幻想郷『下』異変 8
恐らくは壮絶な戦闘となる。そんな中なら彼女の力は必ず役に立つ。だから何をしても落ち着かせる。それがカリスマとしての役目だ。
心を無にし、あのドアを開ける。物音に反応し、愛しの当主の香りを嗅いで彼女が動き出す。
「おぼーさま!」
「少し落ち着いて。その猿ぐつわを外すから」
「っはあ! お嬢様!」
「そうよ、カリスマ溢れるお嬢様よ」
「抱かせてください!」
咲夜の熱暴走は相変わらず止まっていない。本来なら冷たくあしらうか暴力で解決するところだがそんな時間はない。
ならこういう時はどうするのか。答えは簡単で等価交換を行えばいい。
「良いでしょう」
それだけ言ってレミリアが咲夜の唇を奪う。唇だけではなく舌も絡ませる。唾液の交換だけで咲夜が瞬間7回絶頂を迎えて意識を飛ばすも、すぐさまカリスマのビンタで目を覚ます。
「まずは前払いよ。これから霊夢達の応援に行く。そのときに貴女の力は必ず役に立つ。それが終わったら続きをしましょう。それでどう?」
「………分かりました」
錠が自然と外れた。元々咲夜が完全に落ち着きを取り戻したら自動的に外れる仕組みとなっていた。つまり、今の咲夜はいつもの完全で瀟洒な従者に戻ったわけだ。
「それじゃ行くわよ、咲夜」
「仰せのままに」
血しぶきの向こう側からレミリア・フラン・咲夜・パチュリー・美鈴が姿を現す。時を止め、裏を取ったのだ。いくら強くても無防備、しかも背後からの攻撃は防げなかったようだ。
「ナイスタイミングよ。てかお腹は?」
「さっき産まれたと思ったら突然こっちに向かって飛んできたの。それでここで何か起こってるって理解できたのよ」
「なるほどね、とりあえずありがと。ついでにもう一人やっちゃってくれない?」
「仕方ないわね。咲夜」
「はい、お嬢様」
咲夜が指を鳴らし、再び時を止める。普段は全ての時を止めるのだが、彼女と接触して《同じ時間を共有していれば》動くことが出来る。
「まったく、こんなやつの異変に巻き込まれたと思うと泣けてくるわ」
「まあ私は気持ちよかったけどね。またやろうよ御姉様」
「…新しい扉を開けちゃったのかしら。とにかくやるわよフラン」
「はーい」
レミリアとフランが同時に切り裂いた直後に咲夜が時を動かす。股間A同様、Bも鮮血を撒き散らしながら崩れ落ちた。
「これで貸し一つね、霊夢」
「よりにもよってアンタに作るとはね」
「…いや、まだ貸し借りは必要なさそうだぞ。やつらの妖気が完全に消えてない!」
股間ABが残っていた力を振り絞って互いの手を掴む。全員が慌てて飛び道具による攻撃を行うも、すんでのところで黒い光が二人を包みこむ。
「止まるな! 撃ち込め!」
先代巫女の怒号と共に全員がありったけの攻撃を仕掛けるも、黒の光は非常に硬く、中身へダメージを一切伝えなかった。
(べらぼうに硬いが決して割れない硬さじゃない。あと一押しなら)「霊夢! 強化をお願い!」
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