21世紀のお勧め洋画 44番勝負

昨年の6月にツイッターで行なった #ふぁぼされた数だけ好きな映画紹介する というタグでのツイートを再編集したものです.「2000年以降(タイトル詐欺)に公開された洋画に限り,かつ映像作家の重複を避ける」という勝手な制約を己に課して,自信を持ってお勧めできる作品,セールスポイントが明確な個人的お気に入りを紹介しています.今回は記事公開時点で見られる配信サイトか最安レンタル,参照URLをタイトルに埋め込んでおきました.
各項で名前を挙げた作家の他の作品にも挑戦していただくことを期待しています.この44番勝負を足がかりに,向こう数年は遊べるリストに仕上がったんじゃないかなあ.

1.最後の追跡(2016)
今最も熱い脚本家テイラー・シェリダンが吐き出したクライムスリラー.
とにかくアクセルペダルをベタ踏みして駆け抜けるアクションでありながら,社会情勢に一石を投じることにも余念がない.ストーリーに負けない,迫真の演技の数々に痺れる.ハリウッドの未来は明るい.

2.エクス・マキナ(2015)
将来有望株その2,アレックス・ガーランド初監督作品.新開発AIのチューリングテストを主題に繰り広げる,3者の駆け引き「だけ」で一本成立させてきた.3名の役者が凄まじいのは勿論,複数回の視聴に耐え,毎度新たな発見が得られるスルメ映画.

3.メッセージ(2016)
巨匠の域に達する一歩手前,ドゥニ・ヴィルヌーヴ作品.「異星人の言語」を題材に,人生観に風穴を開けてくる意欲作."地味なSF"と侮ると,痛い目をみることに.宇宙人侵略のはなし,ではない.主人公と共に内省の旅に出よう.

4.ソーシャルネットワーク(2010)
デビッド・フィンチャー監督xアーロン・ソーキン脚本の一粒で二度美味しい妖怪.ただのFacebook創世記ならクッソつまらんはずが,映像・テンポ・会話,どれを取っても卓越している.なんでこのテーマでこんなに面白いんだよ!と腹を立てること必至.

5.ナイスガイズ(2016)
シェーン・ブラック脚本・監督.アホほど笑えるミステリー.この人にしか書けないウィットに富んだセリフ回しは,刺激的で軽快,それでいてヤケッぱち.どうにも複雑で荒唐無稽に思えるプロットには意味があるのだ.何度観ても色褪せない,不思議な魅力を持っている.

6.キャビン(2012)
MCUの立役者ジョス・ウェドン脚本.唯一無二のホラー映画.ただし全然怖くない.ネタバレ厳禁,メタメタにメタである.一発勝負のアイデア勝利で不動の地位を築いた,意外性ナンバーワン映画.巧妙な演出に驚いてほしい.下調べはしちゃいけません.

7.トゥモローワールド(2006)
アルフォンソ・キュアロン監督の金字塔.人類が産まれなくなった世界で,唯一の新生児を護る男のロードムービー.何もかもが技巧に満ちて,緊迫感に張りつめた二時間である.スーパーヒーローの出てこないローガン(2017)とも言う.今世紀の映画史に残る名作.

8.ファントムスレッド(2017)
ポールトーマスアンダーソン監督最新作.美しく詩的で多層的なメタファーが織り込まれ,優雅・苛烈.食事のメニューから,セリフに染み込ませた含蓄,画面の構図まで,あらゆるものを吟味し慈しんで欲しい.単純にユニークなラブロマンスとしても楽しめる.

9.プレステージ(2009)
クリストファー・ノーランは一作を選ぶのが難しいが,今回はこれを.二人の手品師が世界一を目指し,切磋琢磨し,妨害し合い,あらゆる犠牲を厭わず,激しくぶつかる.トリックも詰め込んで,知性を刺激してくる.手品を描く手品のような作品.

10.ビフォア・サンセット(2004)
リチャード・リンクレイターはいろんな作品を出しますが.ビフォアシリーズはラブロマンスもの.9年ごとに同じカップルの続編を出す.コレは2作目.ちょっとズルした.主演の織りなす自然でトキメキに満ちた会話とケミストリーに酔ってください.一生やって欲しい.

11.オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分(2013)
スティーブン・ナイト脚本監督.「トム・ハーディが高速道路を走らせながら電話してるだけ」なんだけど,何をどうしたらこんなに惹きこまれる作品に仕上がるのか.奥ゆかしい演技の中で,男の苦悩を乱暴に描く.騙されたと思って,黙って観てくれ.

12.シティ・オブ・ゴッド(2002)
フェルナンド・メイレレス監督,ブラジルのスラム街,マフィアを巡る半実話.
遠慮がなく,痛烈で,どこか笑えて,どこまでもリアル.絶対一度は観て欲しい映画.ダメなところを見つける方が難しい.熱意と悪意に翻弄されてください.後悔はさせない.

13.善き人のためのソナタ(2006)
ドナースマルク監督作品.東ドイツ秘密警察の男が,芸術家カップルの監視任務に着く.いつしかカップルの人生を応援するようになってしまって⋯という世知辛い設定から生まれた心温まる快作.ラストまで観て幸せな気持ちにならないようなら,あなたは少し疲れている.

14.マネー・ショート 華麗なる大逆転(2015)
アダムマッケイ監督,リーマンショックを’予期’して大儲けした奴らを描くコメディ.小難しい話を題材に,いわゆる悪人側が主人公で,ここまで知的に笑わせてくるのは珍しい.キャストが無駄に豪華.やりすぎないけど遠慮もない.ちょうどいい毒が心地よい.

15.コラテラル(2004)
マイケル・マンの渋いやつ.殺し屋トムクルーズとタクシーの運ちゃんジェイミーフォックスの二人で場を持たせる.背景に映る,ギラギラと輝き蠢く街の存在感も見逃せない.終始「かっこいい⋯」と呟いてしまうような映像と会話,アクション,どれを取っても一級品.

16.月に囚われた男(2009)
ボウイの息子ダンカンジョーンズ監督作.小粒のSFだが,とにかく巧い.サムロックウェル無双.いろんな過去の名作のオマージュが見られるけど,独立した作品として成立している.孤独感,倫理,浮遊感を一度にぶつけてくる.(今ならブラックミラーの1話に収められそう.

17.Dr.パルナサスの鏡(2009)
テリーギリアム節全開のヘンテコ映画.不思議空間を使って人の魂を救済したり地獄に落としたりする話⋯かな?とりあえずキャストが豪華でぶっ飛んだ物語にイカれた映像がついてる.飛び出す絵本のようなインパクト.悪魔役のトム・ウェイツが無駄にかっこいいのです.

18.ノーカントリー(2007)
コーエン兄弟渾身の一作.ハビエル・バルデムが演じるキモ怖面白い殺し屋が作品の全てを掻っ攫っていく.セリフに込められた含蓄が,噛めば噛むほど渋い.ダークナイトのジョーカーが楽しそうな悪なら,こっちのアントンは「自分がそうでなきゃダメ」と信じ切ってる悪.

19.ゴーンベイビーゴーン(2007)
俳優ベン・アフレックの監督デビュー作.以来ほとんどハズレのない素晴らしい作品を撮り続けている.女児誘拐事件を追う私立探偵が主役のミステリ.余韻が残りいつまでも反芻したくなる.美しく泥臭い.ちょっと切ない.

20.オデッセイ (2015)
リドリースコットが手がけた近年の作品では群を抜いて面白い.マット・デイモンが火星に置き去りにされ,生還するお話.地球サイドもロケット側も楽しめる.足を引っ張るサブプロットがない.ここでのショーンビーンは死なない.

21.ONCE ダブリンの街角で(2007)
ジョン・カーニー脚本監督.歌手とピアニストの出会いと別れの物語.音楽の力とダブリンの街並み,チェコ文化の彩りが眩しい.荒削りながら,徹頭徹尾素敵なお話.カーニー作品は全部音楽が主役だけど,今作は本物のミュージシャンが活躍している.派生作品もぜひ.

22.セッション(2014)
デミアン・チャゼル脚本監督.若き天才ジャズドラマーと,鬼のような教師の激しいバトル.途中で脱落しそうになるほどつらいが,ラストは二段階の驚きが待っている.ジャズで…ドラム…?と懐疑的な人にこそ観ていただきたい.チャゼルは今後も目を離せない作家の一人.

23.レヴェナント: 蘇えりし者(2015)
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品.撮影監督ルベツキ.スーパーすごいアクション復讐劇.ディカプリオもすごいけどハーディが完全に食っている.技巧と説得力が束になってかかってくる.イニャリトゥは観なきゃダメ.

24.パディントン2(2017)
マイケル・ボンド脚本監督.暗黒ペルー出身・年齢不詳の子グマを受け入れるロンドンの一家の物語.善意に満ちた至高のファミリー映画.受容と共感をテーマに可愛く,優しく,ほっこりするんだよ!いいか!おっさんだって泣くんだからな!無駄に無駄のない引き締まった脚本.

25.イングロリアス・バスターズ(2009)
タランティーノ作品.ヒトラーをぶっ殺しちゃう歴史改変トンデモ活劇.クリストフ・ヴァルツの演じるねちっこく爽やかでうざい悪役は必見.近年のタランティーノでは単純に観やすく楽しい.暴力描写がぶっ飛んでるのはご愛嬌.

26.Mr.インクレディブル(2004)
打率8割越えの化け物ブラッド・バード監督がまとめ上げたファミリー映画.
スーパーヒーローものの最高峰と言ってもいいだろう.ほぼパーフェクトな映画.ワクワクして好感度が高くて,笑えて熱いピクサーのお手本.トゥモローランド以外全部抜群に面白い.

27.モンスターズ/地球外生命体(2010)
ゴジラのギャレス・エドワーズ監督・脚本・撮影.宇宙から飛来した生態系に汚染された現代で,メキシコからアメリカに帰るロードムービー.劇伴がジョン・ホプキンスで,嘘みたいに美しい廃墟・風景とマッチしている.ストーリーは有って無いようなもの.

28.ゲットアウト(2017)
ジョーダン・ピール監督デビュー作.単なる"ホラー"に収まらない巧みなストーリーテリングと,新しいレイシズムへの切り口が新鮮.ラリった描写の浮遊感は格別で,トンでも感とリアリティのあんばいが素晴らしい.出演陣の演技も圧巻である.これで監督デビューだってよ!

29.パターソン(2016)
ジム・ジャームッシュ監督作品.バスの運ちゃんアダム・ドライバーが詩を書いて恋人を慈しむだけの,本当になにも起こらない映画.一般人の会話に微笑み,子供に気付かされ,何気ない日常に包まれる.そんな「映画になるかバカ!」と言いたくなるのに映画になってる不思議.

30.スポットライト 世紀のスクープ(2015)
今や売れっ子ジョシュ・シンガー脚本.カトリック教会に蔓延る性的虐待とその組織的隠蔽を暴くミステリ.真相究明へ尽力するジャーナリストたちの姿が視聴者の胸を熱くする.題材の重さを毀損せずに娯楽としても成立させる,という難しい采配に脱帽.

31.ゼロ・ダーク・サーティ(2012)
キャスリン・ビグロー監督.ビンラディンを仕留めるまでの経緯を克明に描く.実録映像かと疑いたくなるほどの緊迫感に支配されつづける.ジェシカ・チャステインの演技に息を呑み続けることに.アメリカ礼賛でもお涙頂戴でもない,凄惨でドライな演出が見所.

32.ファンタスティックMr.Fox(2009)
ウェス・アンダーソンのコマ撮り人形劇.パパ狐(cv.ジョージクルーニー)がただただ素敵な心温まる痛快ファミリーコメディ.ピーターラビットより遥かによく出来てるんですよ!!近年のアンダーソンは観客の笑わせ方がどんどん巧くなってる.

33.ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!(2013)
エドガー・ライト監督.つまんねーわけねーだろ!極めて高い娯楽性と,驚異的フィルムメーキングの両立で傑作を量産している.各ジャンルの凡作を踏み潰していくのだ.MCUはライト版アントマンを返して!SHOTS!!

34.世界に一つのプレイブック(2012)
デヴィッド・O・ラッセル監督・脚本.心に傷を負った二人の不器用なラブロマンス.べたつかない,けど本質を衝いてくる.O・ラッセルはオスカー常連中堅クリエイターで,大当たりもなく大外れもない.今いい流れに乗ってる.

35.プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命(2012)
デレク・シアンフランス監督のクライム・スリラー.陰鬱とした雰囲気と一触即発の危うさを見事に映像に昇華している.どこか戯曲風の大仰なつくりが,時代を越えて苦悩する等身大の若者たちと融和して,殴り掛かってくる.後味は意外と爽やか.

36.LOOPER/ルーパー(2012)
最後のジェダイでお馴染みライアン・ジョンソン監督のSFアクション.オチはすごく強引.タイムトラベル周辺の設定が独特で,新鮮な気持ちで楽しめる.というか,イカすアクションとJGLがかっこよくて最後まで観れちゃう.オチが強引.(二回目)

37.オール・ユー・ニード・イズ・キル(2014)
ダグ・リーマン監督.タイムループアクション.日本作品のハリウッド映画化の中では最高傑作だろう.世にも珍しい腰抜けのトムクルーズ,強い強い強ーいエミリーブラントの二人が織り成す,めちゃくちゃ楽しい&冴えたアクションである.こういう作品こそ応援したい.

38.かいじゅうたちのいるところ(2009)
スパイク・ジョーンズ監督,絵本の映画化作.幼い少年がぼんやり抱える困惑・混乱と豊かな想像力を,幻想的に表現している.粗暴で不条理,でも心が温まる,そんな物語.少年が冒険を終えるころには,ちょっとだけお兄さんになって帰ってくる.パジャマ欲しい.

39.猿の惑星:新世紀(2014)
マット・リーヴズ監督が引き継いだ,おさるのシーザー二番目.人間どもより,フルCGのおさるさん達の活躍に胸が熱くなるとは,一体どんな魔法を使ったのか.この三部作は全部観て欲しい.おさるの英雄 シーザーは気高く,人間くさくて,偉大なおさるさんである.

40.レスラー(2008)
ダーレン・アロノフスキー監督.落ち目のミッキーロークが落ち目のプロレスラーを熱演.リングの上でしか輝けないんだ…とボロボロの体を押して戦い続ける,追いつめられたおじさんの悲壮感に打ちのめされる.その男 ヴァンダム(2008)の超辛い名作版.ラムジャム!!

41.ウルフ・オブ・ウォールストリート(2013)
マーティン・スコセッシ監督の…コメディ…??やり手の証券マンが酒に女に薬にとやりたい放題やる栄枯盛衰を描く一大叙事詩(大嘘).下品で滑稽,悪趣味なおっちゃん達が大暴走する.こっちもハイにならないと着いていけない.PCの概念は忘れてきた.

42.レゴムービー(2014)
ロード&ミラーの二人組監督.忙しいコメディ.「アカデミー賞にノミネートされなかった」ことに怒る映画ファンが続出したほどのクオリティで,エモジとかその辺に爪の垢を煎じて飲ませるべき.映画クリシェの脱構築で物語を成立させた手腕に拍手.Spaceship!!!

43.コントロール(2007)
写真家アントン・コービンの監督デビュー作.伝説的バンド「ジョイ・ディヴィジョン」ボーカルの伝記映画.白黒.とにかく画面の作り方,映像の構図が見事.要は動く写真集である.サムライリーの演技もいいので,バンドを知らなくてもたのしめる.お話は期待しちゃダメ.

44.ビューティフルデイ(2017)
リン・ラムジー監督/脚本.ホアキン・フェニックス演じる正義の殺し屋が,誘拐された少女を救うスリラー.全く容赦のない90分に,息をつく暇などない.映像美とドライな暴力,突き刺す激情が見事に融合している.とくに反射する光源,鏡面の撮り方に注目.

以上,44本でした.見終わって感想を聞かせてくれたら筆者は小躍りして喜びます.どうぞよろしく.

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