ショートホラー 湖のナニカ
それは、林間学校期間に起きたことでした。林間学校、それは生徒にはメリットが理解し難い辛さの方が多い学校行事。皆が皆、嫌々山道を歩いておりました。
登山に向いた山とはいえ、「数日間宿泊する分の荷物」を抱えての坂道です。歩けば歩く程に暑くなり、かと言って山道では長袖ジャージを脱ぐことも許されない。口々に生徒は愚痴っていましたが、それも始めだけ。慣れない山に疲れ、宿泊施設に到着した頃には皆無言になりました。
到着後は予め決められた部屋に荷物を置き、古い食堂にて美味しくも無い昼食です。この昼食を配膳するのは生徒の役目。それも運悪くその週に給食当番だった生徒が、給食着持参してまでやらねばなならない義務でした。
カレーを盛り、サラダを盛り、テーブルに並べる。ただでさえ暑いのに、更に通気性の悪い給食着を着ての配膳。座って休んでいる、当番以外の同級生が実に憎らしく。
さてはて、昼食を終えたら林間学校のしおりをもっての集会。狭い会議室に詰め込まれ、学校でも聞いた諸注意を繰り返されました。何度話しても、聞かない奴は居るのに、何故か生徒の連帯責任だけは問う教師に腹を立てつつ。
そして漸く、林間学校のメインイベント、カヌー体験が始まったのです。生徒は、簡単な説明を受けた後で救命具を渡され、ジャージの上からそれを装備しました。そして、何故か裸足になって湖畔に立ちました。
カヌーが浮かぶ湖はお世辞にも綺麗とは言い難く、何匹もの魚の死骸が湖畔に打ち上げられていました。当然、生臭い臭いがしており、誰も彼も我先にとカヌーに乗り込みました。
カヌーの操作は簡単なものではなく、クラスが一丸にならねばなりませんでした。それでも、林間学校中には慣れてきて、パドルを一斉に上げられるまでになりました。
そこで、付いてきていたカメラマンの側まで漕いで行き、一斉にパドルを上げたのです。しかし、カメラマンはカメラを手に取ったものの直ぐに離し、慌ててクラスのカヌーから離れてしまったのです。
仕方なく皆はパドルを下ろし、口々に不満を漏らしました。そして、クラスの中でも行動力のある子が、陸に上がった後でカメラマンに詰め寄ったのです。
「シャッターチャンスをわざわざ作ったのに気付いてましたよね? なんで割り振られた仕事しないで逃げたんですか?」
すると、カメラマンは困った様子で言いました。
「どうせ写らないからね。それに、仕事だからこそ、仕事道具を壊したくない」
質問した子は更に詰め寄り、カメラマンは溜め息混じりに言いました。
「あそこに居る霊を映しちゃうと、撮影機材が全てオシャカになるんだよ」
と。