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ポケモンカレーしか作れなかった中2男子が作る晩ごはん

「料理してみたいんだよね……」

夏休み。私が晩ごはんを作っている様子を見て中2長男がボソッと呟く。

その声を逃さず、すぐさま「一緒に作ってみる?」と聞くと「またいつかね……」と、はぐらかされてしまった。

突然の料理したい宣言は嬉しかったけど、正直なところ、なかなかハードルは高いだろうと思っていた。

高2長女は、気分屋ではあるけれど、夏休み後半とか奥さんや私がご飯作りに疲れた頃にいつも助けてくれる。

最近作ってくれたミートソースパスタ、ビビン丼、回鍋肉、チキントマト煮。

7人分も作るのに味付けは適当でうまうま。センスがいいのだろう。

中3次女もTikTokで仕入れた映えるオムライスとか作ったり、スイーツなんかも定期的に作ってくれる。

奥さんはめちゃんこ器用でなんでも作っちゃうし、私も料理好きだから、息子ちゃんが基本、食べ専になるのも仕方ない。もちろん料理における細かいプロセスなんかも知る由もない。

そんな彼が、一人で家にいる時に作る定番メニューはこれだった。

「ポケモンカレー」

ずっとカレーでもいいよ。なんて言うくらいカレー好きで、小学校の夏休みは、ポケモンカレーばかり食べていた。

そんな彼が「料理を作ってみたい」と言ってくれたことが嬉しくて、なんとか夏休みにそんな機会が作れないかと考えていた。

奥さんが誘えば、乗ってくるのかもしれないけど、それはそれで途中でフザけだすのが関の山。奥さんも誘いはしない。

しかし、思いもよらぬタイミングで、その「またいつか…」がやってきた。

次女の部活の大会に、興味のない長男以外の全員で観に行ったその帰り道。

奥さんのスマホに息子からLINE。

親子丼を作ろうと思ってる

野菜炒めとか簡単な炒め物とかじゃなくて、いきなり煮込みですか?親子丼ですか?
これには家族全員驚いた。

暑い中、出かけて疲れているところになんという吉報。思わず頬が緩む。奥さんも張り切って、食材や調味料の場所からLINEでレクチャー開始。

鶏肉の解凍の仕方、野菜の切り方、味付けなど、奥さんに質問を繰り返しながら、初めての彼のクッキングが始まった。

「鶏肉の皮を全部剥いで捨ててしまった…」

「玉ねぎが多すぎてどうしていいか、もうわからない…」

「味付けがおかしい…」

「もう作るのやめたい…」

こんなやりとりを繰り返しながらも、奥さんが根気よく励まし続けてくれ、何とか作り終えたようだ。

家に着き、車を駐車して外に出た瞬間、家から甘辛い醤油の香りが漂っている。

帰ると息子は憔悴した様子でダイニングテーブルにぼぉーっと座っていた。

「ありがとうね。親子丼楽しみや」

声をかけても、彼の表情は浮かない。キッチンへ行くと、そこはもう事件現場の様相。おばけのような鶏皮たち、やたらデカい玉ねぎの頭やら大量の洗い物なんかでシンクが覆いつくされていた。

でも頑張った成果がそこにすべてある。
さっそくありがたくいただいた。

それぞれパーツがどデカい親子丼

たしかに玉ねぎ、めちゃくちゃ多い。聞いてみると1個半使ったそうだ。

口にした瞬間、相当な時間を費やして作ってくれたことがすぐにわかった。煮込まれすぎて、味が染み染みのちょっと固くなった鶏肉。ほろほろで口にいれると溶ける甘い玉ねぎ。

とても優しい味付けが胃に染みた。
思わず息子に500円払ったよね。

夕方にスイーツ食べて、あまりお腹の空いてなかった女子たちもこの親子丼に舌鼓を打った。普段、よく長男をからかう姉ちゃんたちも絶賛。

6人で食べたらちょうど親子丼が綺麗になくなった。女子たちの「美味しい」に、先ほどまで元気のなかった息子の態度が一変。


「ねっ、旨いでしょ?料理とか楽勝だよね」

車の中からレクチャーし続けた奥さんを筆頭に、みんな呆れた表情を浮かべていたけれど、親子丼の甘辛い香りの余韻と、なんとも優しい空気が家中をふわふわと漂っていた。

そして、1週間後にはなんと……

豚の生姜焼きを作る


これは誰にも聞かず、1人で作ったそうだ。残念ながら私は出張で食べられなかったけど、とても美味しかったそう。

一度飛んでみたら、次はさらに高く飛んだ。

優しい彼のことだから、きっと家族が喜んでいる顔を思い浮かべながら作ってくれたのだろう。知らんけど。

でも赤ちゃんが一人立ちしたのと同じくらい価値があると思う。

ちょっと古いけど「真夏の大冒険~~~!!」と叫びたいくらい、夏休み、我が家にサプライズをもたらしてくれた中2男子。

新学期始まっても、まだ夏休みの宿題をやってるどうしようもないやつだけど大目に見てやろうではないか。

最後までお読みいただきありがとうございました。 いただいたサポートは他のクリエイターさんのサポートと奥さん子どもにあずきバーを買ってあげたいです。