2020年オスカー作品賞候補作寸評
今年のオスカーレースは娯楽作品好きに優しい「どれも見応えがあり納得の選出」ばかりだったので,オスカーの括りでまとめて視聴しても疲れないと思う.
パラサイト 半地下の家族
ポン・ジュノ監督作品.貧富の差・階級差を浮き彫りにするブラックコメディ.見事なセットデザインから,二転三転するユニークな脚本まで,目に楽しいリズミカルな斬新さが楽しめる.肌に合わなかったけど,全般的なレベルの高さは納得.他のノミネート作と並べても異彩を放つし,選びやすかったのも受賞を助けたか.貧しい設定の主役たちの歯・髪の毛・服が綺麗すぎるのでイマイチ響いてこない.Respect!
プロダクション体制の品行方正さも評価されていて,アメリカ資本も入ってないのに健闘したことを大いに歓迎する.ただ,作品賞と監督賞をあげるなら役者陣もノミネートしたらいいのにね?とも思う.非英語話者だとダメって決まりでもあるんだっけ?(嫌味)
ジュノは近年だとスノーピアサーとかオクジャとか,とっつきやすいユニークな作品を連発しているから,過去の作品も挑戦すると良いと思うよ.
フォードvsフェラーリ
ジェームズ・マンゴールド監督作品.直近だとローガンの人のイメージかな.わかりやすいスポ根に,「熱い思いvs企業の思惑」の構図を持ってきて拳を振り上げて応援したくなってしまう.実はUKはウェールズ出身のクリスチャン・ベールが今回はコックニーっぽい訛りのキレやすいドライバーを演じていてすごく楽しい.車に思い入れがない筆者も一緒になって応援してしまう,卓越した画作りと編集にも注目.Not yet, not yet. Now.
アイリッシュマン
マーティン・スコセッシ監督お得意のギャングもの.とにかく尺が長い.デニーロ,パチーノ,ペシを贅沢に使って,ついでに時間も贅沢に使ってじっくりマフィア内の興亡を描く.グッドフェローズやカジノの方が完成度は上だと思うけど,「暴力の世界で生きる代償まで丁寧に描写した」という意味では大事な作品.ただの同窓会映画にならずきちんと作ってる.I heard you paint houses.
ジョジョ・ラビット
タイカ・ワイティティ監督作品.マイティ・ソー バトルロイヤルで一躍有名になったコメディ畑の人.ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープルとかシェアハウス・ウィズ・ヴァンパイアとか,外れなく良作を生み出している.今回はヒトラー政権末期のナチスドイツに暮らすヒトラー信奉者の少年を中心に,不思議とコミカルな青春モノをやっている.母役のスカーレット・ヨハンソンは後述のマリッジストーリーでもノミネートされる無双ぶり.今年はそういうオーバーラップが多かった.
ポップな画面と底抜けに明るいコメディで油断すると後半心をもぎ取られる.今年の候補作の中では3番目に好き.
配給のフォックスサーチライトがディズニー傘下になった途端にディズニーが公開を渋ったことでも有名である.
ジョーカー
トッド・フィリップス監督作品.ハングオーバーシリーズで食ってたコメディの人.ホアキン・フェニックスの演技は素晴らしいし映像も劇伴も文句の付け所がないんだけど,いざ考えるとあんまり主張も中身もなかったりする.少なくとも他と比べると訴えかけるものが弱い.好きだけど,何でこんなにノミネートされまくったのかは首を捻っている.よくできてるんだけどね.
ストーリー・オブ・マイ・ライフ 私の若草物語
グレタ・ガーウィグ監督作品.レディ・バードで鮮烈な長編デビューを飾った次の一手は,幾度となく映像化されてきた若草物語.どう「らしさ」を引き出してくるのか注目.
未見.観次第追記予定.
マリッジストーリー
ノア・バームバック監督作品.マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)くらいしか知らない.アダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンの離婚話.いまだに愛し合っているけど,決定的に道を違えた二人が決断した離婚という決断は,子供の養育権をめぐっての精神をすり減らす地獄の道程だった,という話.ドライバーとヨハンソンの演技に度肝を抜かれ続ける.無自覚のセクシズムとか,離婚調停のやるせなさとか,生々しい苦境の数々を通じてもやはり慈しむ心がどこかに残っていて,見ていて辛いけど見る価値のある作品だった.2番目に好き.
1917 命をかけた伝令
サム・メンデス監督作品.最近の007とか,ロードトゥバーディションとかの印象が強い.「全編1発撮りに見えるよう巧妙に繋げてある」というのが売りだけど,撮影監督ロジャー・ディーキンスの才能も手伝った美麗な映像と逃げ場のない緊迫感がすごかった.チェックポイントごとにイギリスの有名俳優が客演する謎のご褒美仕様はちょっと笑っちゃった.主人公がみるみるうちに顔つきが凛々しくなっていく.会話セリフがもう少し刺激的だったら文句なく受賞していたと思う.実は1番好き.
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
クエンティン・タランティーノ監督作品.「60年代後半のハリウッド映画が好きで,足に興奮するんです」という監督が趣味を全開にして撮ったブロマンスもの.歴史改変も楽しんでしまうというロマンチシズムを愛せるか否かで,作品への愛着が変わってくると思う.マンソン一家とシャロン・テイトの話と,虚構の主人公二人が交差するとき,物語は一気に加速する.この手のタランティーノならイングロリアス・バスターズの方が好きだったり.
ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密
脚本賞の方からついでにライアン・ジョンソンの新作を.スターウォーズ最後のジェダイはちょっと置いておいて,ブリックとかルーパーとか,この人はオリジナル作品の方が面白い.今回は得意分野に帰ってきた感じがした.このご時世に完全新作のミステリが製作されることを喜びたい.笑かしにきてるようなヘンテコ訛りのダニエル・クレイグ扮する私立探偵と,何と言ってもアナ・デ・アルマスの役所が光り続ける.このシリーズ,ぜひ続いて欲しい.
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