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シャチバト考察#1:死神ユトリアと先代の秘書

『社長、バトルの時間です!』の考察記事を書き始めていきたいのですが、ひとまずストーリーを初めから追うのではなく各所から小ネタ拾いをしていくつもりなので、どうしても散逸的な内容になるかもしれません。
 シナリオのログを読んでいると「あれ、ここおかしくね?」みたいに思う部分がちらほら出てくるんですよ。そういった違和感に理由や背景を作って辻褄を合わせる試みをここでは考察と呼ぶことにします。そもそもシャチバトを知らない皆さんや筆者のことを知らない皆さんがいると思いますが紹介は面倒なので後でやります。
 さて、今回はアプリ版メインストーリーの序盤から。

ユトリア「まあそれはまた後でお説教するとして
確かに……わたしは冒険者として戦闘もできます
でもわたしが戦闘に参加したら秘書がいなくなってしまいます
そうしたら……社長の指揮がぐだぐだでだめだめになっちゃうじゃないですか!」

アプリ『社長、バトルの時間です!』2章6話『ユトリア』

 この台詞の意味を考えていきましょう。

今回得られた考察

  • キボウカンパニーの先代社長はどうしてもユトリアを秘書にしたかった

  • キボウカンパニーを辞めていった社員がいる

  • 内心の自由を認めないゲートピア


なぜ戦闘参加を拒否したのか

 メインシナリオ2章はキボウカンパニーの仲間キャラに一人ずつフォーカスして親交を深める内容になっています。ユトリアの回となる6話は主人公とユトリアが二人でダンジョン探索に出るという内容でした。キボウカンパニーの冒険者は本来戦士のアカリと僧侶のマコトなのですが、探索の予定を立てようとした日にユトリア以外の社員が全員遠出できない用事を抱えていることが発覚。ユトリアを戦闘員として連れていくことを提案した際の反応が上記の台詞です。
ぐだぐだでだめだめになっちゃう」て……おおよそ秘書時のユトリアの語彙ではないんだけど。何だかまだ子供が自立できていないと思っている親みたいじゃないですか?
 ユトリア以外は誰も秘書がいないと指揮が困難になるとは考えておらず、この懸念はすぐに全員に否定されます。
 主人公が一定の実力と信頼を得たことを示しているシーンなのでしょうが、プレイヤー的にはユトリアが秘書としてどう役立ってきたのかあまり描写がないまま補助輪が外れていてモヤモヤが残る気はします。それに根拠はともかくここまでの確信を持っているユトリアの意見に誰も賛同しない、幼馴染みなのに主人公のことを一番理解していない厄介者ポジかのような役目を負わされている、とユトリアを不憫に思えてくる気持ちもある。
 一度ユトリアに戦闘を拒否させる必要はあったのでしょうか? このくだりによってユトリアが社長を信頼していないことの表明・他社員によるユトリアの懸念の否定かつ社長への信頼の表明・主人公によるユトリアの説得が発生しているのですが、その全部がここでやる旨みがないんですよ。
 アカリ・マコト・ガイドさんに能力を認められていると知ることができるのは良いことのように思えますが、この三人はユトリアに秘書を休んで気分転換させるために結託していたことが後の台詞で分かります。ダンジョンに行けない用事もでっち上げです。つまり社長の指揮能力に問題がないという評価もユトリアを納得させるために言ったことで、本心かどうか甚だ怪しいのでかえって印象が下がっています。
 主人公が不安がるユトリアをカッコいい台詞でなだめることができれば信頼度アップのシーンとして多少は意味を感じるのですが、「指揮には少しだけ自信があるし」とどっちかというと自信がない側の言い方をする主人公に「そうなんですか……?」とあまり響いていない返事をするユトリアの様子を見ると、収支マイナスのままに思えて……。こんなの実際に指揮をしてみせるしか納得させる方法はないのでここで説得してもしょうがないんですよね。
 しかも実際にエピソード後半でダンジョンに出た結果、初見の敵の対処法が分からないユトリアに主人公が適切な指示を出すシーンはあるものの、それを受けてユトリアが社長への認識を改める下りがないんですよ。「久しぶりに体を動かせて楽しかった」と言うだけで……それ、主人公の「探索を成功させる」「一人でもちゃんと指揮をこなす」という目的じゃなくてアカリ達の「ユトリアに息抜きをしてもらう」という目的に対するアンサーですよね。「社長の指揮能力は充分なのか?」という問題をハッキリ唱えても、結局ハッキリと消化せずに終わるので締まりのなさが強くなっただけです。

 じゃあここの台詞、「確かにわたしは戦闘もできます……じゃあ久しぶりに剣を持ってみましょうか。社長が単独でどれほど指揮できるか気になりますし」で事足りません?
 とは言っても、ユトリア自身が戦いたくない・社長に指揮ができるわけないと思っていれば当然拒否の言葉は出ます。彼女にストーリー展開の都合とか読み手の気持ちとかそういったものは関係ないのです。その思いに根拠がなければストーリーを優先して省略することはできますが。
 ただ「戦いたくない」という可能性は消去できます。社長の説得を受けて剣を持つことにしたユトリアは「ちょっとだけ腕が鳴る」と口にしていますし、先程も書いたように社長以外全員にユトリアが冒険者をやることは気分転換だという認識があることからも、ユトリアは戦いが好きなのです。本当はマジューを薙ぎ倒したくてウズウズしているに違いありません。
 よってユトリアが抱えているのは、それを凌ぐほどの「自分が社長を補佐しないといけない」という義務感一点のみになりました。その根拠はなんでしょうか? 主人公が一人で指揮をしてめちゃくちゃになるシーンなどありませんでした。「秘書がいないとぐだぐだでだめだめになる」という確信はどこから来たのでしょう。
 ユトリアがそんな思い込みに至る可能性は一つ。
 キボウカンパニーの先代社長である主人公の父親が一人で指揮のできない社長だったなら、この台詞には意味が生まれます。

先代がそう言ったから

 さて……言っておいてなんですがあり得ません。先代が一人で戦闘の指揮をできないわけないじゃないですか。何言ってるんですか?
 先代は一人で大型門に向かったんですよ? 後ろから戦況を把握して指示も出せない人間がどんな危険があるかもわからない大型門で生き残れるはずがないですよ。指示出しより自分で戦うほうが得意だというなら最初から指揮役に就きませんし。
 おそらく先代は嘘をつきました。そういう面で秘書を必要としていたわけではなく、他の事情でユトリアを秘書にするために。

「社長ってのは秘書がいないとやっていけないんだ」
「ユトリアがいてくれないと俺の指揮グダグダでダメダメなんだよ」

 まあ、先代の台詞は少ないので語彙は知りませんが……手紙で「このままだとゲートピア全体がやばいことになる」とかふわっとした物言いをしているのでユトリアよりは「ぐだぐだでだめだめ」を言いそうじゃないですか。で、彼女はこれを真に受けて言い回しも影響されたと。
 こんな風に言わなければならないのはユトリアを秘書にしたいけど一度断られてしまったり、ユトリアが秘書を辞めたいと言い出したりした時の説得くらいですよね。戦いが好きだったユトリアが冒険者から秘書に転身する理由が他にないので、前者のシーンは間違いなくあるでしょう。

 でも待ってください……
 そう言うからには、ユトリアが戦士として戦っている時に先代が指揮を執っていたんですよね?
 じゃあ、その時に先代をサポートしていたのは、一体誰なんですか?

隠しキャラ:先代秘書

 先代がユトリア以外を秘書として雇っていた可能性は、はじめの台詞を考察しなくても「ユトリアに冒険者だった時代がある」という事実がある時点で浮上はするものです。しかしここまで来て、先代が一人で指揮をこなす姿をユトリアが見ていては最初の台詞が成り立たないということが分かったので可能性は確定事項になりました。
 そして以前の秘書はこの場にいない人物です……ガイドさんが秘書業務も努めていたということはないでしょう。ガイドさんの今回の目的はユトリアに秘書業務を休ませることですから、自分が代われるなら代わって終わりなので。
 キボウカンパニーには辞めた社員がいるのですね。もっと言えば、ユトリアが冒険者をやめて秘書になってからアカリ達が入社してくるまでの期間に他の戦闘員が必要だという主張もしたいのですが、アニメ版や小説版の描写的にアカリ達が死神ユトリアを知っているっぽいんですよね。その空白期間は存在しないかもしれないのでこれは可能性の域を出ません。
 ……前の秘書が主人公の母親だったりしないといいのですが……。いや、主人公の母親はもっと昔にいなくなっていると考えています。「家族写真」を遺産の中に隠している先代なら妻の写真もどこかに入れるはずですから。
 もし母親が秘書ということになってしまったらユトリアが秘書の時とそれ以外で主人公に対する口調を使い分けている理由も"そう"じゃないですか? 普段は夫婦だけど社長と秘書の時は相応の距離になるってのを見てきたから、ってことになるとしっくり来ちゃいませんか? それはいいんですけど、もし先代本人でなく彼女が「もう、社長は私がいないとだめだめなんですから……」とか言ってた場合話が全部変わってくるので勘弁してほしいですお願いします。
 まあ誰にしろ、前にいた社員について誰も何も言及しないのはかなりの闇を感じるところではありますね。ホワイト企業と言い切れないのはそういう事情なのか……?

替えがきかないという呪縛

 前の秘書がいなくなったのを機に、先代はユトリアを秘書に任命したことになります。他にいたのかもしれない社員の中から二つ名まで付いている戦力のユトリアを抜き出したわけですから、彼女でなければならない相当な理由があるのでしょう。指揮ができなくなるという口実を使っているので本当の理由は明かしていないのかな。
 ちょっといくつか挙げてみます。

  • 指揮の補佐以外に求める能力がユトリアにあった?
    ……戦闘は強そうな先代ですが、データ入力では主人公と同じ計算ミスをしていたり苦手な分野はあるようです。
    それができないと「一人では指揮ができない」と思われるよりももっと恥ずかしいことになる作業を秘書業務として押し付けたくて、長い付き合いであるユトリアならそれを任せられる見込みがあったのでは、という無難な予想です。
    しかし主人公が社長になってから、秘書ユトリアが具体的に何をしてくれてどう助かっているのかということを主人公が言わないんですよ。先代の時にやっていた業務をそのまま継続しているはずなんですけど、ユトリアが何をしているのかここまでプレイヤーに知らせないことある? ここに何か重要な伏線があるようにも思うのですが、仕事内容が不透明すぎてちょっと何とも言えないかな……

  • 後に主人公が社長になった時のことを考えていた?
    ……先代はゲートピアがやばいことになるという情報をかなり前から得ており、博物館に財産を寄贈するなど失踪以前から動いていました。その中に残していた手紙には主人公がキボウカンパニーに入ることを予測しているといえる文言もあります。
    自分が大型門に向かった後主人公がカンパニーを立て直すにはユトリアに戦闘指揮を手伝わせないといけないと踏んで、早い段階から秘書にして補佐を学ばせていたと考えることができます。結果として序盤で補助は別にいらないと言われてしまいましたが、幼馴染みの二人は距離が近い方がいろいろ上手くいくでしょうし今後も良い効果は期待できるでしょう。
    こうなると先代の先回り行動が何でもありすぎて怖くなりますが、あり得ない説ではないと思います。

  • ユトリアに剣を持たせたくなかった?
    ……ノリノリでマジューを殲滅していたユトリアですが、先代がわざわざ戦闘員から外すということは殲滅したら不都合があるんじゃないでしょうか。マジューを殺しすぎると世界の終末が早まるとか、ユトリアのレベルを上げすぎるとガチ死神みたいな能力に目覚めてしまうとか。
    筆者は前々からユトリアには特殊な役割・能力があると思っているんですよ。明らかにその片鱗が見える例としてはアニメ版OPにてユトリアのスキル欄にGAME RESETと記載してあることなど。アプリ版の中だとユトリアのSSRイラストの衣装に若干女神要素が入っていることくらいですが、異常に強気な戦い方も怪しいポイントに加えられるのでは? 
    それは考えすぎにしても、上の説と合わせて平和的な解決を望みがちな主人公と殺戮マシーン状態のユトリアではスタンスが合わないのではと危惧した可能性もあります。

 正直、先代の目的をはっきりと特定することはできません。(あんまり書くと長くなるから説の吟味はまたにしようかな……)指揮能力が問題ないなら他の能力が目当てではないか・自分に秘書が必要ないなら他の人物のためではないか・秘書が必要ないなら秘書以外をさせないことが目的なのではないか、という着眼点で考えてみましたが他の見方もあると思います。

 いずれにせよ先代の目的によって秘書となったユトリアは、今まで補佐をしなければならないという使命感で戦いを控えてきました。そこに秘書の役割を軽視するような提案をされてそれがあっけなく通ってしまいそうとなれば確かに、今まで我慢してきたのは何だったの? って思いますよね。
 そうなればはじめのシーンで反発して納得に時間を取ったのも、探索終了後に社長の評価よりも自分の手応えに意識が向いているのも、分かるような気がします。彼女は別に主人公が頼りないと思っていたわけではなく、どんな社長でも補助が必要という認識を守るためにああ言ったに過ぎないのですから。
 この話はユトリアが自らの認識を改めざるを得なくなって衝撃を受けつつも、制約から解放されてひとつ自由を得るかなり大切なエピソードなのではないでしょうか。
 ま、そういうことなら主人公がちゃんと指揮できたかとかは今回のテーマではないので省略されるのも致し方ないですよね。ドンマイ社長! ユトリアが楽しんで戦えたのはお前のおかげだから誇っていいぞ!



好奇心をも殺す死神

 いかがでしたか? ひとつの台詞を中心にユトリアのより深いところの思考を覗いたり、この場にいない人物の思惑に踏み込んだりできましたね。もうちょっとサラッとした内容で終わらせるつもりだったんですが、まあ解釈が膨らむに越したことはないのでいいでしょう。色々と生まれた可能性は今後他の話の考察を進めるのに有用なピースになると信じています。俺はこの世界の裏側を解き明かすまで満足はしません。

 ところで、最初に引用した台詞をちょっと前まで遡ってみましょうか。

ガイド「ユトリアさん 先代の時は
もともとは冒険者として活躍されていたじゃないですかー
まだまだぜんぜん現役でいけるはずですよー」
[社長]「え……ユトリア そうだったんだ?」
ユトリア「え ええ まあ……」
ガイド「うふふ すごかったんですよー
マジューをばったばったと薙ぎ倒すことから『殲滅のユトリア』とか
『死神ユトリア』なんて呼ばれたりしていて……」
ユトリア「そ それはいいから! ガイドさん!」
ガイド「そうですかー? ユトリアさんの武勇伝はたくさんありますのにー」
[社長]「(それは……ちょっと聞いてみたい気がする)」
ユトリア「……じろり
……社長が何を考えているかくらいお見通しですからね」
[社長]「は はは……」
ユトリア「まあそれはまた後でお説教するとして」…

アプリ『社長、バトルの時間です!』2章6話『ユトリア』

 ……。

 一応解説しますね。

  • ユトリアは自分の冒険者時代を暴露したガイドさんに対してはちょっと照れてる程度に咎めるだけ

  • ガイドさんの話を聞いて「冒険者時代のユトリアの武勇伝を聞いてみたい」と思っただけでまだ何も言っていない主人公がユトリアに説教を確定されている

  • 主人公は異を唱えるでもなくごまかすように笑うだけ

 異様ですね。
 本気で冒険者時代の話をされたくないのなら主人公が何か言う前に話題を流すとか、叱るんじゃなくて「聞かなかったことにしてください」と圧をかけるなりすればいいんですよ。過去は別に後ろめたくなくて邪なことを考える方が全面的に悪いならば、ガイドさんを止めずにどっしり構えていたっていいし。
 さっきのようにユトリアだけが勘違いをしているならば主人公は「いやいや、何も変なこと考えてないって!」と弁明すればいいですよね。しかし本当に後ろめたいことを見通されたかのように苦笑いしています。「武勇伝を聞きたい」と思っただけで危険思想の持ち主のように扱われることを良しとしていいんですか。
 例えば「死神ユトリア!? 今キボウカンパニーに社員が少ないのもユトリアの殲滅具合にドン引いて辞めていったんじゃ……」とか「ユトリアの黒歴史聞いちゃった! これを材料に言うことを聞かせられるのでは?」とか考えてたんならオイって言われるのも分からなくはないですが、そうではないでしょう。社員が何人か辞めていると考えている身としてはユトリアが原因ならスッキリするんですけど筆者も殲滅されちゃいますかね。
 あとこの時喋っていませんが普通にアカリとマコトもこの場にいて話を聞いてますからね。何も言ってないだけで内心で「え……ユトリアさんってそうだったの?」「そうそう、ホントは凶暴なんだよね」とか思っているかもしれませんよ。主人公と条件は同じなのに主人公だけが怒られてるし、それが当然のような空気ができているのは何でなんですか? 街全体の気風としてそうなんですか?

 内心の自由が保証されていない街、ゲートピアです。ちょっと生き残れるか不安になってきました。でも引き続き考察していきますよ。
 長文を書くのは疲れるので次はいつ更新したものかわかりませんがね。


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