駆け出し百人一首(14)今はただ強ひて忘るる古を思ひ出でよと澄める月影(建礼門院右京大夫)

今(いま)はただ強(し)ひて忘(わす)るる古(いにしへ)を思(おも)ひ出(い)でよと澄(す)める月影(つきかげ)

建礼門院右京大夫集 323番

**訳:今はとにかく、昔の思い出を無理に忘れようとしている。それを思い出しなさいと言わんばかりに澄んで輝いている月の光であるよ。 **

The shining moon reminds me of the old memories, which I have struggled to forget.


彼女は清盛の娘・建礼門院(高倉天皇中宮、安徳天皇を産む)に仕え、その宮中の暮らしの中で、似絵の藤原隆信、そして平資盛と出会いました。特に資盛とは情熱的な仲だったようで、平家が都落ちする際、資盛から万一の際の弔い事などを頼まれています。
結局、資盛は源平合戦の中で命を落とし、彼女は悲しみに暮れます。絶望の中で、せめて資盛の来世が安らかであるよう供養することが自分の務めである、と考えるようになり、何とか日々を過ごすのでした。
そんな中、才を見込まれ、宮中に再出仕することになります。しあわせな日々を過ごした場所であるだけに、昔を思い出して辛いのでした。


文法事項

思ひ出でよ:ダ行下二段活用「思ひ出づ」命令形
澄める:マ行四段活用「澄む」已然形(命令形)+存続「り」連体形

古文単語

月影:月の光。「かげ」には現代語の「影」(陰)以外に、「光」「姿」の意味がある。



サポートは、書籍の購入、古典の本の自費出版に当てさせていただきます。