英文契約書の翻訳 - 長文読解について(その1)

契約書翻訳に際しても、英文契約書の翻訳を含め最近ではAIによる翻訳が採用されることも多くなってきているようです。AIによる英文契約書翻訳の正しさを確認する意味でも、英文契約書そのものについての理解が必要です。端的に言えば「その契約の種類を問わず、その契約内容に、契約に対する当事者双方の意図が正しく記載され、これにより契約が正しく履行され、さらに当事者間の誤解や紛争を防ぐための事柄が記載されているものであるか」を見極める必要があります。しかしながら、「英文契約書の文章は難しい」と言われています。それは、英文契約書には、初見ですぐに理解するのが難しい表現、語彙、規程があるからと思われます。以下、私見ですが、その理由について考えていました。

1. 英文契約書の文章が難しいと言われる理由
(1)一義的に見て契約書は、それ自体は法律ではありませんが、契約書が法律文書であるという点にあるのかもしれません。法律文に使われている法律用語は、「本来的に法概念の抽象性・一般性を本来の特性とする高度に抽象化された部分」があり、その性質上、法律用語が使われた類の契約書の文章には、慣れていないと、すぐに理解にできない単語や成句、独特な表現があります。契約書によっては、法律の条文の一部がそのまま記載されていることもあります。

(2)上記のように英文契約書の特色の1つとして、「基本的ある事柄について、一般的かつ包括的表現を行うことはあまりなく」、反対に「ある事柄について、そこに含まれるであろう個々の事例を1つ1つ列挙する傾向」があります。このため内容が細かく、かつ文章の量も多くなります。これにより、時として、「文章の構造が複雑で読みにくくなってしまう傾向がある」ということが多々あります。
日本の契約書の場合、法律文にもみられるように「一般的・包括的/抽象的に表現される傾向」があり、例えば、良く眼にする内容として「本契約に定めなき事項または疑義を生じた場合、両当事者の協議によりこれを解決する」等の一文が定番として記載されているのを良く見かけます。
もちろん英文契約書でも、例えば「Matters not stipulated in this Agreement or any doubt, with respect to the interpretation or performance of this Agreement shall be discussed and resolved based on the coordination between the parties」)のような一文(当方作成の例文。)を記載することもあります。)
多くの場合、英文契約書では、上記の理由により条項の一文が長くなり、日本の契約書と比べ、相対的に複雑化する傾向が見られます。

(3)文章の構造が複雑で読みにくくなる傾向の要因の1つとして例えば、1つの文章について、その時々で追加、修正された箇所が多々あると、一文が非常に長く複雑になることがあります。これなどは古くから使われている(特に、長年使いまわしされている)契約書において顕著です。すなわち問題の発生、時代の変化等、さまざまな要因により、それが当初作成した時点では、考え得るすべてのことを網羅した内容であっても、後に加筆、修正、削除等が行われます。また、古くから使われている契約書を含め、契約書によっては、すでに現在、一般には使われていないような古くからの表記・表現、言い回し、または難しい表記・表現、さらには時として冗長な言い回しが使われていることがあります。
また、条文によっては、恣意的に遠回しな表現が使用されていることもあります。
これら上記の事柄が合わさった場合、契約書はより難解なものになります。
なを、契約書ではありませんが、経験的に古い表記・表現が使われていることが多いのが、公証人が作成した証書とか、かつて欧米の植民地・宗主国であった国々の公文書にみられることがあります。

(4)、英文契約書には、例えば「force majeure」、「in lieu of」、「bona fide」,
「mutatis mutandis」等のフランス語やラテン語がまじっていることがあります。

(5)その他、英語を母国語としない起草者が作成したことによる独特な表現、または英語を英語以外の言語からの翻訳で生じた文法的な瑕疵、読みにくさ等があります。
いずれにしても、上記の事柄の幾つかが、英文契約書や法律文書に初めて触れた場合の難しさにつながり、英文契約書の内容を理解するうえでの1つの妨げになっているかと思われます。
例文は契約書翻訳の観点から当方にて作成したものですが、例文を含め、ブログ内容を参考にされる場合は、辞書・専門書をご確認の上、ご自身の責任でお願いします。

参考図書:
研究社新英和辞典(研究社)
ランダムハウス英和大辞典(小学館)
アメリカの法律と歴史 増補版(自由国民社)
英米法講義(青林書院新社)
法律用語辞典(有斐閣)
The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press)
Collins Concise Dictionary(Harper Collins Publishers) その他 UCC、Restatement2d

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