漫画のキャラの地元を特定したい! 〜「明日、私は誰かのカノジョ」ゆあてゃ編〜
「明日、私は誰かのカノジョ」について
最近すごくハマった漫画がある。
「明日、私は誰かのカノジョ」通称「明日カノ」だ。
オムニバス形式で、章ごとに変わる主人公たちがみんな魅力的で若い女性を中心に大反響を生んでいる作品だ。その勢いのまま現在ドラマ化されて放送されている。(執筆当時)
特に人気なのが、コミックス5巻の表紙を飾るキャラクター「ゆあてゃ」。
典型的な「地雷系ファッション」に身を包む、見た目だけでインパクトのある女子の正体は、歌舞伎町のホスト狂いだ。
……いや、「てゃ」ってどう読むんだよって? 誰も知らない。この記事を書き終えた後、ドラマで初めて明かされているかもしれない。
そんな「ゆあてゃ」にひょんなことから出会う女子大生の「萌」は、ゆあてゃとは対称的に体型もぽっちゃりしていて男から声をかけられることも少ないという。
そんな萌がゆあてゃにホストクラブに連れていかれ……。こんなあらすじだ。
自分はホストにもキャバクラ等にもまったく無縁だ。
それに、ネットが趣味で引きこもりがちな自分にとって、この漫画の女の子たちはまったく別世界の住人にしか見えない。
そんな自分でも、漫画のリアルな心理描写に不思議とどんどん惹かれてしまったのだ。
色々書きたいけれどネタバレもしたくないから、むず痒い。
ホストクラブってどういう世界なんだろう?という素朴な疑問を持つ人にもおすすめ。この漫画のリアルさは現実のホスト狂いのお墨付きらしい。
この漫画には実在の施設がいくつか登場する。新宿二丁目のゲイバー「TRAP'」、歌舞伎町のホストクラブ「CRUISE」、そして同じく新宿の「花園神社」。
熱心な「明日カノ」ファンはこういった場所に聖地巡礼に行く。
一方で自分は何気なくこう考えていた。
「ゆあてゃ」の地元ってどこなんだろう?
この強烈なキャラはどこで育ったんだ?
作中ではゆあてゃの高校時代も描かれている。作品を一読して推測できるのは、彼女の地元は「駅前にコンビニもないような田舎」「でも東京に行こうと思えば日帰りで行ける」場所である。
自分でもなんでそんなことが気になったのか分からない。こんなことが気になっている人は他に見たことがない。
ただ、唐突に気になってしまったのだ。
「ゆあてゃ」の地元、特定への道
ひとまず漫画を読みながら、特定に使えそうな材料を探した。最初に目を付けたのはこのシーンだ。
右の駅名標と中央左の看板が大きなヒントに見える。(中央は高校生のゆあてゃ。)
看板には「小森整骨医」と見える。ところで「整骨院」は聞いたことがあるけど「整骨医(院)」は聞いたことがないし、実際に検索してもヒットしない。
ともかく、そういうわけでこの看板の文字は作者の創作だろう。
となると右の駅名標だ。
でも、鉄道オタクでもなんでもない自分にはこれだけじゃ何も分からない。
そもそも現実の駅をもとに描いているのかすら定かじゃないんだから、この取り組み自体が無謀な可能性だってある。
それでも諦めたくなかった。
大人になった今、夢に向かって本気で何かに努力することってなくなってしまったから……。
そこで考えた。世の中には、全国の駅名標の写真をネット上にまとめている鉄道オタクが存在するのではないか?
さっそく検索した。……たくさんあった。たとえばこのサイト様。
自分はとにかく関東の駅へのリンクを片っ端からクリックして駅名標の写真を見ていった。
もちろんだが途方もない。ただ、この駅名標が特徴的な形をしているのが幸運だ。たとえばよく見る駅名標はこのタイプだ。
漫画内の駅名標とは明らかに違う。
他にも例えばこういうタイプの駅名標もある。
これは先ほどの秋葉原の駅名標よりは漫画のものに似ているが、少し違う。こちらは駅名標を支えているのが丸いポールなのに対し、漫画のものは四角い柱に支えられている。
クリック、ブラウザバック、クリック、ブラウザバック、クリック……。
こうして黙々と関東の駅名標一覧を眺め続ける中、ついによく似た形の駅名標を見付けた。
これは群馬県の土合という駅の駅名標だ。
四角い柱に支えられ、文字の配置などのデザインもかなり近い。後ろの背景が違うものの駅名標そのものはこれ以上ないくらい一致している。
周りの駅もチェックしてみると、どうやら群馬県やその付近のJRの駅にこのタイプの駅名標が多いようだ。
狙いを群馬周辺に定め、希望が見えてきた。そんな中で目に止まったのが次の駅名標だ。
これは群馬県高崎市にある井野という駅。
元画像のおさらい:
駅名標そのものも背景の感じもすごく似ている。これが答えなのか……?
まだ、確証が持てない。
ちなみに、最終的に他のすべての関東の駅名標を見てみたがこの井野駅以上に似ているものはなかった。
(この作業に熱中している中、気付いたら深夜3時を過ぎていました。)
井野駅で確定させるような、何か別の手掛かりはないかなぁ……。
そういえば、高校時代のゆあてゃの台詞でひとつよく分からないことがあった。それは「市内」という単語だ。
ゆあてゃは違う高校に通う友達に「ゆあも市内の高校に行きたかった」と言ったり、自分と別居している育児放棄の父親にこんな台詞を言ったりして
いる。
「市内」ってなんだ?
自分にとって「市内」と言ったら自分の住んでいる市の中のことだ。
しかし、それだと別居している父親に「自分だけ市内に逃げて(逃げやがって)」は意味が取れない。
このプロジェクトに興味を持ってくれたM君にこのことを話すと、M君にとって「市内」は違う意味だと教えてくれた。
広島県出身のM君が地元で「市内」と言ったら、それは広島市を指すらしい。自分が広島市に住んでいなくても。
そしてどうやらこの「市内」という言葉の用法は日本のいろんなところで見られるらしい。知らなかった。
ともかく、「市内」がその意味だと思うとゆあてゃの台詞には合点が行く。
ゆあてゃの地元候補は前橋の近くの井野。つまりゆあてゃの台詞は
「前橋の高校に行きたかった」「自分だけ前橋に逃げて……!」
となり、とても自然だ。
これで、ゆあてゃの井野出身説の信憑性が高まった。
さらに信憑性を高める何かがないかと漫画をめくりながら見つけたのが、このコマだ。
どういう経緯でラブホテルが出てきたのかは伏せるが、これはゆあてゃの地元にあるラブホテルのようだ。
文字がうまく読み取れない。ホテル・Apnoot? それはなんか変な響きだな。検索しても出ない。
ん、もしかしてApricot(アプリコット)か? そう思って検索してみた。
出てきた。前橋にあるラブホテルが。
ホームページの写真を見ると、やはりこのホテルがモデルなんだろうという確信が持てた。
井野駅は新前橋駅の隣だ。これはもう確定に近いのでは?
もう少し特定できるものはないかとまた漫画をめくっていた。たとえばこのコマはどうだろう?
これはゆあてゃの独白の後ろに1コマだけ出てくるだけの背景で、これがゆあてゃにとっての何なのかはまったく分からない。
多分ゆあてゃが見てきた風景とかそんなところだろうか。
はっきり言って日本のどこにでもありそうな風景だけど、ぴったり特定できたら気持ちいいだろうな。でも、手掛かりがなさすぎるな。
そう思っていた矢先、先ほども登場したM君にこの画像を見せると彼はこんな一言を放った。
「この線路、電線がない。」
自分にはさっぱりなかった視点だ。電線がないということは電気がない。電気がないということは電気式ではない列車ということだ。
群馬を走る非電化の路線を調べたところ、「わたらせ渓谷鐵道」と「JR八高線」の二つしかないらしいことが分かった。
しかも今の時代、「前面展望動画」といって、走る列車の中から外の景色を録画した動画がYouTube上にいくらでもある。この前面展望動画を端から端まで見れば、あのコマの景色も見付かるかもしれない。
ありがとう鉄ヲタ。
感謝の気持ちを胸に、わたらせ渓谷鐵道とJR八高線の前面展望動画を見ることにした。どちらも動画時間が1時間半以上あるから骨の折れる作業だ。
まずは、わたらせ渓谷鐵道。群馬県の桐生から栃木県の足尾(足尾銅山で有名)をつなぐローカル線だ。その名の通り渓谷を走っていく様子が綺麗であったが、漫画の景色とは違う。
次にJR八高線。八王子と群馬の高崎をつなぐ。わたらせ渓谷鐵道よりこちらのほうが雰囲気は漫画の感じに近い。
どうだ、目的の場所はあるのか……?
……。
……なんか、似てね?
ここは、埼玉県の寄居という駅の近くのようだ。路線が谷にあってカーブしている感じ、脇に家らしきものが建っている感じ、すごくそれっぽい。
前橋や井野からは少し離れているという点が気になるが、八高線の残りを全部見たがこれ以上に似ている場所はなかった。
井野と寄居。どちらも少し別の角度から見れば本物かどうか分かるのに……。
これは、実際に行って確かめるしかない。
いざ、現地へ
そんなわけで自分の住んでいる千葉県の田舎から寄居と井野へ旅立つことにした。
田舎から東京を経由して田舎へ。
寄居へは池袋から東武東上線で向かった。池袋から遠ざかるにつれて、いかにも首都圏の田舎という感じの景色になっていく。
途中で「男衾(おぶすま)」という駅を見て、「男の衾(ふとんのこと)って、どんな名前の由来なんだ……?」と気になったりしていた。
ともかく、寄居駅に到着だ。
目的地へは徒歩で10分程度らしいので、駅を出て早速線路沿いを歩く。
駅から出発してすぐ「観光トイレ」なるものを見た。どういうトイレだよ。
途中の景色はこんな感じ。目的地ではないが雰囲気は似ている。
というか、のどかだな。日頃眺めているインターネットの喧騒がどうでもよく思えるくらい平和だ。
そんなことを考えながらついに目的の地へ辿りついた。
……
元画像はこれ。
……んー???
すごく似ているんだけど、左の家の並びが違う。「完全に一致」という感じではない。
ここまで来て、違うのか……?
でも、漫画の中で現実の風景を完璧にそのまま描いているとは限らないし……建物の並びは自分でアレンジしたのかもしれないし……。
少し釈然としないが、これ以上寄居にいてもどうにもならないので、そのまま駅に戻った。
ちなみに、後で関東の非電化路線の前面展望動画を片っ端から見てみたが、これ以上に似ている場所はなかった。調べた路線は具体的には以下の通り。
JR: 久留里線 水郡線 烏山線
私鉄: 小湊鐵道 いすみ鉄道 鹿島臨海鉄道 関東鉄道常総線 関東鉄道竜ヶ崎線 真岡鐵道
(この後、YouTubeのおすすめが前面展望動画だらけになりました。)
気を取り直して次は井野だ。八高線で高崎へ行き、高崎から上越線に乗り換える。
高崎から二駅、井野へはすぐ着いた。これが、第二の目的地。ここで気持ち良く終わらせたい……。
元画像をおさらいしておこう。
そして、実際に着いた井野駅は……
……
来たああああああああ!!!!!!!!
駅名標、左の医院の看板、後ろの建物の並び。完全に一致だ。元画像の「整骨医院」の部分は創作なのではないかという読みも当たっていた。
自分一人でここまで辿りつけるなんて。コロナ禍で家に引きこもってばかりいる自分は人生で久しぶりに感動と達成感を覚えた。
さっそく、ゆあてゃになりきってパシャリ。
漫画内の他のコマも見てみよう。
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これは、まごうことなき一致だ。
ちゃんと現実に忠実なんだなぁ……。というか、そうでなかったらこの企画が成立していなかったわけなので、作者様には感謝しかない。
というわけで、今回のプロジェクトは成功に終わった。
結論「ゆあてゃの地元は群馬県高崎市井野である。」
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