お届けinfo「QRコードを用いた出席管理システムの開発」

本記事は第84回情報処理学会 第84回全国大会で実施された企画「お届けInfo」で、企画参加者の依頼により執筆された記事です。

ご紹介するのは、2022年3月3日(木)に学生セッション「教育支援システム(2)」で発表された「QRコードを用いた出席管理システムの開発」(著者:◯松本幸大,井口信和,谷口義明,越智洋司(近畿大)、発表番号:1ZL-03)[1]です。

一言で紹介すると

出席管理の手間軽減,不正防止,感染症対策を目的として,学生が座席に用意されたQRコードを読み込み出席を登録すると,教員がWebの画面で座席の利用状況や出席者のリストを閲覧できるシステムを開発し,少人数の授業で実際に利用できることを確認しています.

研究の背景

研究の背景として日本の大学における出席管理に対する要求と課題があげられていました.

日本では多くの大学で大学設置基準による単位制を敷いており,大学設置基準によって単位を認定するための授業時間が定められています.そのため,大学では授業時間を管理するために出席回数を規定しており,出席回数を管理する必要があります.加えて,新型コロナウィルスの流行によって,対面授業において感染症対策が必要となっています.

従来の出席管理の課題

従来の出席管理として,出席カード方式とICカードシステム方式の2つ,及びそれらの課題が紹介されました.

出席カード方式では授業中に出席カードの配布や記入をおこなうため,授業に使える時間が減ったり,回収した出席カードを教員が集計する手間が掛かったり,友人に代わりに出席カードを提出してもらう代返と呼ばれる不正行為の対策が必要になるなど課題があります.一方ICカードシステム方式では集計の手間などがなくなりますが,カードリーダーの順番待ちが発生する,登録だけして授業に参加しないという不正の対策が必要とるなどの課題があります.

表1 従来の出席管理の方法とその課題

不正対策

関連研究として不正対策についての研究とその課題が紹介されました.出席管理を正しくしなければいけないという要求から,不正対策が研究の重要なポイントであり,解決すべき課題としては,手間が少ない方法で確実に教室にいることを確認しなければいけないと理解しました.

表2 不正対策についての研究とその課題

大学での感染対策

大学でおこなわれている感染症対策として以下の3つが紹介されていました.

  • 教室内での密集防止

    • 使用可能座席の制限

  • 感染者の行動把握

    • 授業の出席記録

  • 接触者の特定

    • 使用座席の記録

研究の目的

従来の出席管理方式では,手間が掛かったり,不正がおこなわれたりと課題があり,さらには感染症対策も求められている背景から,発表者らは次の3つの課題解決を目的としてQRコードを用いた出席管理システムを開発しました.

解決すべき課題

  • 出席管理の手間軽減

  • 不正防止

  • 感染症対策

開発したシステムでどうやって課題を解決したか

出席管理の手間軽減

各座席に用意したQRコードを学生が自身のスマートフォンで読み取り,学籍番号を入力することで出席を登録できるようにしました.QRコードには教室や座席番号が含まれているので,学生は学籍番号を入力するだけで登録できます.また,登録したデータはサーバに収集されます.このシステムによって,出席カードの様に配布と回収,集計の手間が不要になりました.

図1 出席サーバに登録する機能(発表資料13ページよりキャプション)

不正防止

教員が出席状況確認ページと実際の座席利用状況を比較することで不正登録を発見できるようにしました.出席状況確認ページには,座席表に登録された出席者の学籍番号が表示されるため,学生が問題を解く時間やノートをとっている間に確認ができるとのことです.

図2 出席状況確認ページ(発表資料14ページからキャプション)

感染症対策

出席登録を各座席で行えることから,ICカードシステムの様に出席登録時に密集する必要がなくなります.また,QRコードを利用可能な座席にのみ用意することで,密集しないようコントロールできるようにもなっています.さらに座席毎に出席を管理しているため,接触者の特定も容易になると考えられます.

検証方法

発表者らは2つの実験を通して,開発したシステムの有効性を検証しています.

実験1

学生が出席登録をする際の時間的負担を測定する為に,大学生6名が出席登録をする時間を計測しました.結果は平均で約14秒であり,発表者は時間的負荷は少ないと判断しています.

実験2

実際に授業で使用可能であるかを確認する為,収容人数16名で受講者が9名の授業にて2回開発したシステムを利用し,出席状況が確認できることと,授業開始前に出席登録が完了できることを確認しました.発表者は少人数の授業で利用可能であることが確認できたとしています.

質疑応答

最後に質疑応答の時間で3つの質疑応答がおこなわれていましたので紹介します.(質問と回答は紹介者の方で要約していますので,本来の質問と回答からは少し変わっているかも知れません)

Q1.同じ座席に2名が登録しようとした場合どうなりますか?(1名が正規の登録,1名が不正な登録をしようとしている状況)

A1.同じ座席に2名以上登録ができず,先に登録した方が有効になる.不正な登録が先におこなわれた場合は,教員に連絡して不正な登録を削除してもらい,登録をする.

Q2.不正な登録は検出できるのか?

A2.システム的には不可能.2人分の出席を登録した場合は出席状況確認ページで座席利用と一致しないので気づけると思う,但し,わざわざ他人の学籍番号を登録した場合は気づくことができない.

Q3.タッチで済む従来のシステムに対して14秒の時間的負担は大きいのでは?

A3.登録作業はタッチで済むカードリーダーの方が早いが,カードリーダーの場合は授業開始前に順番待ちが発生しており,待ち時間を考えれば14秒の時間的負担は小さいと考えている.

紹介者の感想

座席表に出席状況を表示するというアイデアが良いと思いました.ただ,不正対策として教員の目視チェックに頼っている点が大人数の授業でどうなるかが気になりました.

発表者も今後の予定として大人数の授業で追加実験するというのをあげられていたので,是非100人超の講義でどうなるのか試して頂きたいと思いました.

意外と何回か使うことで,教員も座席の利用状況確認になれて問題無く使えるのではないかと思います.また,難しい場合もどうやって100人超の大規模授業で不正防止をおこなうかという新しい研究ができるのではと思います.

是非,追加実験の結果も発表頂きたいと思いました.

記事内の参考文献

  1. 松本幸大, 谷口義明, 越智洋司, 井口信和 :  QRコードを用いた出席管理システムの開発, 情報処理学会第84回全国大会, 1ZL-03, (2022).

  2. 靹大輔 : 携帯電話の GPS 機能を用いた出席管理システムの有効性に関する考察--近畿大学での測位データ分析を基に, ,商経学叢, vol. 58, no. .2 ,pp. 257-267 (2011).

  3. 先名健一 : 署名付き QR コードを用いた出席登録/成績確認システム, 通信講演論文集2,  (2018)

  4. 鵜川義弘, 福井恵子, 上山由果, 安藤明伸, 川修行, 鉄本良 : 無線 LAN アクセスポイントを用いる出席管理システム, 宮城教育大学情報処理センター研究紀要: COMMUE, no. 25 , pp. 41-46 (2018).

お届けInfo デリバリー担当:
柴田 晃(フェンリル株式会社/ 大阪市立大学)/note記事デリバリー

お届けInfo メタ担当:

荒川豊(九州大学)/取材依頼




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