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やっと公表された日本におけるコロナワクチンの重症化予防効果

以前に、 「なぜ厚労省はワクチン重症化予防効果を公表しないのか?」 という論考を発表しました。 厚労省は以前には、国内のコロナワクチンの重症化率の生データを公表していました。 しかし、そのデータはバイアス補正ができていないため信頼度は高くありませんでした。 感染研は、 発症予防効果の国内データを2022年12月に発表 しました。ところが、何時まで経っても重症化予防効果のデータは発表してくれません。 重症化予防効果はコロナワクチンのベネフィットを考えるうえで、最も重要な指標であり、 感染研が最優先で取り組むべき課題であると、私は考えます。 感染研はこのような重要な指標の研究を何故しないのか、私には理解できません。

コロナワクチン感染予防効果は短期間の効果であり、 それによるベネフィットは少々怪しくなってきました。 今後も年1~2回ワクチン接種を続けるのであれば、重症化予防を目的とするべきです。 そのためには、精度の高い国内の重症化予防効果を厚労省が公表する必要があります。 そうしなければ、国民の理解は得られません。

困ったものだと様子を見ていましたら、長崎大学熱帯医学研究所が、 国内の重症化予防効果のデータを2023年2月にやっと発表 してくれました。

この研究では、コロナワクチンの入院予防効果と重症化予防効果が調べられています。 オミクロン株では、間質性肺炎で入院するよりも、持病の悪化で入院することが多くなっています。 後者で入院した人は、新型コロナ感染症の基準では重症者に分類されません。 したがって、重症化予防効果だけでなく入院予防効果も調べる必要があります。

【入院予防効果】
入院予防効果の研究は、2022年7月1日から9月30日の期間に全国8都府県の計10病院を受診した患者を対象として 実施されました。 対象者数は727人です。 研究手法は診断陰性例コントロール試験です。 主要な結果は図3で示されています。

60歳以上のデータでは、入院予防効果は、4回接種者で87.7%、3回接種者で77.8%、2回接種者で61.1%でした。 接種回数の多い人ほど入院予防効果は高くなっています。 ただし、2回接種者の95%信頼区間は、-1.9~85.2%と非常に広く、 数値の信頼度は高いとは言えません。 これはサンプルサイズが小さいことが原因と考えられます。

【重症化予防効果】
重症化予防効果の研究は、2022年1月1日から9月30日の期間に全国9都府県の計11病院を受診した患者を対象として 実施されました。 対象者数は789人です。 研究手法は診断陰性例コントロール試験です。 主要な結果は図4で示されています。

60歳以上のデータでは、重症化予防効果は、4回接種者で76.5%、3回接種者で50.9%、2回接種者で5.5%でした。 接種回数の多い人ほど重症化予防効果は高くなっています。 ただし、2回接種者の95%信頼区間は、-112.2~57.9%と非常に広く、 数値の信頼度は高いとは言えません。 また、3回目および4回目接種者の95%信頼区間の幅も同様に広く、これらの数値も信頼度が高いとは言えません。 これはサンプルサイズが小さいことが原因と考えられます。

2回までは接種して、その後3回目以降をパスした場合、重症化予防効果がどこまで低下するかは 重要な問題です。 単にゼロになるのであれば問題ありませんが、マイナスの数値になるのだとすれば由々しき問題です。 重症化予防効果がマイナスであることは、 未接種者より重症化しやすくなったことを意味します。 つまり、2回接種して、その後3~4回目接種を受けないでおくと、 ワクチンのベネフィットは消失し、逆にリスクとなることを意味しているわけです。 そのため、信頼度の高い重症化予防効果の数値を得ることは極めて大切なのです。

数値の信頼度を高くするには、サンプルサイズを大きくする必要があります。 今回の研究のサンプルサイズは、727人と789人であるため、その数を数倍できれば10倍にする ことが望まれます。 そのためには病院数も100施設くらいまで増やす必要があります。 日本の医療機関の総力を結集したようなプロジェクトになるため、政府による全面的バックアップがないと 実現できません。 国民の信頼を得るためには今何をするべきなのか、政府にはよく考えてもらいたいものです。

【補足】
この研究の手法は「診断陰性例コントロール試験」です。 この手法は、特定の症状(呼吸器感染症状)を有して病院を受診・入院した人を対象者とし、 コロナの場合であれば対象者を更にPCR検査陽性群と陰性群に分けて解析するケースコントロール研究の一種です。 比較的精度が高い結果が得られるため、近年では多用される研究手法です。

インフルエンザワクチンの有効性は、ほとんどこの手法を用いて調べられています。 イギリスのサーベイランスレポートで公表された入院予防効果、重症化予防効果もこの手法です。 感染研の発症予防効果もこの手法です。

この手法の欠点は、そのロジックが少々難解であるという点です。 意味がよく分からないという人は、ネットの解説などを参考にしてください。
















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