マイナ保険証の誤登録問題の本質はヒューマンエラーではない
以前に マイナ保険証の誤登録問題 について解説しました。 この問題の本質は、「ヒューマンエラー」の問題というよりは、 「紐付けの手順が不適切である」ことが問題なのです。 ネットメディアの記事などを見る限り、理解できている人があまりいないため、 もう一度詳しく説明してみることにしました。
まず、 マイナ保険証の申請はマイナポータルより 行います。
手順は次の通りです。
この時点で、マイナンバー、氏名、性別、生年月日、 住所の申請者の5つの基本情報はすべて揃っています。 問題は、これらの基本情報が保険者(健康保険組合など)に通知される時に、 マイナンバーのデータは何故か消去され、氏名、性別、生年月日、 住所のみの情報が保険者に通知される点です。
ここで、第1の疑問です。
マイナポータルでは、「申請者が、どの保険者から保険証を発行してもらっているか」の情報を どのようにして取得しているのか?
これは、マイナポータルを管理するデジタル庁の職員が手動で調べるしかありません。 何らかのデータベース(レセプトのデータベース?)を用いて保険者を同定していると推測されます。 何千万人も申請するのですから、膨大な作業量です。
次に第2の疑問です。
マイナポータルより、どのようにして保険者に通知するのか?
おそらくe-mailで通知しているのではないかと思います。 e-mailで通知する場合、マイナンバーと氏名を一つのe-mailで送信するのはセキュリティの観点より問題があると考え、 マイナンバーのデータを削除して通知することにしたと、私は推測します。 その結果、保険者は、氏名、性別、生年月日、住所の基本情報よりマイナンバーを手動で調べ同定するはめになったのです。 ここで、また膨大な作業が発生します。しかも、ヒューマンエラーがおきやすい作業です。
では、どうすればよいのか?
一つのやり方は、マイナポータルでの申請時に保険者番号の入力を必須とすることです。 保険者番号というのは、保険者に割り振られたID番号であり、保険証にはこの保険者番号が必ず記載されています。 下のように、保険証のどこに保険者番号が記載されているかを、 入力時に図で明示しておけば、問題なく入力できると思われます。
もう一つ変更するべき重要な点は、申請後は、デジタル庁の職員ではなく、保険者の職員がその後の処理を行うようにするという点です。 保険者には、マイナポータルにおいて自らに対する申請データを確認できるIDとパスワードを配布して、 1日1回申請者の有無を確認するように、デジタル庁が保険者に指示すればよいわけです。 こうすればe-mailによる通知も不要となります。
この時点で、保険者の職員は、マイナンバー、氏名、性別、生年月日、住所と申請者のすべての情報を 取得できています。 あとは保険者の有する保険証のデータベースで申請者を同定して、氏名、性別、生年月日、住所が一致していれば、 紐付けて終了です。
この場合でも、申請者の同定というプロセスは必要となります。 ただし、大きく異なる点があります。 現状では、国のマイナンバーのデータベースを用いて同定しています。 このデータベースの登録人数は国民全員なので1億2570万人です。 一方、私が提案する方法で使用する保険者の大半のデータベースの登録人数は数千人~数十万人と、 国のマイナンバーのデータベースと比べて遥かに規模の小さいデータベースです。
規模の小さいデータベースでは、同姓同名の人が存在する確率は極めて低く、 それに伴うヒューマンエラーの確率も当然低くなります。 また、私が提案する手法では、マイナンバー自体は正しく取得できているため、 保険者は自らのデータベースを用いて正しく紐付けられたかどうかを容易に検証可能という点も重要です。
以上のように手順を変更すれば、以下の3つの膨大な作業を省くことが可能となります。
1.デジタル庁の職員が保険者を同定する。
2.デジタル庁の職員が申請者データを保険者に通知する。
3.保険者の職員が申請者のマイナンバーを調べる。
デジタル庁の職員と保険者の職員の負担が大幅に減少します。 ヒューマンエラーが発生する確率も低下します。 デジタル庁の職員は、雑用みたいな作業から解放されて、システム開発などの本来の業務に専念できるようになります。
なお、デジタル庁もやっと手順に問題があることに気づいたようです。 河野大臣は次のように国会で答弁 しています。
ただし、この登録というのは、就職などで新しく保険証を取得した時の話と思われます。 既に保険証を有している人には当てはまりません。 「これから新しい誤登録というのは起きない」と明言してしまって本当に大丈夫なのでしょうか?
最後に、氏名の不一致問題に言及しておきます。
あまり知られてはいませんが、マイナカードの氏名と保険証の氏名が完全に一致しない場合が実際にあるのです。 完全に一致していませんとプログラムでチェックすることができません。
具体例をあげますと、マイナカードの氏名が「髙木 一郎」に対して、 保険証の氏名が「高木 一郎」ということが有り得るのです。 おそらくマイナカードは戸籍と同じ漢字でなければならないという規則があるのに対して、 保険証の場合は、そのような規則がないか又は徹底されていないためと推測されます。 今後は、保険証の氏名も戸籍の氏名と完全に一致しなければならないという省令を作り、 各保険者にその省令を遵守させる必要があります。
実は仮にそのような省令を作ったとしても漢字の氏名を完全に一致させることは、おそらく不可能。
「市区町村が使用する外字の実態調査」報告書 によると、 戸籍統一文字に一致する外字は約 7 万文字です。 住基ネット統一文字に一致する外字は約 24 万文字です。 マイナンバーの統一文字に一致する外字文字数については記述されていませんが、 おそらく数万文字に及ぶと推測されます。 したがって、外字を含む漢字の氏名の完全一致はほぼ不可能ということになります。
では、どうすればよいのか?
正解は、フリガナを用いることです。 ところがマイナカードには氏名のフリガナが記載されていません。 これは、戸籍の氏名にフリガナが記載されてないからと考えらます。 戸籍のフリガナを必須とする法律は2023年6月に可決され 、2024年に施工されることになりました。 なんとものんびりした話です。 マイナンバーと銀行口座を紐付けるにもフリガナは必要です。
1995年にWindows95が発売され、今後あらゆるデータがデジタルで管理されていくことは明白でした。 そのための準備を少なくとも2000年頃より開始するべきでした。 その筆頭が、戸籍のフリガナです。 十分な準備をせずにDXを推進したりすれば現場が混乱するのは必定です。
台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン氏のように、ICTに精通し、現場の人の声に謙虚に耳を傾け、 俯瞰的に物事を見られる人物に十分な権限を与えてこなかったことを、日本政府は猛省するべきです。
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