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慣行農業から有機農業への転換はどのようにすべきか?

慣行農業と土の生きものが関わる有機農業の生産システムとの違いを理解することから始めよう。


有機農業への転換とは

慣行農業から有機農業に転換する場合、公的な研究機関や普及指導員は、減収しないように化学肥料や農薬に代わる有機農業で認められた資材を使う技術を進めることが多い。
しかし、化学肥料や農薬に頼らない栽培を続けると農地に多種多様な生きものが棲息しやすい環境になり、植物(作物)が育ちやすい栽培環境に変化して行きます。
有機農業への転換後にみられる畑の生きものの変化を通して、有機農業への転換方法を考えて見ました。

有機農業への転換後にみられる畑の生きものの変化

農薬や化学肥料を使用した慣行農業畑を、農薬を使用せずに有機物を利用した有機農業に転換すると、そこに棲息する土壌動物の種類や生息数に変化がみられます。

たとえば、有機物の分解者として知られているササラダニ(体の大きさが0.3-0.5mm程度)は、慣行農業畑ではほとんどみられず、みられても微生物を主に食べている種類(微生物食)のみです。しかし転換後には、生息数が増加して、微生物食に加えて、分解の進んだ有機物(腐植)を主に食べている種類や微生物と腐植を食べている(鋏角が大きく頑丈な)種類がみられるようになります(図1)。

図1 畑地のササラダニの鋏角と食性

もう少し大きな動物では、転換後まず、クモ、ムカデなどの捕食者(天敵)がみられ、その後、ミミズ、ヤスデなどの分解者がみられるようになります(図2)。

図2 土壌動物の生息を配慮した畑地の動物群集の変化
(多くの調査をもとに作図、藤田 2007に加筆)
注)量的変化から質的変化への移行は、土壌の状態や転換後の管理方法によって異なる。2-3年でみられる場合もあるが、10年以上かかる場合もある。

すなわち、栽培管理によってそこに棲息する動物の種類や生息数が変わり、そして土壌そのものの性質も変わっていくのです。

慣行農業から有機農業へ

土壌の生物の密度を高めるため、まずは化学肥料を堆肥や有機質肥料に変え、土壌生物の密度を高めることです。
造成地のように地力の低い農地では、最初は多量の牛糞堆肥を入れ緑肥作物を栽培することも考慮の余地があります。

有機物は土壌動物、微生物の餌であり棲みかとなります。そして、農地にそなわる生物のはたらき(生物調整機能)を活用しながら、農薬の使用を減らしていくようにしましょう。

最も作物が作りやすい(地力のある)農地で、管理の可能な小面積から無農薬での栽培を実施し、慣行的に使用している農薬の必要性を確認しながら、他の農地でも農薬の使用量、回数を減らしていくようにすれば、病害虫による減収を回避しながら有機農業への転換が図れると思います。
転換のコツをつかむと、他の農地で有機栽培が可能になる年月は短縮されます。

有機農業に転換するには、農産物を買い支えるしくみが必要

有機JAS認証制度にでも、「転換中」の農産物があるように、最初から有機農産物が生産できるわけではありません。
農家が安心して有機農業に取り組めるために、有機農業に転換中(減農薬栽培も含め)の農産物を買い支えるしくみ(消費が先行すること)が大切です。

参考文献

藤田正雄(2010)「健康な土をつくる-有機農業における土と肥料の考え方-」中島紀一・金子美登・西村和雄編著『有機農業の技術と考え方』コモンズ.


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