超過死亡の概念は、正しく理解されていない場合が多い
超過死亡について言及しているWebサイトが増加しています。 ただし、その概念を十分勉強せずに情報発信をしているサイトが多いのが現実です。 超過死亡を語る場合は、最低限、国立感染症研究所の解説を熟読しておくべきです。
1.基本的な考え方
上記の式が基本です。 予測死亡数は、過去数年の死亡数より計算されます。 注意すべきことは、予測死亡数の計算方法は一つではなく、複数の計算方法が提案されているという点です。
2.もう一つの超過死亡数
超過死亡数の計算式は、もう一つ存在します。
区間[予測閾値上限~下限]は、予測死亡数の95%予測区間を意味します。 その区間には、95%の確率で真の予測死亡数が存在します。 そして、その上限値を超えて死亡者が発生する確率は、5%未満ということになります。 日本のWikipediaでは、この後者の定義を採用していますが、アメリカのWikipediaやOurWorldinDataでは前者の定義を採用しています。
なお、「95%予測区間に、95%の確率で真の予測死亡数が存在する」という解釈は、学問的には正しくありません。 これはアバウトな解釈です。正しい解釈については、統計学の教科書を参照してください。
3.どちらが正しい超過死亡数なのか?
実は、超過死亡をどのように定義するのかについて、専門家の間でコンセンサスが得られていません。 そのため、国立感染症研究所では、超過死亡を区間[後者の超過死亡数~前者の超過死亡数]で提示しています。
4.予測死亡数は、死亡数の平均(過去数年)では、何故だめなのか?
日本では、少子高齢化のため年々死亡数が増加しています。 この場合、単純平均では、自然増の死亡数が超過死亡数に含まれてしまいます。 国立感染症研究所では、Farringtonアルゴリズムを用いて予測死亡数を計算しています。 OurWorldinDataでは、Human Mortality Database および World Mortality Dataset の数値を使用しています。欧州EuroMOMOでは、FluMOMOモデルを使用しています。
Farringtonアルゴリズムは、米国CDCが採用しているアルゴリズムです。 アメリカでは、このアルゴリズムを用いて新型コロナウイルス感染症による超過死亡の推定を行っています。
5.昨年9月に超過死亡数が6万人を超えたという話は、全くの間違い
ネットで上記のような主張をしている人が複数存在していますが、これは全くの間違いです。 ソースは、2021年12月10日の日本経済新聞の記事です。 この記事では、「昨年同期より約6万人増えた」と書いてあります。 したがって、この6万人は超過死亡の話ではありません。 記事の後半で超過死亡の話がでてきますが、その数値は、8月までで8千人~4万3千人となっています。
6.2021年の超過死亡数は、戦後最大というのは本当か?
多くの人がネット上でそのように言及していますが、確定した事実ではありません。 戦後最大であった可能性はありますが、しっかりとした検証ができていません。 このソースも日本経済新聞の記事です。 この記事では、「死亡数は前年より6万7745人増え、戦後最大となった。」と書いてあるだけです。 超過死亡数の話ではありません。 戦後直後に、Farringtonアルゴリズムを用いて超過死亡数を計算していたとは考えられません。 そのため、戦後直後の超過死亡数と2021年のそれを比較することは、ほぼ不可能です。 なお、記事の後半で超過死亡の話がでてきますが、その数値は、11月までで1万人~5万7千人となっています。
7.朝日新聞やNHKで報道された超過死亡数は、間違っている可能性が高い。
この問題は、以前にアゴラで解説しました。
8.超過死亡数と過少死亡数の関係は?
国立感染症研究所では、超過死亡と過少死亡のデータを扱っています。 しかし、国立感染症研究所の解説では両者の関係がよく分かりません。 私は、次のように考えています。
この問題は、以前にアゴラで解説しました。
9.厚労省に「アドバイザリーボードの超過死亡データは間違っているのではないか」と質問してみた。
この質問の顛末はアゴラで報告しました。
10.超過死亡を調べる時は、GoogleよりBingの方が有用
Bingで検索した方が、多様な観点のWebサイトを見ることができます。 ただし、玉石混交であり、真偽は自分で判断する必要があります。
11.超過死亡に言及しているWebサイトを見る時には、その計算方法またはデータの取得方法が明示されているか要確認
計算方法やデータ取得方法が明示されていないサイトの解説は、多くの場合信用できません。
【参考論文】 国立感染症研究所が提示する超過死亡数を解釈する場合の注意点