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新しいスタンダードをつくるには?スタートアップが大事にしたい顧客に向き合う姿勢

グリーベンチャーズ株式会社の代表取締役社長としてスタートアップ投資に精力的に取り組んでいる相川氏と、株式会社インフォボックス代表としてデータの力でより良い購買環境の創造に取り組む平沼氏。グリーベンチャーズがインフォボックスに投資したのをきっかけに、今回の対談が実現しました。変革の時代に必要な起業家の資質や、現代のスタートアップに求められる顧客との向き合い方について語り合いました。

■相川 真太郎
早稲田大学卒業後、アンダーセンコンサルティングにてITコンサルティングに従事。2000年、B2Bマーケットプレイスを運営するプロトレードに参画後、M&Aにより楽天に入社。楽天では執行役員として開発部門、経営企画部門を担当。2010年グリーに入社し、GREE Platform事業の立ち上げ、社長室等を担当。2020年にグリーベンチャーズ株式会社を設立、代表取締役社長就任。

■平沼 海統
2018年に営業代行会社に入社。アウトバウンドのコールセンターでトップの成績を収め、営業効率の重要性を実感。この経験をきっかけに 2018年7月株式会社インフォボックスを設立。

■株式会社インフォボックス
株式会社インフォボックスは、営業現場の課題をテクノロジーで解決するスタートアップです。市場リサーチ・企業リスト作成・決裁者アプローチを一気通貫で実現する営業データプラットフォーム「infobox」を提供しています。

https://product-info-box.jp

まだ見ぬ価値を見極める投資家の目線

平沼氏:
改めて、相川さんが代表を務めるグリーベンチャーズについて教えてください。

相川氏:
グリーベンチャーズは、グリーから独立する形で立ち上がった会社です。グリーとしては、10年くらい前からスタートアップ投資を始めていて、投資先としてはすでに上場しているビズリーチを運営するビジョナルや医療系スタートアップのメドレーなどがあります。またメディア事業のスマートニュースはユニコーン企業になって海外展開や新しい領域へのチャレンジをしているところです。

スタートアップの事業領域は日々移り変わっています。2010年台初頭はソーシャルゲームが流行り、2015年あたりはキュレーションメディアが台頭してきましたし、最近だとWeb3や生成AIといった領域への注目度が高く、チャレンジしている起業家も多いです。もちろん、どの領域においてもすぐに結果が出るわけではないので、時間をかけて取り組んでいく必要があります。
投資家の目線としては、それぞれの領域の中でどの企業が最終的に勝つのか、というところを見極める必要があります。

平沼氏:
インフォボックスが取り組んでいるセールステック領域も、チャレンジしている企業こそ多いですが、絶対的な業界強者はまだ生まれていない状況。今後の数年間が勝敗を分けるだろうと思っています。
投資する際に、その企業が勝てる企業なのかという点について、何を判断基準にしていますか?起業家の気質なのか、事業のユニークさなのか……。様々な判断軸があるかと思います。

相川氏:
まず、僕らが最初に見るのはその企業のプロダクトやサービスに、しっかりとしたニーズがあるのかという点。まだ顕在化していないニーズも含め、シビアにジャッジしています。
次に、何かしらの技術革新が伴っているかを見ます。インターネットの普及やスマートデバイスの登場等、パラダイムシフトを起こす環境要因はテクノロジーと深く関わっています。
プラスして、私がすごく重要だと思っているのが、ノウハウや技術、情報等、「時間をかけて積み上げていける何かがあるか」という点です。
もちろん運や突発的な要素もありますが、時間をかけた分だけ積み上がる何かがあるのであれば、愚直に向き合い続けた企業が勝つと思っています。その点において、粘り強さを持った起業家であるかというところはとても重要な判断軸です。

顧客への提供価値に向き合い、愚直にやり切る組織カルチャー

相川氏:
平沼さんに最初に出会ったのは、まだインフォボックスが営業代行事業に取り組んでいた頃です。オフィスにお邪魔すると、クラシカルなビルの一室でぎゅうぎゅうになりながらPCに向き合う人々。スタートアップのキラキラ感とも全く違う、気合いの入った雰囲気が漂っていました。
架電のオペレーションをこなすバイトや派遣の人たちにバックグラウンドを聞いてみると、それぞれ家庭があったりバンドをやっていたりで柔軟にシフトを組める必要があるけれど、仕事をしている間は全力で打ち込めるという人たちばかりで。そういう人って、実はたくさんいると思うんです。
厳しい就業規則やルールで縛るのではなく、社員と組織がそれぞれ対等な形で働きやすい関係をつくることを一番の目的に置くことで、社員一人ひとりがオーナーシップを持てている感じがしました。そういうふうに、人の力を最大化して組織力に繋げられる起業家は強いと思います。

AI事業が台頭する時代だからこそ、差がつくのはアナログの力

相川氏:
AIや技術の発展は目覚ましいですし自動化も進んでいくはずですが、最後の質を高めるための手作業は今後数十年でなくなるものではないと思います。その部分をやり切れるかが、企業が生き残れるかの差にも繋がってくると思います。

企業のデータベースサービスというくくりなら、既存のサービスがすでにあるんです。
インフォボックスが違うのは、クローリングやインテントデータの活用などテクノロジーの力はもちろん、他の企業ができないような地道でアナログなやり方でデータを集めている点。

当時の平沼さんはデータの幅と深さという例えをしていたように記憶しています。
幅が社数で、深さがそこに関連する情報の数、例えば組織図、役職者の名前、利用サービス、社員のSNS、関連する取材記事等を指します。幅はクローリング等でざっと稼ぐことができても、深さはどうしても手作業のところが出てきてしまう。そこをやり切るのは、コスパがよくないため誰もやろうとしません。しかし、だからこそやり切るためにITも人も活用して、どんどん具体的な施策に落とし込んでいるのがインフォボックスの強みだなと思います。

平沼氏:
ただウェブサイトをクローリングするだけではなく、アナログを組み合わせることで期待を超える価値を生み出したいと思っています。買い手からすると、20人から的を得ていない営業をされるより、一人でもぴったりの提案をしてくれるなら、体験の質は劇的に向上するはずです。infoboxというプロダクトを通じて、買い手と売り手の間に良いコミュニケーションが発生して、良いサービスやソリューションとの出会いを生み出したいですね。

データを扱う事業だからこそ、守りの意識を大切にする

相川氏:
インフォボックスがチャレンジしているのは「正しいスタンダードを新しく作る」ことだと思います。
やはり今の日本では、「自分の個人情報がインターネット上のデータベースにある」と聞くだけで、その内容や利用目的にかかわらずマイナスなイメージを持ってしまう人も少なくありません。

20年以上インターネットビジネスに関わってきましたが、例えばSNSやスマホゲームができたばかりの時には、未成年のSNS利用やスマホゲームの課金が問題視されました。これまでにないサービスですので当然法の整備も追いついておらず、新しい法律ができたりもしました。最近だと電動キックボード事業のLUUPに関する法整備が、記憶に新しいかと思います。

平沼氏:
まだ世の中にない概念やスタンダードをつくっていこうとする時、気にしなければいけない点は色々あります。法律は言わずもがなですが、法律の遵守さえしていれば他は何も気にしなくていいかというとそうではないなと。やはり、プロダクトが市場に本当の意味で受け入れられるためには、買い手がどう感じるかを常に考え、目に見えない消費者感情に寄り添うのが一番大事だと思っています。

ビジョンに掲げている「ALL-WINNERな世界へ」が意味するように、買い手側と売り手側どちらにとっても良い購買環境をつくることが、僕たちインフォボックスの目標です。でもやっていることはすごく地道なんです。もちろん手探りでチャレンジする領域もありますが、特に個人のデータを扱う部分に関しては慎重に、守りの意識を持って取り組む必要があります。新しいプロダクトをリリースするにあたっては、法律やデータエシックスの観点から有識者を集めた専門の委員会も組織しました。

スタートアップ的な派手さを全面に押し出して数字だけを積み上げても、大事な基礎の部分がないとどこかで破綻してしまう。データを扱う事業だからこそ、実際の業務フローの部分でもそうですし、カルチャーとしても真面目に実直に取り組む要素は守り続けたいなと思っています。

日本の購買市場を変えるプラットフォームとして

相川氏:
今は、技術革新もそうですし、時間や場所の制約なく情報が流通するからこそ、人々の価値観のアップデートは早いです。今の常識が10年後には全く違っているのは当たり前。ただし、成功するのは本当に一握りの企業だけです。どんな時も買い手に向き合う姿勢を忘れないことが、スタートアップに求められる最も重要なことだと思います。

平沼氏:
アナログ×デジタルという自分たちの強みを貫き通して成果を出すためには、ある程度の時間がかかると思っています。だからこそ、ブレずに買い手への姿勢を貫き通すことで、日本の購買市場を変えるようなプラットフォームを生み出したいですね。


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