「オミクロン株の感染力は実は弱いかもしれない」という意外な事実
「細胞レベルの実験においてオミクロン株は他の変異株と比べてやや感染効率が低い」 という実験結果が論文で発表されました。 つまり、オミクロン株はデルタ株より感染力が弱い可能性が実験で示されたのです。 多くの人は、この事実を非常に意外だと感じると思われます。 一方、私はこの話を聞いて、少し腑に落ちました。 実は、私はオミクロン株の感染力に、以前より疑問を抱いていたのです。
私が疑問を抱いた契機は2つあります。 一つ目は、 Worldometer のグラフで、オミクロン株の感染率がデルタ株のそれより明らかに低い国が複数存在していることです。 2つ目は、 西浦氏が、オミクロン株の基本再生産数は2台で、デルタ株の約5より低い可能性があると、今年の1月に推定していたことです。 日本のマスコミは実効再生産数の報道ばかりで、基本再生産数については、ほとんど報道していません。 実効再生産数は、ウイルス自体の感染力を意味していません。
ここで、基本再生産数と実効再生産数の概念を確認しておきます。 感染研の解説 より引用します
次に、実効再生産数の説明を見てみます。
感染の1つの波のなかで実効再生産数は変動します。 その際に、実効再生産数のベースは、感染対策やワクチン接種などの免疫力により決まります。 感染対策を弱めれば実効再生産数は大きくなります。 ワクチン接種率が上昇すれば、小さくなります。 ファクターXなどが存在すれば、小さくなります。 ワクチン感染予防効果が低下すれば、大きくなります。
感染拡大のスピードは、 世代時間によっても変動 します。 世代時間とは、「感染源となる感染者が自分が感染してから2次感染を起こすまでの時間間隔」のことです。 オミクロン株の感染拡大のスピードが速かった理由の一つが、 オミクロン株の世代時間がデルタ株のそれより短かったことです。
以上をまとめますと、次のようになります。
ここでは、ワクチン接種に着目してみます。 ワクチンを接種すると、直後は感染予防効果が高くなるため、実効再生産数は小さくなります。 しかし、接種後時間が経つと、感染予防効果は徐々に低下しゼロに近づいていき、 その時点で波が生じた時の実効再生産数は徐々に大きくなります。 アドバイザリーボードのデータ修正の件 で、2回接種後6か月以降の感染予防効果はマイナスである可能性が示されました。 これは、第6波での急速な感染拡大に、 感染予防効果のマイナス化が大きく関与した可能性を示唆しています。
通常は、感染対策や免疫力により、実効再生産数は基本再生産数より小さくなります。 ただし、ワクチン感染予防効果がマイナスとなると因子3は逆効果となり、 実効再生産数は基本再生産数より大きくなってしまうのです。
次に、論文で発表されている基本再生産数と実効再生産数を見てみます。 公表値をまとめた論文 と 査読前の韓国の論文 のデータをまとめて表にしました。
基本再生産数は、論文によりかなりバラツキが認められます。 基本再生産数が高いから、オミクロン株の感染力が強いと、単純には言えないことが分かります。
注目すべきは、最後の表の論文2のデータです。 基本再生産数の比率が0.25~3となっています。 比率0.25は、オミクロン株の基本再生産数がデルタ株のそれの4分の1であることを意味します。 つまり、オミクロン株自体の感染力はデルタ株よりかなり低い可能性を示しているわけです。 もちろん、比率は2~3.76の可能性もあるわけで、事実として確定はしていません。 その可能性も有り得るという話です。
オミクロン株の基本再生産数が小さいことが事実だとすれば、 オミクロン株が急速に拡大した原因は、ウイルス自体の感染力の問題ではなく、 人間側の問題、即ちオミクロン株に対する免疫力の問題ということになってきます。 免疫力の問題というのは、ワクチン感染予防効果がゼロに近いかマイナスであるということです。 オミクロン株は免疫をすり抜けて感染すると言われていますが、 実際には免疫により加速されて感染する可能性があるわけです。 なお、世代時間の短縮も急速拡大の原因ですから、正確に言えば、 感染予防効果のマイナス化と世代時間の短縮の2つが主因の可能性があるということになります。
西浦氏は、南アフリカの分析より、オミクロン株の基本再生産数はデルタ株のそれより低いのではないか、 と推定しました。論文2の比率0.25は、その見解を支持するデータです。
次に、 Worldometer のグラフを見てみます。
まず、日本とイスラエルのグラフです。 オミクロン株の感染率がデルタ株のそれより非常に高いことが分かります。
次に、モロッコとイランのグラフです。 オミクロン株の感染率がデルタ株のそれより低いことが分かります。
最後に、Worldometerのデータより、日本、アメリカ、イギリス、イスラエル、南アフリカ、 モロッコ、イラン、インドネシアのデルタ株およびオミクロン株の感染率、死亡率、致死率を計算して表にまとめました。 感染率は、10万人・1日あたりの感染者数です。 死亡率は、10万人・1日あたりの死亡者数です。
最後の表は、オミクロン株の率をデルタ株の率で割った比率の表です。 感染率・死亡率を国ごとに比較する場合は、バイアスが多いため、その解釈は簡単ではありません。 一方、一つの国で2つの波の感染率・死亡率を比較する場合は、バイアスが少なくなり、その解釈が容易です。 また、その比率を国ごとに比較し分析することが容易となります。
日本、アメリカ、イギリス、イスラエルをグループA、南アフリカ、モロッコ、イラン、インドネシアをグループBとします。
まず、感染率の比率です。 グループAでは、3.4~10.6であり、オミクロン株の波はデルタ株の波より大きかったことを示しています。 一方、グループBでは、0.76~1.14であり、小さいか同等であったことを示しています。
次に、死亡率の比率です。 グループAでは、1.6~5.6であり、オミクロン株の死亡率はデルタ株のそれより高かったことを示しています。 一方、グループBでは、0.20~0.43であり、死亡率は低く半分以下であったことを示しています。
最後に、致死率の比率です。 グループAとグループBでは、あまり差がありませんでした。
グループAとグループBでは、感染率と死亡率の比率で大きな差が生じています。 感染率・死亡率は、基本再生産数、感染対策、免疫力、世代時間により決まります。 基本再生産数と世代時間は、国による差はごく僅かと考えられます。 2021年秋以降は、ほとんどの国がウィズコロナであり、感染対策に大きな差があるとは考えられません。 残る要因は、免疫力しかありません。 免疫力の差により、各国の比率の差が生じたと考えるのが自然です。
免疫力が劣化すれば比率は上昇し、強化されれば低下します。 グループAでは、比率が高いため、 免疫力の劣化が原因と考えざるを得ません。 つまり、オミクロン株に対するワクチン感染予防効果のマイナス化です。
グループAとグループBにおいて免疫力の差が生じた理由は、デルタ株流行時のワクチン接種率ではないかと、 私は推測します。 ワクチン接種後には一時的に感染予防効果は上昇しますが、 6か月後には激減します。 マイナスの可能性もあります。 デルタ株流行時のワクチン接種率が高かった国ほど、 オミクロン株流行時に感染予防効果がマイナスの人が多かったのではないかと推測されるわけです。
なお、モロッコの接種率はやや高めですが、 アストラゼネカ、シノファーム、ファイザー、ヤンセンの4種類のワクチンが使用されている ため、グループAの国と単純な比較はできません。 また、接種率が低い国は自然感染の確率が高くなるため、 免疫力が低下しなかった可能性もあります。
3回目接種で再び感染予防効果は上昇したと考えられますが、極めて短期間で低下したのではないかと、私は推測します。 オミクロン株の場合は発症予防効果は検証されていますが、 感染予防効果は、ほとんど検証されていません。 生データを用いた不完全な検証が行われているのみです。 したがって、オミクロン株流行時に、実際どの程度感染が予防できていたのかは不明です。
デルタ株流行時のワクチン接種率が低いと、感染率と死亡率の比率が必ず低くなるのかというと、 残念ながら、そうではありません。 例外となる国が複数存在します。 接種率が低い国で、なぜ比率が高い国と低い国に分かれるのか、現時点では不明です。 今後の検討課題です。 ただ、デルタ株流行時のmRNAワクチン接種率が高いと、私が調べた限りでは、例外なく比率は高く、1を大きく超えます。 それらの国では、何らかの理由でオミクロン株に対する免疫力が劣化またはマイナス化していたのは事実ではないかと、 私は考えます。
なお、今回の論考により、コロナワクチンが無効と主張するつもりは全くありません。 以前にも言いましたが、コロナワクチンの有効性は、重症化予防効果により判断されるべきものと、 私は考えています。
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