黄昏時のレクイエム
一組のカップルが、デート中に公園を通り過ぎた。その時、無邪気な子供の声が公園内に響く。
「明日も遊ぼうね! ゆーびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます! 指切った!」
指切りをした後で、子供らは手を振って別れた。一方、それを何となしに眺めていたカップルは、微笑ましそうに話し始める。
「あれ、子供の頃にやったなあ。指切りとか、今考えると怖いことを平然と言っているよね」
「嘘ついたら針千本飲ませる約束も約束だけど、最後に指切ってんだよな。何で、あれが子供の他愛ない約束に使われるんだろう」
「でも、他愛ない約束かは分からないよ? だって、また逢えるかどうかなんて、その時にならなきゃ分からないんだし」
彼女の話に、彼氏は肯定する返答を躊躇った。
「帰る途中で悪い人に誘拐されるかも知れないし、歩道の子供を見ていない運転手に轢き殺されるかも知れない。また明日って約束さえ、本当なら軽く出来るものじゃない」
子供の身に起こるかも知れない不幸を、表情すら変えず淡々と話していく彼女に、彼氏は恐怖さえ覚えた。
「もしかしたら」
その後も、何も言えないでいる彼氏を尻目に、彼女は「逢えなくなる理由」を思いつくままに語り続けた。その話に彼氏の表情は曇ってゆくが、それを彼女が気にする様子はない。そんな時、彼氏のスマホから電子音が鳴る。
「あ、ごめん。急な仕事が入った」
電話を受けた後、何処か安堵した様に彼氏は言った。そして、手を合わせて頭を下げると、彼は最寄り駅に走っていく。
「バイバイ」
彼女は、そんな彼氏の背中に別れを告げ、自らの家に向かって行った。
その後、彼氏が急いで乗車した電車では、乗車時間の長い区間を狙い「無敵の人と揶揄される男」が刃物を振り回した。混み合う電車内で、彼氏は逃げようとした。だが、密閉された電車内では次々に人は切り裂かれ、とうとう何本目かの包丁で刺された。そして、運悪くその刃は太い血管を傷つけていた。
薄れゆく意識の中、彼氏が最後に思い出したのは、また遭う約束の難しさについて語った彼女の姿だった。
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