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優しい人

帰りのバスの中。最寄駅に到着した瞬間。

そうか。“優しい”って都合の良い人間なんだ。

心にストンと落ちたのを感じた。



その日、2時間残業して疲れ切っていた。日曜日。みんなは定時に退勤して、一人だけの残業だった。きつかった。経験も浅いし、一人では判断がつかないこともあるし、恐らく無駄な動作が多いのだ。でも自分が辛い時、優しい人を利用したくないなと思った。話しかけづらい、頼りづらい人はたくさんいる。だからお願いしやすい人に頼ってしまう。それがいつも申し訳なかった。その日も、自分が忙しい時でも耳を傾けてくれて対応してくれる先輩に頼ってしまった。残業させてしまったことを謝罪すると笑顔で「全然」と答えてくれる、優しい人。その答えに救われると同時に罪悪感を覚えてしまう。だから私は、自分がどんなに忙しくても優しい人を利用するような人になりたくない。ずっとそう考えていた。



幼少の頃よく言われた「優しいね」という言葉。
それを褒め言葉として受け取れなくなったとはいつからだろう。わからない。ただ、小学生の頃から違和感を覚えていた。
だから腑に落ちた。
そうか。私は“利用しやすい““都合の良い人間”だったのだ。納得の出来る答えで、とてもショックだった。



まあただ、いくらショックを受けた所でわたしは変わらない。変われない。私はきっと“優しい人間”ではなく、“思いやりのできる人間”なのだ。利用なんてさせない。自分を守らなければならない。
私の味方は、私しかいないのだ。
そう自分に強く言い聞かし、少し潤った瞳を誤魔化して帰宅した。



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