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5月31日付日経新聞「国税が税務見解」から思ったこと

 少し前になりますが、5月31日付の日本経済新聞で信託型ストックオプションの株式報酬に関する税の取り扱いに関する見解が示されたとの報道があった。税の取り扱いについては専門家が、税の課税の公平性や他の取引とのバランス等を考慮して判断されているとされている。ただ税務当局は税収を確保するのが仕事だとすればそれまでであるのだが,大原則として課税できるものは最大限課税するロジックが常に背景としてある。今回の件はその後も日本経済新聞が報道しているので、スタートアップ企業に対する影響等の分析は同紙に期待したいが、同紙の記事では「国税が税務見解 負担拡大に懸念」との副題がついている。この副題は当たり前のようだが何か違和感があり、年貢の取り方を決めたからこれに従えと言っているように見えてくる。ここでいつも不思議だと思っていることを二点ほどあげたい。
 投資(株投資)関係の税金のテーマでは先物取引が現物取引と損益通算ができない問題がある。本来的には先物取引はヘッジ機能が有効な機能と思われるが、日本ではスペキュレーションの手段としてしかとらえられいないようだ。先物取引や先物オプション取引等も日経平均以外は取引が低調である。これは個人にとっては損益通算ができないことで、先物(オプション)取引に実質的にヘッジ機能がなく、これが取引が発展しない一因になっていると思われる。ここのところの株価の上昇で日経平均ダブルインバースETFが盛況だが、ETFは先物取引よりもコストも高く本来的には先物取引を使うほうが経済合理性があると思われるが、ETFは現物取引と損益通算ができるために、逆にETFが多く利用されている様である。市場取引の常識と税務の常識が食い違っており、税務的な見解が現実の取引に影響を与えてしまっている。
 また大きなテーマとしては税務会計と財務会計という概念があり常識となっていますが、これも素朴に考えると不思議な光景に見える。簡単に言えば「税金たくさんほしい会計」と「かっこつけすぎはダメ会計」と言ったことでしょうか。税務会計ではなるべく経費を認めないか先送りして課税額を大きくしたいバイアスがかかり、一方で財務会計では株価(その他)を正当に評価するために、その会社の実力を図ろうとし、過大評価とならないように利益の前倒し計上や経費の過少計上に厳しい方向性が出てくる。
 素朴に考えると評価基準が二つあるのは何かおかしくないでしょうか。経済活動の結果として税金を納めるのが本来のあり方ではないかと思うが、現実は税制が経済活動に影響を与え、経済活動は税務対策としてまた複雑な取引を作り出し、全体の構造はますます複雑になるとの繰り返しとなっている。いろいろ制度が複雑なほど専門家と称する人の仕事の機会が増えるのでしょうが、このような状況は日本全体の経済活動にはマイナスの影響しかないと思われます。よりよい経済活動をして、その利益に対して適切な税金を納めるのは当然なことですが、現実は少し違った世界に見えます。