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もう、卵は食べたくない。

年収200万円台だった時代がある。
ベット?そんな贅沢は敵だ。
フローリングに布団でけっこう。

1人暮らしはしたけれど、家は線路のそばだから、ゆれるゆれる。
そのゆれが私の心臓をゆすり、音が響き渡り、ブルースが生まれていく…はずもなく、ただ自尊心がつぶれていくだけだった。

洗濯機?そんな贅沢はできない。
土曜日午前中の日課として近所のコインランドリーに出かけるのだ。
コインランドリーの民度は低い。
下着をその場で脱ぐ女子やワンカップおじさんが至近距離にいる。
穴の開いた下着を見られないか不安でしかたない。

たまに食べられる動物性たんぱく質は鳥の皮か魚のアラ、あとはなか卯の牛丼。
そして、卵。
卵、お前はなんて優秀なのだろうか、生、炒め、煮る。すべてに対応できる自由自在の食べ物よ。
安価でありながら栄養価も保証される。
満足度がマウンテン。
私は卵をひたすら食べた。

卵の12パックを買った翌日は、
ホカホカご飯に新鮮な卵。醤油を一筋たらし一気にいただく。
贅沢なとろみに溺れる。

ときには半熟の目玉焼きを
強火でジュッと焼いた卵。フチはカリカリに。
中はまだ生とも言っても良いくらい。これを同じくごはんにのせて醤油を垂らす。

ときには味がしみしみの煮卵を。
めんつゆとしょうゆとニンニクをいれたジップロックに
硬めにゆでた卵を落とし、一晩待てば味がたっぷりしみ込んだ煮卵に。

ときには味噌汁に溶いて。
塩辛目に作った味噌汁に、卵を2つ書き入れる。
ドロリとした触感を残すようにゆっくりと2回かき混ぜるのみ。
1分ほど煮てから完成。おかずになる味噌汁ができあがる。

こうして私はありとあらゆる卵に挑戦した。
1日に4つは食べた。で、どうなったか。
心が貧しくなった、
だって、卵しか食べてないもの。
身体が求めるのは肉だった。後半はほぼ呪いながら卵を食べる日々。

私はもう卵は食べたくない。
卵の味は貧乏の味だ。みじめな味だ。悲しい味だ。自尊心が削られる味だ。

いつか私は、外国産の車を駐車場代を考えず購入し、高級衣料品で身を固めるのだ。圧倒的な富を手にするのだ。
野心は持ち続けなければなくなる。
卵と野心は常に同じ場所にある。

そのときまで私は、卵を食べたくない。

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