僕の愛するロッカー達8
ワイルド・サイドを生き抜いた男─ルー・リード
寒い・・・・・・そう、どこまでも底冷えのするほどガラーンと冷えきった部屋、それもコンクリートの部屋がいい。その部屋の真ん中あたりにガス・ストーブを置き、あくまでも青白いままの弱い炎にあたりながらブラック・コーヒーかジンを飲む。ジンがきつい人はジントニックでもいい。間違ってもジュースやビールではない。時間は夜、できれば真夜中の3時頃。他人は誰もいず、あなたひとりだ。服装はどんなボロでも構わないが、できれば黒か銀か紫色の服を着ていたい。黄色だけはさけたい。テレビは消すか、あるいは番組の終わってしまった後の真白い画面のまま音量はゼロにする。これが、このルー・リード『ロックン・ロール・ダイアリー’67〜’80』を聴く場に僕がイメージする最もフィットした”ホワイト・ライト・ホワイト・ヒート”空間の創出の一例である。レコードに針を降ろす。ベッドに横になりながら聴いてもよい。歌詞カードを読みながら聴くのは2回目からの方がいい。とにかく音量は普通か少し小さめにしながらルー・リードの声を部屋中の冷たい空気と暖かい空気に放電させる。パラパラと本をめくりながら聴くのもよい。画集なら合田佐和子とか金子国義やハンス・ベルメール、タマラ・ド・レンピッカ・・・・・・、写真集ならマン・レイやヘルムート・ニュートン、ダイアン・アーバス、ラルフ・ギブソンなど・・・・・・、読み物ならウィリアム・バロウズの『ジャンキー』、ミシェル・レリスの『夜なき夜、昼なき昼』、ヒューバート・セルビーjr.『ブルックリン最終出口』、ボリス・ヴィアン『女たちには判らない』、ジャン・コクトー『阿片』、あるいはルイ・フェルディナン・セリーヌの『夜の果ての旅』とか『ジョナス・メカスの映画日誌』あたり・・・・・・、 雑誌なら「New York Rocker」や「Interview」、漫画なら宮西計三『ピッピュ』、宮谷一彦『ライク・ア・ローリング・ストーン』、『花輪和一作品集』等々・・・・・・。テーブルの脇におもちゃの銀のピストルかなんぞ置いてあるのもいい。さて煙草は・・・・・・!?できればモノホンの”飛び道具”といきたい所だが、最近新聞を賑わした某ロック・シンガーの例もあることだし、ズバリ「ヘロイン」なんて曲もあるものの、ここはゴールデン・バットでもブラック・ラシアンでもハイライトでも好きにしていただくことにしよう。さあどうだ、もうあなたの部屋の中はルー・リードの歌声によって“白く光り、白く燃え”出しただろうか・・・・・・“ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト”だ。“ペイル・ブルー・アイズ”のスウィート・ジェーン”に電話しろ、“僕は待ち人”さ。
ジャケット一杯に大写して映っているルー・リード・・・・・・心なしか少し太ったようにも見えるが、その瞳の奥に見せる意志の強さと優しさと言えるかも知れない包容力のようなもの・・・・・・・確実に歳をとったと言うことだが、以前の彼のジャケット・ポートレートに見られた虚無と倦怠のまなざしや冷笑的なへの字の唇ではないある種の風格と言うか、確実に自己の内面世界に磨きをかけて来た男の自信のようなものがみなぎっているようだ。裏ジャケットのポートレートではまるで以前のチンピラ不良ロッカー、ゲイ・ボーイ、麻薬のプッシャーと言ったイメージとはうって変わって作家か性格俳優と言った重量感を感じさせている。
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