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円安報道の違和感とは

 ここのところ毎日のように円安報道が続いています。最近の報道や日銀総裁の会見を見ていると気になることが多くコメントしようと思います。

日銀総裁会見

 4月26日の日銀総裁会見は見ごたえがありました。会見では円安関係に質問が集中していました、特に物価と円安の関係に焦点が当たっていたように思います。日銀総裁は円安は第一の力(輸入物価等の直接影響するもの)には影響を一時的に影響を与えるものの、第二の力(基調的物価動向で賃金も上昇し、サービス価格上昇するような循環)に影響するかはまだ判断できないとの趣旨を述べていたと思います。テレビ東京の大江さんの質問にたいして「為替の影響は一時的にとどまる」と答えていましたが、これは為替の変動(変化量)は気にしているが、絶対値は物価に与える影響は限定的と考えていることだと思います。TBSの記者が最近の円安は「『無視』できる範囲かと質問に対しも総裁は丁寧に答えていましたが、記者が再度「『無視』できる範囲か」との質問に対し「はい」と答えていました。総裁はご自身では『無視』との言葉は使っていないと思いますが、これが切り取られ後半で朝日新聞の記者が円安が「無視できるとは聞き捨てならない」と発言し、続けて日銀総裁に対し詰問調で「日銀の10年間の負の遺産か」とも発言していました。ほとんどの記者は冷静に金融政策に対し真摯に質問をいしていましたが、一部の記者の言動は日銀総裁の金融政策に関する記者会見とは思えず、正義の味方振る記者が犯罪者に対して詰問するような、よく見る光景となっていました。
 今の時代はいつの間にか「円安で大変だ大変だ」というのが世の中の通りが良くなっていて、何十年か前は「円高で大変だ大変だ」と合唱していたのが嘘のようです。

報道番組に見る円安議論

 BS-TBSの4月25日の報道番組「報道1930」で円安を報道していたが、キャスターの松原耕二氏をはじめとして、3人のコメンテーターが皆さん円安悪玉論を展開していました。もともと番組のテーマが『「円弱」ニッポン国力低下の現実』となっており円安と呼ばずに「円弱」と言うべきだと主張していたように思います。今の日本の空気感を象徴しているような番組内容であり、この番組の空気感が翌日の日銀総裁会見の雰囲気を醸成させているように思えます。これに対しテレビ東京の3月30日の報道番組「ニュースの疑問」は大変見ごたえがあある報道番組でした。残念ながら現在テレ東BIZでは見ることができないようですが、円安賛成論者として武者陵司さんと反対論者として野口悠紀雄さん他が意見を戦わせていました。

円安悪玉論の背景

 最近の毎日のニュースでも円安で物価が上がって大変で、ハワイに旅行に行ったら円安で昼ごはんに5千円かかったとかが報道されています。でも経済学的に円安と物価上昇の関係、海外物価との関係を検証して報道しているのでしょうか。そう言えば日銀総裁に対し「無視できるとは聞き捨てならない」と言った記者はハワイ旅行が大変だとも言及していました。ハワイ旅行が日銀総裁を問い詰めるほど日本国民にとって重要事項なのでしょうか。なぜこのような空気感で報道されているのか、議論を聞いていると少し心当たりがあります。どうもこの空気感はアベノミクスは悪で黒田前日銀総裁は間違っていたとのことを前提としているように聞こえます。私はこれ等を評価する立場にはありませんが、正しかったか、間違ったかどうかは今後の歴史が教えてしてくれると思います。
 少なくとも株価は現在大きく上昇しています。そういえば日経平均が1万円を切っているような時は、国民の重要な財産である年金運用を価格変動する株式に運用するのは何事だと報道されていたのを思い出します。現在年金資産を株式運用して良かったとの報道は聞いたことがありません。ドル円の為替レートにしても、1985年プラザ合意前は240円から250円程度ですから、その後の70円台の円高を経てちょうど半値戻しぐらいが現在の水準で、少し長い期間で見ればそれほど驚くべき水準ではないように思います。現在の為替レートが今後の基調的な物価動向に与える影響が軽微であるか(記者の言葉では無視できる)どうかは、今後の物価動向で見えてくると思いますが、少なくともデフレに逆戻りだけはなってほしくないと思います。