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海外のBAD HOPを探して -パキスタン・サウスサイドの女性初のラッパー-

ライターの磯部涼さんが2017年に発行した、日本の川崎を取材したノンフィクション書籍『ルポ川崎』。ネットの試し読みとはキモさが異次元のブックオフでの立ち読みしてみますとその帯文には、こんな言葉が印刷されている。『「高校生ラップ選手権」がなかったら、今頃は本職(ヤクザ)になっていた。深夜にタバコ屋のシャッターをこじ開けて、レジごと盗んだ。中学生のポン中(覚せい剤中毒者)とかいっぱいいる。競輪場で暴動が起こって、地元の親分が来てやっと収めた。ここは、地獄か?』。これは日本の首都・東京の隣、神奈川県の川崎の話である。そして、そんな神奈川県川崎を拠点とするのが、8人組ヒップホップクルー・BAD HOP(バッドホップ)である!

川崎がある日本から、西へおよそ6300キロ、飛行機でおよそ15時間。インド半島のつけ根にある国、パキスタン。正式には、パキスタン・イスラム共和国。広さは79万6000平方キロメートルで、日本のおよそ2倍。そこに2億5000万ほどの人が暮らしている。外務省によると現在、パキスタンは渡航危険レベルが2の『不要不急の渡航中止』、北部に至ってはレベル4の『退避勧告』が出ている。危険情報として、『パキスタン全土にテロの脅威が高まっています。テロ以外にも、全土において銃器を使用した強盗等の犯罪やデモ・集会に注意が必要です』と警告を発している。稲川淳二さんの怪談ばりに、恐いなー&やだなー!そんなパキスタンの中でも、数十年に及びギャングの暴力と貧困に悩まされた、かつてはパキスタンで最も危険な地域の1つといわれていたのがサウスサイドのカラチ市にあるリアリ(Lyari)地区。


世界三大通信社のひとつAFP通信は、かつてのリアリ地区の地獄っぷりについて、この様に書いています···(一部アタシ改ざん)

重武装したギャングや政治的背景を持つ暗殺団が地区の大部分を支配。経済は低迷、住民の間で薬物と貧困がまん延した。2013年には自警団が出現し、地区の通りは事実上の紛争地帯と化した。ギャングらは、携行式ロケット弾発射装置(RPG)やアサルトライフルで対抗。学校や商店は閉鎖され、子どもは通りから姿を消した。

AFPBB News 2019年11月17日

恐怖!一方でリアリ地区は、「有名になりたきゃ 人殺すかラッパーになるか」のパンチライン並に、アーティストたちにインスピレーションを与え急成長するヒップホップ・シーンも生み出したそうです。そのリアリ地区から出てきたのが・・・

Eva B & ​⁠Mudassar Qureshi 「Qasai」 Official Video
パキスタン初の女性のラッパーといわれる、Eva B(エバ・ビー)さん!たぶん現在23歳。曲「Qasai」は、Eva Bさんの2024年の新曲。ビートはラッパーとしても曲に参加している、パキスタンのMudassar Qureshiさん。ChatGPTによると曲名の「Qasai」は”屠殺”的な意味っぽくて、リリックでは”ウチらがヒップホップの道を舗装しラップにも乗っている フェイクやぽっと出は止めときな でなきゃ時計が処刑の時刻を指す”みたいなことをラップしているぽいです。

インドのニュースメディ『NDTV』によりますと、ラッパー・Eva Bさんはパキスタン・サウスサイドの危険な地域、カラチ市リアリ地区生まれ。子ども時代に暴力をシャットアウトする手段として音楽を聴き始め、近所の人のPCを開いてUSのラッパー・Eminem(エミネム)さんと出会ったのをきっかけにヒップホップ育ちに。そして15歳で、パキスタン初の女性ラッパーとして活動を開始したみたいです。他に、女性のラッパー・Queen Latifah(クイーン・ラティファ)さんにも影響を受けているらしいです。そしてデビューしたのは2019年・・・

EVA_B 「Gully Girls」 New Pakistani Hip Hop
プロデュースは、パキスタンのラッパー・Sunny Khan Durraniさん。曲名の「Gully Girls」はヒンディー語で”ストリートの女の子”的な意味で、曲は社会で抑圧されている女性たちへのエンパワーメントを歌っているらしいですよ。曲はパキスタン最大の音楽ストリーミングプラットフォーム『Patari』からのオファーでリリースされたみたいですが、ラップを始めてからの5年ほど、Eva Bさんは機材を持っていなかったため曲は自分の携帯電話に録音していたんですって。


川崎サウスサイドに生まれ家や学校にも居場所がない環境で育ったBAD HOP。Eva Bさんは、パキスタン・サウスサイド出身のうえに女性で生まれたことが”ゼロじゃねぇマイナス”の環境になったそうです。

パキスタンは、世界経済フォーラムが2022年7月に発表した『世界ジェンダーギャップ報告書 2022』において、146か国中で2番目に悪い145位。アジア女性交流・研究フォーラムのレポートによると、『いまだにパキスタンの女性は家父長制度のために男性から抑圧されています。自分の人生について決定する力を持っていません』『女性は自身の意志に基づいて結婚することが許されず、男性の許可なく仕事に就くこともできません』といいます。また、現在も女性の半数以上が文字を読めないそうです。

Eva Bさんも当初、ラップをやっていることが家族にバレて猛反発にあったといいます。背景には、保守ニキが友だちからディスられたり、保守的なパキスタンでラップをしていることが結婚の妨げになるのではないかと懸念されたことなどがあったそうです。しかしデビュー曲「Gully Girl」が人気を集めた後、Eva Bさんがをヴェールで覆う布”ニカブ”の着用を条件にラッパー活動を続けることが許可されたそう。2023年、イスラム教徒の女性がを覆う布”ヒジャブ”の着用を巡る抗議デモがイランで置きましたが、Eva Bさんはヒジャブについてはイスラム教徒としてのアイデンティティと誇りであると考え自分の意思でラッパー活動中も着用をしているとインタビューに答えています。ラッパーネームについては、『旧約聖書』に出てくる人類最初の女性であるEve(イブ)と、出身がパキスタンの少数民族・バローチ(Baloch)族のため頭文字をとってBとしたそうです。そんなEva Bさんがブレイクしたのは2022年、22歳のとき・・・

Kaifi Khalil x Eva B x Abdul Wahab Bugti 「Kana Yaari」 Coke Studio
曲はバローチ族のフォークソング調らしくて、曲名の「Kana Yaari」は”信頼関係”的な意味っぽいです。曲のテーマは”激しい裏切り”らしくて、Eva Bさんは”いらねぇNew Friends 俺と俺の仲間だけで全て掴み取る”感あることをラップしているっぽいです。曲はリリース後、パキスタンで YouTube のトレンド動画のトップとなり、公開 3 日目で 300万越えの再生回数を記録。現在までに9000万回再生されています!

さらに2022年に、もう1曲・・・

Eva B 「Rozi」 Un-official Video
パキスタン系アメリカ人の女子高校生・16歳が主役の、マーベルで初のイスラム教徒のスーパーヒロインを描いた、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のドラマ『Ms. Marvel(ミズ・マーベル)』。その第1話のエンドクレジット曲に使われたのが、Eva Bさんの曲「Rozi」!ビートは、USのソングライター・Gingger Shankarさんとの共同制作でパキスタンとインドの音楽の影響があるらしいです。曲は、シングルマザーのホームレスからカラチ市初の女性トラックアート・アーティストになった女性、Rozina Khanさんからインスピレーションを得て制作されたですって。リリックでは、”倒れてから 起き上がり方を学んだ 努力して立ち向かい父親のように今日も自分の足で立っている”的なことをラップしていて、強くてしぶとい女性と苦しみに直面しても人生を前進し続ける力がテーマだそうです。Videoは、『Ms. Marvel』映像を使ったアンオフィシャル・ビデオですが、マジで良いです!

Eva Bさんの曲には他にも、「Tera Jism Meri Marzi (あなたの身体、私の権利)」「Khoon Hai Karachi Ka(カラチが血を流す)」とかがあるみたいですよ。

Ali Gul Pir Ft. Eva B 「Tera Jism Meri Marzi」

Eva B, Sonya Hussyn 「Khoon Hai Karachi Ka」 Official Music Video

リアリ地区は、警察などの介入により2017年に平和を取り戻したそう。そして現在、Eva Bさんは結婚をしラッパーである旦那さん・Mudassar Qureshiさんとともに自身のレコードレーベル『Naughty Horses Recordsを運営している、2WINを実現したそうです!