紅麹コレステヘルプによる腎障害とコロナワクチンによる腎障害とでは、なぜ厚労省の対応が異なるのか?
紅麹コレステヘルプ内服後の腎障害が多数報告され、 サプリメントの安全性を揺るがす大問題となっています。 厚労省はこの問題に迅速に対処 しています。 厚労省は速やかに死亡事例を発表し、 食品衛生法に基づいて廃棄命令などの措置を取るように大阪市に通知しました。 マスメディアもこの問題を大きく報道しました。
一方、一部の人はこの厚労省の迅速な対応に疑問を抱いています。 コロナワクチン接種後の腎障害は多数報告されており、 多数の事例が救済認定 されています。 しかしながら、コロナワクチン接種後の腎障害については注意喚起がなされたり、 テレビや新聞で報道されたりすることは、ほとんどありません。 すなわち、紅麹コレステヘルプ内服後の腎障害とコロナワクチン接種後の腎障害とでは、 厚労省やマスメディアの対応があまりにも違うのではないかという疑問です。
今回の論考の目的は、この厚労省の対応の差に問題があるかどうかを明らかにすることです。 結論を先に言いますと、「厚労省の対応に大きな問題はなかった」と私は判断します。 その理由を順を追って説明してみたいと思います。なお、このサプリは機能性表示食品に分類されていますが、 実質的には医薬品に近いサプリであるため、 当論考では薬剤として扱いました。
紅麹コレステヘルプによる腎障害は、ほとんどFanconi症候群 とされています。
Fanconi症候群は、遺伝性と後天性とに分けられます。 中高年に発症した場合は後天性です。 後天性Fanconi症候群についての解説を MSDマニュアル より引用してみます。
中高年でFanconi症候群と診断した時に最初にするべきことは、 原因薬剤を見極めることなのです。 ある時期よりFanconi症候群発症者が急増して、 すべての発症者が紅麹コレステヘルプを内服しているのであれば、 それが原因薬剤ではないかと推測することは必定です。 原因薬剤が紅麹コレステヘルプである可能性が高いわけですから、 厚労省の迅速な対応は適切です。
次に、コロナワクチンの腎障害について考えてみます。
2024年5月14日公表分 までで、腎機能障害は117件救済認定されています。 様々な腎機能障害が認定されていますが、比較的多いものは、IgA腎症が42件、 ネフローゼ症候群が33件でした。
IgA腎症について MSDマニュアル より引用してみます。
薬剤性の可能性については全く記述されておりません。
ネフローゼ症候群について MSDマニュアル より引用してみます。
薬剤性の可能性については記述されておりません。ただし、ネフローゼ症候群の場合は 薬剤性の報告 はあるため、 可能性は高くはないがゼロとは言えません。
以上より、コロナワクチン接種後に発症した腎障害は、 紅麹コレステヘルプのそれのように一つの疾患に集中して発症いるわけではなく、 薬剤が原因である可能性の高い疾患が発症しているわけでもありません。 したがって、厚労省の対応に差が生じたとしても不思議ではありません。 薬剤が原因で発症する可能性が高い疾患の報告が急増した場合と、 可能性が低い疾患の報告が急増した場合とで、 厚労省の対応が異なることに大きな問題はありません。
コロナワクチン接種後の多数の腎障害の事例が救済認定されたということは、 因果関係が認められたということだから、紅麹コレステヘルプのように厚労省は対応するべきだという 反論があるかもしれません。 しかし、救済制度の認定基準は厳密なものではなく、偶発的事象が含まれる可能性のあるゆるい認定基準なのです。
因果関係ありとするには、副反応疑い報告制度でα評価認定される必要があります。 腎障害のα評価事例が増加しなければ、 厚労省が紅麹コレステヘルプのように対応することはないと考えられます。 現時点では、IgA腎症もネフローゼ症候群もα評価事例は1件もありません。 非死亡例のα評価事例は、 「薬機法に基づく製造販売業者からの副反応疑い報告状況について」 より調べることができます。
α評価されるには何が必要か?
薬剤が原因である可能性が高くない腎障害の場合には、疫学的エビデンスが必要と私は考えます。 単に内服後の腎障害の報告が多いという事実のみではエビデンスとして不十分です。 具体的には、コホート研究や シグナル検出 によるエビデンスが必要です。 それらのエビデンスがなければ、「重大な懸念」と厚労省は認めませんし、注意喚起もしません。
今後、腎障害の疫学的エビデンスが報告される可能性は?
コロナワクチンの疫学的研究は多数発表されていますが、 現時点で腎障害に関して関連性が認められたという報告は、私が知る限りにおいてありません。 ただし、その疫学的手法は、ほとんどがコホート研究です。 コホート研究のみで分析することの問題点は 以前の論考 で解説しました。 コホート研究で有意差が認められなくても、 SCRIデザインであれば有意差が認められることはあります。 したがって、腎障害の疫学的エビデンスを得るためには、SCRIデザインによる研究が今後、多数実施される ことが必要であると、私は考えます。
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