートコーンの跡地の群集を比較しました。加えて、03年9月にはピットホールトラップ法(トラップ法)にてクモ類を採集し、炭素および窒素安定同位体比を測定しました。

栽培作物とクモ類の餌資源の関係

土壌性のクモ類はその生活型から、狭い範囲で生活している占坐性と徘徊して餌を捕らえている徘徊性に分けられます。ハンド法とトラップ法では、ともに占坐性および徘徊性のクモ類が捕獲できますが、前者では占坐性が、後者では徘徊性が多く捕獲できることが予測されます。
ハンド法で採集したスイートコーン跡地のクモ類のδ13C値は、エダマメ跡地から採集したクモ類に比べて、有意に高くなりました。このことから、スイートコーン跡地のクモ類は、スイートコーンを起源とした食物連鎖上にあることが推察されます。
この一方で、スイートコーン跡地とエダマメ跡地のクモ類のδ15N値に違いはみられなかったことから、起点となる炭素源は違っても栄養段階は同じと考えられます。

両跡地からトラップ法で捕獲したクモ類(徘徊性、コモリグモ科)のδ13C値およびδ15N値に違いはみられませんでした。これは徘徊性のクモ類が栽培作物の境界を超えて調査地を移動し、炭素源の異なる動物を捕食したためと考えられます。

有機農業畑の土壌性クモ類の役割

畑地に棲息する土壌性クモ類の餌資源は、栽培作物を起点とする炭素源と関係することが明らかになりました。すなわち、作物を餌とする植食者を捕食する高次消費者(主は2次消費者)である可能性が高く、農地で食物網の上位に位置する捕食者は、生態系の維持に不可欠な存在であると推定できます。
土壌性クモ類の生息密度と窒素および炭素安定同位体比の関係から、作物の栽培期間である初夏から中秋にかけては、主に植食者を餌資源に密度を増加させ、また、年間(とくに、植食者の生息数が少ない冬から初夏)を通して安定的に棲息している分解者を餌資源にして密度の安定を図っていることが推定されます(図1)。

図1 有機農業畑の土壌性クモ類の餌資源と栄養段階の推定(藤田2004)
矢印は、エネルギーや物質の流れを示し、その種類は季節を、太さは量を示す。

※ここで用いている炭素安定同位体比(δ13N)の数字(13)および窒素安定同位体比(δ15N)の数字(15)は、本来は上付き文字です。
※ここで用いているC3植物、C4植物の数字(3および4)は、本来は下付き文字です。

参考資料

藤田正雄・藤山静雄(2004)農地生態系の土壌圏-安定同位体比を用いて食物網を探る-8.畑地に生息するクモの餌資源の推定.第51回日本生態学会大会(釧路)講演要旨集p.306.


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