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インフラ巡礼 in 新潟県 第2弾 インフラ整備の現場で働く人にインタビュー! <万代島ルート線整備事業編 後編>


にこちゃん

前回は新潟県の万代島(ばんだいじま)ルート線の栗ノ木(くりのき)バイパスで生じていた課題を確認したね!

きらちゃん

そうそう!
渋滞が発生し、そのせいで救急車が通れなかったり、騒音などの問題や生活道路での交通事故のリスクが増えたりと、色んな課題が分かったね。

げんきくん

では、そんな課題をどうやって解決するのか?
今回の工事をよく知る人たちにさらに聞いてみよう!

様々な課題を解決するために、どういう工事を行うの?!

では、栗ノ木バイパスで生じている課題をどうやって解決するのでしょうか?その鍵を握るのが、今回取り上げる道路工事であり、それを教えてくれるのがこちらの4人の皆さんです!

左から、新潟市の稲葉さん、新潟国道事務所の水道さん、岡田さん、大島さん

新潟国道事務所の岡田さんによれば、課題解決のポイントは、「高架道路だけでなく、地表道路も整備して、道路空間を立体的に活用すること」にあるそうです。今回の工事は、上部空間に片側2車線・合計4車線の高架道路を新たに整備しながら、さらに地表道路も整備する工事なのだそう。新たな栗ノ木バイパスの完成イメージとしては、以下の図のように、高架道路と地表道路とを組み合わせた道路になります。

今回の高架道路には信号機はありません。つまり、高架道路を通行する際は、赤信号で止まることがありません。そのため、より遠くの目的地に行きたいときに高架道路を使用することで、より時間を短縮することができます。一方で、地表道路は交差点での信号待ちが生じますが、引き続き地域内の交通流を支える役割を担います。そのため、各ドライバーは目的地に合わせて地表道路と高架道路とを使い分ければ良いというわけです。これにより、地表道路の交通量が分散され、渋滞緩和にもつながる見通しです。

また、新潟国道事務所の大島さんによれば、今回の工事においては工夫点があるようです。

新潟国道事務所 大島さん

例えば、高架道路をつくる際、以下の写真のような橋脚(きょうきゃく)と呼ばれる高架道路を支える柱が必要になります。

今回の工事では、工法上、この橋脚を栗ノ木川の上にも設置しなければならない見通しでした。しかし、河川に構造物を設置する際は、大雨などにより河川が増水した際の影響なども慎重に考慮する必要があるため、簡単には橋脚を設置できません。そこで、「栗ノ木川の流れを少し横に移動させる」という方法、いわゆる「河川の付け替え」を採用しつつ、その空いた空間に橋脚の土台部分を構築するという方針になりました。

下の写真の青丸で囲った部分をご覧ください。左の青丸が旧栗ノ木川で、右の青丸が新しい栗ノ木川となります。今回、旧栗ノ木川の隣に新しい水路をつくり、そこに川の流れを移す形で栗ノ木川を移設しました。旧栗ノ木川が流れていた場所は、順次埋め立てられる計画となっており、そこが橋脚を設置する土台となるわけです。

今回、このような工夫などを行いながら、栗ノ木バイパスを地表道路と高架道路とを組み合わせた道路にすることで、渋滞の抑制につなげようとしています。

どんな効果があるの?!

平面交差の道路では、信号機が設置されます。一方で、先にも述べたように、高架道路上には信号機が不要となり、目的地まで信号で止まることなく通行が可能となります。その結果、渋滞が緩和するなど、新潟バイパス~古町・万代地区間の円滑な走行環境が確保されることになります。

円滑な走行環境が確保されることにより、一般の利用者は目的地に早く到着することが可能になるほか、物流の効率化などの効果も期待されます。特に、今回の道路工事により、新潟西港と高速道路間のアクセス性が向上し、必要な物を必要なところに効率的に運ぶことでき、事業者における「生産性の向上」という効果が期待されます。

古町地区(柾谷小路)
新潟バイパス
新潟西港

また、円滑な走行環境が確保されると、生活道路に流入する車両の数が抑制されることにより、生活道路での交通事故の発生リスクを減らすことができ、地域の交通の安全性が高まります。さらに、新潟市内には標高0m以下のエリアもあります。仮に水害の発生により、市街地の平面道路が冠水したとしても、高架道路が整備されていれば、当該エリアにおいて車両通行を確保できる可能性が高まります。その結果、住民の避難や復旧活動、救急搬送等を支援することにもつながり得るのです。つまり、今回の道路工事により、「安全・安心」という効果も期待されるのです。

加えて、先にも述べたように生活道路に流入する車両の数が抑制されることにより、生活道路における騒音や振動を減らすことにつながるとともに、渋滞の緩和は自動車から排出されるCO2の量を減らすことにもつながります。つまり、今回の道路工事により、「生活の質の向上」という効果も期待されるのです。

以前の記事でお話ししましたが、安全・安心効果、生活の質の向上効果、生産性の向上効果の3つの効果がインフラの「ストック効果」と呼ばれるものです。まさに今回の道路工事は、これら3つの効果を跨がる形で、大きなストック効果を生むことが期待されています。

にこちゃん

ストック効果については、以下の記事をご覧くださいね!
インフラ整備の効果たるストック効果のご紹介
インフラ整備の効果たるストック効果のご紹介②


現場の今の状況は?!

現在の工事の進捗状況を新潟国道事務所の皆さんに伺ったところ、令和5年度中に栗ノ木川の付け替え工事の完了を目指すとともに、高架道路の橋脚工事については、前年度から実施している工事も含め、令和5年度中は19基の工事を行う予定とのことです。

以下が、今の工事の様子(令和5年9月時点)を表す写真です。

クレーン車がある中央部分が高架道路の建設予定地です。この写真は、ちょうど橋脚工事を行っているシーンです。

では、さらにクレーン車に近づいてみましょう!

クレーン車が橋脚工事の真っ最中。近くで見ると非常に迫力のある光景でした。

現場は、株式会社加賀田組 監理技術者の杉田さんにご案内いただきました。杉田さんによれば、今年の夏は特に猛暑で非常に大変な状況だったようで、現場では熱中症に十分気をつけながら作業が行われたそうです。

また、最近では建設現場においても、ICT技術を取り入れて施工する事例が増えています。新潟国道事務所の大島さんによれば、今回の工事においても、ICT施工が一部取り入れられているとのこと。例えば、杭の打設の際、杭の位置をセンサで確認したり、ドローンで撮影した画像を施工管理に活用したりするなど、ICT技術を一部取り入れているとのことでした。

また、新潟国道事務所の岡田さんによれば、工事の状況は地域の住民の方にもこまめに情報提供しているのだそう。住民の方にとって、何のために、いつまで道路工事を行うのかが分からないと不安を感じられてしまうかもしれません。そこで、今回、新潟国道事務所の「現場なう」というホームページをはじめ、You TubeやX(旧ツイッター)等のSNS、新聞・テレビの報道などを積極的に活用し、工事の目的や進捗状況、交通状況などを丁寧に情報発信し、住民理解の促進につなげているとのことでした。

ちなみに、工事が始まった当初、現場では工事に伴う道路交通の変化により、利用者の皆さんに少し混乱を生じさせてしまったケースもあったようで、例えば、工事区間周辺で渋滞が発生してしまったり、通行場所が分かりづらいといった利用者の意見も多くあったそうです。そうした状況を踏まえ、現在、通行にあたっての注意喚起や渋滞情報等の交通情報についても、SNSなどを通して積極的に情報発信しているとのことです。参考ですが、栗ノ木バイパスの道路工事に関する投稿へのリアクションは比較的多く、栗ノ木バイパスの道路工事に関心を持っていただいていることがうかがえますので、今後も引き続き積極的にSNS等での情報発信を行っていくとのことです。

また、現在、栗ノ木バイパスの紫竹山交差点付近では、新たに地面を下げる工事が行われています。それはどういう工事なのでしょうか?

上の写真は、紫竹山交差点の現在の様子ですが、赤丸で囲った部分は、実は地表道路の地面が周囲よりも少し盛り上がったような地形になっています。ここに高架道路が建設される予定なのですが、このままでは背の高いトラックがここで高架道路の下を横断しようとした場合、高架道路下の横断に必要な高さが確保できず、トラックが高架道路の橋桁に衝突してしまう恐れがあるのです。そのため、地表道路の地面の高さを約1m下げる工事を行う必要があります。この工事は、道路の切り替えを行いながら少しずつ進めていく予定となっており、長期の通行止めをしないよう工夫しながら行われます。

このように、栗ノ木バイパスは今、大きな進化を遂げようとしているのです!

にいがた2kmでも効果を発揮!

先にも述べましたが、柳都大橋(りゅうとおおはし)を含む1.5km区間については、栗ノ木バイパスよりも先に開通しているわけですが、こちらはすでに大きな効果を生んでいるようです。新潟市の稲葉さんによれば、新潟市は現在、新潟駅~万代~古町をつなぐ約2kmの都心エリアを「にいがた2km」と名付け、都心エリアのまちの魅力を高める取組を行っているとのことでした。

新潟市 稲葉さん

この「にいがた2km」においては、様々なイベントや社会実証実験などを通して、賑わいの創出や地域経済の活性化、食や文化の魅力発信などが活発に行われており、「にいがた2km」は人中心の空間づくりを目指しているのだそうです。

そのような中、にいがた2kmのエリア内で交通渋滞が常態化してしまっては、人中心の空間はなかなか実現できません。そこで効果を発揮したのが、万代島ルート線内の柳都大橋です。

柳都大橋は、にいがた2kmが名付けられる前の平成14年に開通しました。それまで、にいがた2kmのエリア内では萬代橋が交通量の多い橋でしたが、柳都大橋が開通した年から交通流が変化し始め、萬代橋に集中していた交通量の分散につながったのでした。

萬代橋の交通量の一部が柳都大橋に分散したことにより、今ではにいがた2kmの取組の一環として、萬代橋上でのイベント開催などが可能となりました。つまり、万代島ルート線の一部である柳都大橋の開通により交通流が変化し、市民交流の機会や賑わいの創出を通じて地域経済の活性化を図る人中心の空間づくりの進展に大きく貢献したと言えるのです。

このような事例を踏まえると、新たな栗ノ木バイパスに関しても、にいがた2kmのエリア内のさらなる交通量の分散及びそれを生かした地域経済の活性化の取組などが今後大いに期待されるところです。

また、新潟国道事務所の水道さんによれば、新潟駅は現在、新潟駅周辺交通ターミナル整備事業(仮称:バスタ新潟)に取り組んでいるとのことです。

新潟国道事務所 水道さん

この事業は、中・長距離バスを集約するバスターミナルの整備により、新潟市が進める新潟駅周辺整備事業(鉄道在来線高架化や高架交差道路、駅前広場、駅直下バスターミナル(路線バス)整備など)の効果を促進するとともに、万代島ルート線などの関連事業と一体となって「にいがた2km」エリアの交通の円滑化を図りつつ、人・公共交通を優先した道路空間をつくり、駅周辺の賑わい創出を目指しています。

バスタ新潟の整備イメージ

このように、にいがた2kmの出発点である新潟駅は今、交通ターミナル整備事業によって大きく変わろうとしており、にいがた2kmの様々な取組との相乗効果により、新潟市の都心エリアが「人中心のまち」に生まれ変わろうとしているのです。

人中心の空間づくりの取組は、これまで述べてきたような交通の円滑化が大きな鍵を握っており、その中心的な事業がまさに今道路工事中の新たな栗ノ木バイパスや新潟駅の交通ターミナル整備事業というわけなのです!


にこちゃん

新潟市では人中心の空間づくりが進んでいるんだね!

きらちゃん

そうそう。
まずは交通渋滞の緩和を図ることで、人中心の空間づくりを目指そうとしているんだよね。

げんきくん

新潟市が目指す「人中心のまち」を実現するためにも、
新たな栗ノ木バイパスが重要な役割を担っていることが今回の取材を通して分かったよね。

にこちゃん

うん、そうだね。。
普段何気なく目に飛び込でんくる道路工事でも、その背景には各地域が目指したいまちづくりの構想があって、それを踏まえて工事が行われているんだ!

げんきくん

そう!
その道路工事の意味が分かると、なんだか工事の見え方も変わってくるよね。

きらちゃん

栗ノ木バイパスの道路工事の話、面白かった!
他のインフラの事例も早くみんなに伝えたいな!

げんきくん

そうだね!
では次は、信濃川の大河津分水路(おおこうづぶんすいろ)について、紹介していきましょう!